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【特集】まもなく開業する「街なかスタジアム」 隣接する基町アパートの住人の思いとは…

2024年1月31日 16:19
【特集】まもなく開業する「街なかスタジアム」 隣接する基町アパートの住人の思いとは…

サンフレッチェ広島の新たな本拠地となるスタジアムが、2月1日に開業します。市街地の中心部という好立地が特徴のこの施設について、周辺住民の思いを取材しました。

人々を支え続けている「基町アパート」

広島市の中心部にある基町アパートでは現在、2471世帯が暮らしています。基町ショッピングセンターにある喫茶店『べリア』の店主で、基町で生まれ育った山本満晴さんは62歳。こだわりのコーヒーが自慢です。

■山本満晴さん
「僕の家は一軒家でした。半分バラックみたいでしたけどね。」

原爆で壊滅した基町地区は、戦後間もなく、戦災で焼け出された人たちの為に、公営住宅を建設。しかしその後も、許可なくバラックを建てる人が絶えませんでした。一帯は路地も狭く、大規模な火災が頻発。そんな事態を受け、新たに基町アパートが着工したのは、1969年でした。

■山本満晴さん
「(基町アパート)ここに入ってきたのが、中学校の1年生ぐらいだった。基町アパートができたばっかりのころは、公営住宅は憧れみたいなものがあった。」

母親が営む喫茶店が立ち退きとなり、ここに移り住んだと言います。

■山本満晴さん
「基町で(母が)喫茶店をしていたから都市計画に協力して、抽選する権利をいただいて。母が抽選してクジでここが当たった。」

山本さんの本業は美術作家です。店先には芸術作品の数々が並んでいます。今は、母親に代わって店頭に立ちますが、コロナ禍の頃から、ここをアトリエとしても使っています。そんな生活の舞台・基町が今、大きく変わろうとしています。

「街なかスタジアム」の建設には反対の声も…

すべての始まりは、間もなく開業するサッカースタジアム。

■山本満晴さん
「世界的にめずらしいでしょ。住宅の隣りにサッカースタジアムつくるって。おかしいことないですか。」

建設の候補地となった基町の中央公園広場は、当初、居住環境の悪化など反対の声が相次ぎました。これに対して、広島県や広島市は、新たな街づくりの構想を提示するなどしました。その後、行政と商工会議所、サンフレッチェが協議し、中央公園への建設を決めました。

■山本満晴さん
「選挙で選ばれた代表者が決めたことは、絶対尊重するべきだし、質問はたくさんするけれども、決定したらそれに従うのが僕の方針です。」

母子で景気回復に期待を寄せる

山本さんは、基町アパートで母親と暮らしています。母親の山本澄子さんは、84歳。喫茶店を営んでいましたが、3年前に脳梗塞で倒れて以来、山本さんが介護をしています。

■山本澄子さん
「基町に嫁に来たわけじゃないけど、喫茶店しだしておおかた60年。」

疎開していた澄子さんは、広島市内に入り被爆しますが、被爆者健康手帳の交付は受けていません。

■山本澄子さん
「なんべんも、なんべんも(被爆者健康手帳を)もらいんさい、もらいんさいと言ってくれちゃった。原爆手帳があったら、お嫁にいかれんって、もらわんかったんよ。」

■山本満晴さん
「父ちゃんは、お酒飲んで笑いながら「もしワシが(澄子さんが被爆者と)知っていたら、嫁にはもろうとらん」と、ワハハと笑いながら言ってましたよ。」

親子にとって、完成したサッカースタジアムとは。

■山本満晴さん
「景気が良くなればいいね。」
■山本澄子さん
「どうしても、喫茶店はサッカーと関係あるけぇね。」
■山本満晴さん
「僕たちは、その日その日の生活で精一杯ですからね。とにかく家賃稼がないと。」
■山本澄子さん
「慌てないように。慌てないように。」

およそ60年にわたり喫茶店で生計を立てた母と、病に倒れた母親を支える息子。サッカースタジアムの開業は、戦災からの復興の象徴だった基町アパートに、何を残すのか。親子が静かに見守ります。

【テレビ派 2024年1月29日放送】