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「産声」から「予防医療」まで 行政と地域医療が協力する取り組み

2023年11月2日 18:24
「産声」から「予防医療」まで 行政と地域医療が協力する取り組み

荒尾市では今、行政と病院や施設が協力する「予防医療」や、地域の「産声」を守る新たな取り組みが始まっています。

荒尾市のクリニック。

■西原クリニック 中村光成院長
「食事とかは?」
■患者
「秋になっておいしいです」
■西原クリニック 中村光成院長
「食べすぎないように(笑)」

医師が診察内容を書き込んでいるのは…カルテ、ではなく患者の手帳です。

■西原クリニック 中村光成院長
「あらお健康手帳です。いろんな病気の情報を入れ込めるようにした」

荒尾市医師会が中心となって、2017年から市民に配布している「あらお健康手帳」。中村院長が考案しました。

これまで、がんや心不全など、病気ごとに発行されていた手帳が1冊にまとめられています。

手帳には医師の診療記録だけでなく、患者本人が日々の血圧や体重などの記録、もしものときどんな治療を受けたいかなども記録できるようになっています。

患者も自らの健康管理をしやすくなり、手帳はグッドデザイン賞を受賞しました。

■高血圧で通院(63)
「とても管理しやすいです。先生が書かれた“食べ過ぎないように”の文字で見ると、あぁそうだと思っておやつを控えたり」
■足腰の痛みで通院(86)
「朝昼晩、血圧測りながら体の異常を早く見つけられる。生活がごろっと変わった」

さらに…

■西原クリニック 中村光成院長
「他の病院の情報とかを入れといてもらうと、診察の時に問診の時のきっかけになる」

複数の病気を患い、病院のかけ持ちが増える高齢者。認知症で自分の症状を伝えるのが難しい人もいます。ここで活躍するのが、この手帳。荒尾市内の病院や薬局、福祉施設などが記入し合い、スムーズに情報共有ができるようになりました。

■荒尾市医師会 伊藤隆康会長
「全国で同じように個人個人の医療や健康管理が効率的に一元化していける」

一人あたりの医療費 同規模の市町村で全国一の高さ

使えば使うほど、健康管理や治療に役立つ手帳。背景には、荒尾市ならではの悩みがありました。

■荒尾市保険介護課 奥村猛課長
「元々が炭鉱の町っていうのもあって、食事に関して疲れた時に甘いものとか、ボリュームがあるものを食べるという文化があり、生活習慣に関わる病気もどうしてもセットとしてついてくる」

実は、荒尾市は一人あたりの年間医療費が約50万円と県内で4番目、同規模の市町村の中では全国で最も高くなっています。75歳以上になると123万円。県内一の医療費の高さに。

■荒尾市保険介護課 奥村猛課長
「早め早めに早期発見、早期治療をしていただければ、将来的な医療費が全体として下げられます。その余ったお金をまちづくりに、子育てに使えますよといういい循環が生まれてくる」

そこで荒尾市が力を入れるのが予防医療。少量の血液で病気の発症を予測し、生活習慣の改善を促す集団検査を無料で行っています。目指すのは、行政と病院が協力し健康で安心して暮らせるまちをつくることです。

少子化が進む中「産声」を守る取り組み

出産の現場でも連携が。

■まつおレディースクリニック 松尾州裕院長
「鼻のあたま、唇、ここに指が並んでいるような感じで。何とかお土産の写真」
■妊婦
「ありがとうございます」

荒尾市で23年間、妊娠から出産までの周産期医療を担ってきた産婦人科のクリニック。しかし…。

■まつおレディースクリニック 松尾州裕院長
「うちの病院が結局11月から病棟がなくなる関係で」

少子化でお産の件数は減っているものの、陣痛はいつ始まるか分からないため夜間勤務をなくすことはできません。収益は減り続け、助産師や看護師も人手不足に。

2年前に改装した病棟を、11月、閉鎖することになりました。ではどうやって医療を守るのか?

■まつおレディースクリニック 松尾州裕院長
「有明医療センターに向かいます。外来診療です」

松尾医師が向かったのは、車で5分ほどの荒尾市立有明医療センターです。

これまで、主に2か所のクリニックで出産を受け入れてきた荒尾市。10月からは体制が変わり、妊婦は35週までそれぞれのクリニックで健診を受け、36週以降は、有明医療センターに通います。

医療センターでは、健診を担当していた主治医が引き続き、出産までを担当します。

■妊婦
「自分の経過をしっかりみてくださっている先生がずっとみてくれるのはありがたい」
■妊婦
「1人目も前期破水で大きい病院に移動したので、大きい病院で産めるから安心かな」

■まつおレディースクリニック 松尾州裕院長
「24時間体制、365日体制をずっと維持するというのが、だんだんと体力的、精神的に難しくなっている。10年後、20年後を見据えた形で、 少しでも地元で出産できる可能性を開きたい」

荒尾市内の出産を一手に引き受ける形となった有明医療センター。

妊婦が陣痛、分娩、回復を移動せずにできるLDR室と呼ばれる設備を新たに導入しました。

また分娩が集中することで、研修医を育てられ、将来の産科医の育成にもつながると期待を寄せます。

■荒尾市立有明医療センター 山本真一副院長
「お産は、産婦人科だけではなく、小児科や麻酔科など、いろいろなところに負担は増えると思っている。ただ、もうやるしかないんだっていう気持ちがあって、安心して産める環境をつくるというのが大事だと思っている」

官民が協力して地域の「産声」を守り、歳を重ねてからは患者と病院それぞれが情報を交換して一人ひとりの健康を意識する。荒尾市の健康改革が少しずつ進んでいます。