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TSMC進出の裏で減り行く畑と水…農業・環境は守られるのか?

2024年2月23日 19:40
TSMC進出の裏で減り行く畑と水…農業・環境は守られるのか?
TSMCの進出をきっかけに企業進出の動きが活発になる一方、農業や環境は守られるのか、不安の声も聞かれます。対応を迫られている地元の農家などを取材しました。

熊本・菊陽町。TSMCの工場の近くにある畑でキャベツを収穫する工藤沙也加さん。
冬から春にかけては、菊陽町や益城町などで地主から借りた畑で農業を営んできました。

そんな工藤さんは、TSMCの工場進出を契機にある課題に直面しています。
大津町にあった畑が借りられなくなり、菊陽町の畑も面積が小さくなったのです。

■岩下青果・工藤沙也加さん
「ここら辺一帯は大体、自分たちに作らせてもらったんだけど、工場が来るけんということで作れなくなった。せっかく土づくりまでやってるのにできなくなると寂しいですよね。工場ができてから発展するのはいいんだけれど農業に関してはちょっと不便になるかな」

工場周辺の農地の転用も進んでいます。下村正次さんと妻のひすいさんです。
6年前にひすいさんの父親が亡くなって以降、自宅がある熊本市から大津町の畑に通い続けています。農地の売却などが進み、周囲の景色の急激な変化を感じています。

■下村正次さん
Q土地を売ってほしいと話は?
「少し出て来よるですね。(不動産会社が)開発許可を取ってとかそういう話がちょっと。そっちは全部畑だったんです。いま開発してるでしょ。前はこんなだったんですよ、この道筋も全部…」

菊陽町と合志市、大津町で転用された農地の面積を表したグラフです。
TSMCの進出が発表された2021年度から2024年1月までに164ヘクタールの農地が転用されました。
これは農地全体の3%、東京ドーム32個分にもなります。

こうした事態を重く受けとめた菊陽町。
2年前に策定したばかりの都市計画のマスタープランを来年度見直し、土地の利活用のあり方について改めて検討することに決めました。長期的な視点で作成されたマスタープランが数年で見直されるのは“異例”のことです。

■菊陽町・山川和徳産業振興部長(兼農業委員会事務局長)
「基盤整備されている農地あるいは灌漑施設が整っている農地こういったところはきちっと守っていく。工場が隣接するような地域がございますよね。利活用が可能なところ、有効なところは有効的に活用していこうじゃないかと」

菊陽町は白川沿いの灌漑設備が整った農地は維持する一方、工場進出や道路の拡幅などの影響を受ける農地については農家に営農を続けてもらえるよう代わりの土地を紹介するなど、マッチングを進める方針です。

■菊陽町・山川和徳産業振興部長(兼農業委員会事務局長)
「人様の土地ですので、中々うまい具合にマッチングできるかという難しい課題もありますけれど、まずは営農継続あるいは拡大できるようなシステムの中で農地の手当て、支援、耕作できるような支援を行っていきたい」

白川沿いに広がるニンジン畑。なぜ、町は農地として維持しようとしているのか。
カギとなるのが「地下水」です。
水田から転作されたこの畑は半導体産業に欠かせない豊富な「地下水」を生み出しているのです。

半導体関連の工場が進出し始めた20年前から熊本市と菊陽町、大津町が取り組んでいるのが「地下水の涵養事業」。白川中流域で人工的に農業用水を地中に浸透させています。
菊陽町と大津町では、2022年には206戸の農家が参加。415ヘクタールの畑で1245万トンの地下水が涵養されています。

半導体関連企業の進出の動きを受けて2月、この事業の延長が決まりました。

■熊本市・大西一史市長
「地下水の保全は大丈夫なのか環境への配慮は本当に大丈夫なのかとの懸念・心配の声がたくさん聞かれます。このような中、この協定の持つ意味が非常に大きいものになったと改めて感じます」

一方、事業を継続させるには難しさもあります。農業の担い手不足などにより、2020年から22年にかけて、協力農家は50戸減少。それに伴い面積は77ヘクタール減り、地下水涵養量は231万トン減少しているのです。
熊本市は、協力農家への助成額を増やすなどして、この取り組みの拡充を目指しています。
しかしTSMCの工場では1日あたり約8500トンと大量の地下水を採取する計画で、その影響が懸念されています。

このため、地下水を生み出す農地をさらに増やそうという取り組みが始まっています。

大津町瀬田では2023年11月、地元農家12戸の約7ヘクタールの田んぼを活用して、初めて冬場に水を貯める冬期湛水を開始しました。毎日7000トンの水を地下に浸透させています。

■瀬田地区水田湛水協議会・瀬川友次会長
「通称ザルでん『ザル田』といいますけど水を張って代かきも何もやらないと水が溜まらないような田んぼなんですよ。水の取り入れ口が止まったら1日で空っぽになります。そのくらい浸透力が強いんですよ」

冬期湛水は3月まで続き、100万トンが地下水になる見込みです。
しかし、この取り組みでも課題が。

例年、冬場には大麦若葉やサトイモなどを栽培していましたが「冬期湛水」を行う期間は農作物をつくることができず「支払われる協力金では、冬場の営農収入を補償できていない」といった不満の声が寄せられたのです。

■瀬川友次会長
「(冬の)営農の収入もなくなるわけですから、何か良い考えがないかと皆さんで話しているところ、農家をただ利用するのでなく農家が農地を守って水を守っていくんだという理解をしていただけると、私たちも非常にやりがいがあると思う」

TSMCの進出によって盛り上がりを見せる県内。その一方で農業や地下水を守るにはどうすればいいのか。模索が続いています。

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