×

原発再稼働へ舵を切るなか「放射線などの理解は?」原子力防災に欠かせぬ課題・福島 

2025年3月13日 18:53
原発再稼働へ舵を切るなか「放射線などの理解は?」原子力防災に欠かせぬ課題・福島 
ウクライナ情勢や世界的な原油価格の高騰もあって日本は今、原発再稼働へ舵を切りエネルギー政策は転換点を迎えています。
そこで忘れてはならないのは福島の原発事故の教訓です。
再稼働が進む日本の原子力防災にある視点が欠けていると指摘する専門家がいます。2024年に原発が再稼働した宮城県女川町の取材から課題を探りました。

全国各地の原発がいま再稼働しています。
■原子力規制庁 片山啓長官
「東京電力福島第一原子力発電所事故の反省・教訓・初心を忘れずに、継続的な安全性の向上を追求したい」
原発の安全性の向上が強く求められるなか、専門家が指摘するのは…
■災害情報論が専門の東京大学大学院 関谷直也教授
「福島原発事故でどういう避難が行われたか、そこを把握して生かそうとしていないという点は大きい」

原発事故当時、浪江町で撮影された1枚の写真。避難する住民の車で道路は渋滞…。混乱に加え、地震や津波で道路が壊滅状態となるなか、住民の避難ルートをどう確保するのか。原発事故で突き付けられた課題でした。
防災に詳しい東京大学大学院の関谷教授が指摘するのは…。
■災害情報論が専門の東京大学大学院 関谷直也教授
「いま再稼働している地域の原子力発電所の避難においては、どこかの道路が閉塞する、通れなくなるということを前提とした計画を作っているところはあまりない」

2024年、能登半島地震でも志賀原発の周辺の道路が寸断。避難ルートが機能しなくなる恐れが指摘されています。
ヘリや船を使った避難も手段の1つとされていますが、能登半島地震をみるとそもそも、ヘリポートまで住民がたどりつけるかどうか…。
港も津波で被害にあい、避難計画の見直しが迫られています。
■関谷直也教授
「(原発事故が)地震津波などと同時発生する場合は考えられて然るべき。そこを十分に考えていないというのは、東日本大震災の教訓が十分に生きていないと私は言うべきだと思う」

課題が残る「住民避難」。ただその考え方もこの14年の間に大きく変わっています。
2024年10月に再稼働した女川原発がある宮城県・女川町。町の防災を担当する職員の水沼さんです。
■宮城・女川町企画課水沼浩之さん
「避難だけが原子力防災の目的ではないということを理解してもらうこと、避難しなくても良いケースがあるということ」

世界中に衝撃を与えた原発事故。放射性物質の拡散を予測し住民の避難行動にも役立つはずだったSPEEDIをはじめ政府の情報公開の在り方も問われたこの事故。多くの人が「できるだけ早く」そして「遠くに」と避難し放射性物質から身を守りました。しかし、その過程で命を落としたケースも…。
国はそうした反省も踏まえ、住民避難のあり方を見直したのです。

原発から5キロ圏内の住民はすぐに避難を始める一方、30キロ圏内の住民は自宅や避難所などに屋内退避をし線量が基準を超えた場合避難するというもの。
放射性物質が拡散している間は「屋内に逃げる」。無理な避難によって被ばく線量が増えたり、災害関連死のリスクが高まったりするのを防ぐ狙いがあります。
ただ、その実効性の点では不安な部分もあります。
■女川町企画課水沼浩之さん
「正しい防護措置をとってもらうための住民の知識っていうのはまだ専門的な思い込みもあると思うが十分ではないだろうなと思っている」
放射性物質という見えない恐怖を前に落ち着いた避難ができるのか。福島の事故を振り返ると楽観視はできません。専門家は…。
■東京大学大学院 関谷直也教授
「原子力防災を実現するためには、線量や原子力、放射線に対する理解は必ず必要だと思う。福島原発事故を経験し14年経っても福島県内の人たちのリテラシーは上がったと思うが、県外においては、理解は十分に進まなかったと思う」

国が示した避難の方針について「知らない」などと答えたのは7割以上。
原発事故が起きた時、自分がとるべき行動を理解しているかについては、半数以上が「理解していない」と回答しました。

福島に住む私たちが、原発事故からの復興を目指してそうしたように。本当の意味の「原子力防災」は1人1人が原発や放射線について 理解を深めること。関谷教授はこの理解を広めることは欠かせないといいます。
■東京大学大学院 関谷直也教授
「原子力防災もそうですし、処理水や除染土の問題、さまざまな問題について放射線に基づいて議論することがまだできていない、何が問題だったのか、内部被ばく・外部被ばくを避けるために福島県民がなぜ事故後さまざまなことを苦労してきたか。それを伝えることが一番重要」

未曾有の原発事故から14年。日本が「原発再稼働」という道を進むなか、その町に住む人々の命と暮らしを守るために。あの日の教訓や経験を、福島に住む私たちも伝え続けなければなりません。
最終更新日:2025年3月13日 18:59