【TSMCきっかけ】「お金はいらないから農地を」関連企業進出で酪農継続の危機 農家の思い
■古庄寿治さん
「私が下を向いて暗くしてると、もうみんなが暗くなってしまうんで、大丈夫、大丈夫というふうに家族に言ってますけども、口では大丈夫と言ってますけども、私も不安です。」
TSMCの工場がある菊陽町と隣接している大津町で酪農を営む古庄寿治さん(68)。家族で乳牛110頭を飼育し、毎日、牛乳3千百トンを出荷しています。牛舎から出たふんは畑に返し、牛のえさとなる牧草やトウモロコシを育てる循環型農業にこだわっています。
■古庄さんの息子 寿一さん
「ずっと毎年いい作物ができるようにですね、やっぱり土壌の改良とか、そういうところを心がけてやってきました」
牛舎の周辺にある畑は、借地を含めて14ヘクタール。しかし去年12月、突然、不動産会社からこの農地のうち7ヘクタールを譲ってほしいとの話をもちかけられました。
理由はTSMCの熊本進出です。古庄さんの牛舎は、TSMCの工場から約4キロ離れていますが、関連の物流倉庫を建設する計画が持ち上がったのです。7ヘクタールの農地のうち、4ヘクタールは自作地で、残る3ヘクタールが借地です。借地の中には去年、10年間の賃借契約を結んだばかりの畑もありますが、借地の地主は土地を売却する考えです。農地法では、借地であっても耕作する側の権利が守られます。しかし古庄さんは、これまでの地主との関係性から借地は手放さざるを得ないと考えています。
息子の寿一さんが種まきをしているトウモロコシ畑。今年の夏の収穫を最後に、地主に返す予定です。
■古庄寿治さん
「土地を持っている方がやっぱり売りたいと思ってられるんだったら、小作権を盾にしてうちで作りますというわけにはいかないですもんね」
一方、自作地の4ヘクタールについては、売却条件として代わりの畑の確保を求め、不動産会社と一緒に代わりの農地を探しています。農地に必要な条件の一つが「大型トラクターを使えること」。広い農地を家族だけで耕作し、1枚の畑から年2回の収穫を実現するには、大型トラクターが欠かせません。そのトラクターを使うためには牛舎から近く、広い道路が通じている農地が必要です。
■古庄寿治さん
「今まで近い所に畑がありまして、どんなに遠くでも1キロ圏内の中に全部収まってしまってたんですから、そういうのはちょっと無理にしても、ある程度広い面積で点在をしないような形で替地はもらいたいなというふうには思っています」
しかし、TSMC進出以降周辺の土地の価格は吊り上がる一方。条件に合う農地はなかなか見つかりません。古庄さんは地価が高い畑の購入をあきらめ、新たに山林を切り開いて、まとまった農地を確保することを考え始めました。
■古庄寿治さん
「だから私は反対ではないんです。ただお金はいりませんので、とにかく農地をくださいと」
父親の代から酪農を営む古庄さん。実は、古庄さんが高校1年の時、ホンダ熊本製作所の大津町進出で、農地移転を経験しています。また熊本地震の時は牛舎が被災し、今の場所に移転しました。現在も、その時の借入金を返済中です。良い作物ができるようにと土の改良も続けてきた中また、移転を迫られることに。
■古庄寿治さん
「それで農地が手に入らないと、ある程度の頭数を搾乳しないと借入金が返せないわけですよ。息子たちが一番不安に思っていると思います」
古庄さんは、将来のある息子や孫が酪農を続けられないのでないかと心を痛めています。
■古庄さんの息子 寿一さん
「辞めるという方向性もやっぱり考えるんですけど、自分は酪農が楽しいなと思うんで、できれば続けていきたい」
■古庄寿治さん
「これだけの牧場を作りましたので、今止めるわけにはいきませんので、ずっと将来の青写真も描けていましたので、まあ今が一番私の頑張りどころかなと思っています」
【スタジオ】
隣接する菊陽町にTSMCが進出したことを契機に、周辺では農地の転用が増加しています。大津町では昨年度だけで24ヘクタールの農地が転用されたということです。また、大津町が3年後に分譲を始める予定の新たな工業団地にも、農地がかかっているということです。