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「つまずいたら立ち止まっていい」うつ病となり仕事を辞めた男性 社会復帰してかなえたい夢は

2024年9月26日 19:29
「つまずいたら立ち止まっていい」うつ病となり仕事を辞めた男性 社会復帰してかなえたい夢は

うつ病となり、その後、罪を犯してしまった男性。自然豊かな自立支援施設で社会復帰を目指す中、再出発に向け施設を卒業する日までを追いました。

山下龍二さん、64歳。かつては電気工事の職人として働いていましたが、今は仕事をしていません。

山下さんが通うのは、熊本市西区にある自立支援施設「100年ボンド」です。野菜や薬草を育てながら自然とふれあい、心身の健康を取り戻すのが目的です。山下さんをはじめ18人が通っています。

施設の代表、泉俊雄さんを通じて100年ボンドを知った山下さんは約10年前、職場の人間関係に悩み、うつ病を発症。仕事を続けられなくなり、収入をなくした結果、過ちを犯してしまいました。
■山下龍二さん
「仕事もしていないもんですから、アパート代も払えない状態になって、結局万引きをして(2回)警察のお世話になった」

現在は、生活保護を受給して生活する山下さん。100年ボンドでは、施設が行うコーヒー事業の中心的な存在として、焙煎や販売をしながら社会復帰を目指します。
■山下龍二さん
「うん。また香りが独特だね。悪くない」
Qいつもこうやって味を試行錯誤しながら?
「そうですね。焼いたら必ず試飲をする。でないと、試飲をしていないものをお客様に出すっていうのは失礼だし」

山下さんは、今年に入り自動車学校に通い始め、7月には運転免許を取得。就職活動も始めました。

■泉俊雄さん
「就活はどうですか?」
■山下龍二さん
「ボチボチです」
■泉俊雄さん
「電気工事士の免許を持っていますよね?自分の知り合いの会社がTSMCの工事に入っていて、(人を)探しているんですけどね」
■山下龍二さん
「それはちょっと体力的に難しいし、だから重機のオペレーターの仕事を探している」

100年ボンドの利用は、原則2年間です。期限が近づいていますが、山下さんは希望する条件の会社にはまだ出会えていません。100ボンドの卒業まで1か月。山下さんには、やっておかなければいけないことがありました。
■山下龍二さん
「なかなか(コーヒーの)焙煎で難しいところもあるし、(100年ボンドの卒業まで)あと1月しかないので、できるだけ(他の利用者にコーヒーの焙煎を)覚えてもらおうと。」

山下さんが大切にしてきたコーヒーの味を、引き継ぐことです。
■山下龍二さん
「火を止めるタイミングっていうか、そこが一番難しいです。この音だったらこの色ぐらい、というのが想像できるようになればすぐ覚えるよ」

山下さんから焙煎を教わるのは福島陽花さん。人間関係に悩んで仕事を辞め、100年ボンドに通っています。あまり積極的な性格ではなかったという福島さんですが、100年ボンドで山下さんと出会い、気持ちに変化がありました。
■福島陽花さん
「山下さんがすごぐ頑張っている姿を見て、自分も頑張りたいなって後ろ姿をみて思ったからです。私が頑張って(焙煎の)タイミングとかを覚えられるようになりたいなとは思っています」

人生で挫折を経験しても、前を向いて歩む山下さんの存在に福島さんは背中を押されていました。

社会復帰を目指す山下さん。この日は、ある農園の手伝いをしていました。農園を営む大杉研至さんは、100年ボンドに支援側として入っていた時、山下さんと出会いました。山下さんは、手伝いをしながら野菜作りの基礎を学んでいます。
■大杉研至さん
「山下さん自身も大きな夢を持っているからですね。まったく年齢を考えない、どこまででもやるよっていうのが見えますね」

山下さんが農業を学びたい理由とは?
■山下龍二さん
「お金を貯めて山を買って、イチジク狩りとかして、そこにカフェも併設して」

社会復帰をして、夢を実現する。山下さんには、まだやりたいことがあります。

8月31日。100年ボンドを卒業する日がやってきました。
■山下龍二さん
「おはようございます。おはようございます。今日はラストです」

山下さんは最後の日も、コーヒーの焙煎と向き合います。コーヒーの味を受け継ごうとしている、福島さんと一緒に。
■福島陽花さん
「最初に比べたら、自分一人でできるようになったのかなとは思います」

山下さんに、淹れたコーヒーを飲んでもらいました。
■山下龍二さん
「う~ん。美味しい。スモーク感もあって、めっちゃ美味しいよ。これ(施設スタッフの)宮田さんが飲んだら大喜びするよ。飛び上がるかもしれん」
■福島陽花さん
「え⁉本当ですか?」
■山下龍二さん
「本当」

山下さんからの味のお墨付き。これからは、福島さんが100年ボンドのコーヒーの味を守ります。
■山下龍二さん
「今度から遊びに来た時は、陽花さんからコーヒー焙煎してもらって、飲ませて頂こうと思います」

人生につまずくことがあったなら、立ち止まったり、自分のペースで歩んでいけばいい…。

■山下龍二さん
「大変お世話になりました。私も気が短くて、皆さんにご迷惑をかけることもございました。でも個性を知ることによって、相手を理解するということをここで学んだような気がします。また皆さんに協力を仰ぐこともあると思いますので、またよろしくお願いします。今日はありがとうございました」

これからがスタート。山下さんはゆっくりと、新しい一歩を踏み出しています。
■山下龍二さん
「無事に終わった安心感もありますし、新しい仕事を始めるのに期待感もありますね。不安はそんなにないです」

【スタジオ】
山下さんは就職活動を続けていましたが、来週、面接が決まりました。そして夢がかなったら、県外に住む息子さんやお孫さんに会いに行きたいと話しています。