総力取材!「くまもと この1年」 キーワードは「選択」 県政のこの1年
今年の熊本のニュースを振り返る「くまもと この1年」。今回は熊本県政の1年です。キーワードは「選択」です。
4月。4年に1度行われる統一地方選挙。県議会議員選挙では女性の候補者が躍進。県民の「選択」により、女性県議は1人から5人に増え、新たな風をもたらしました。
■参政党 高井千歳さん
「今までお母さんや女性の声は届きにくかったと思うが、そういった声を拾い上げてひとつひとつお聞きして、県議会にあげていきたい」
水俣病問題でも大きな動き
「選択」を迫られたのは、水俣病の原点の地、百間排水口。水俣市は老朽化を理由に撤去を決定しましたが、患者団体などが「歴史を伝える重要な遺構」と反発。県が協議に加わり、いったん撤去するものの、ゲートの現地保存が決まりました。
水俣病をめぐっては、裁判でも大きな動きが。水俣病の救済の対象とされなかった人たちが原因企業のチッソと国や熊本県に賠償を求めた裁判。争点は、国が「最終解決策」とうたった水俣病特別措置法の是非です。
大阪地裁は9月、熊本や鹿児島で生まれ、就職などで関西に移り住んだ128人の原告全員を水俣病と認め、賠償を命じる判決を言い渡しました。
■原告 前田芳枝さん(74)
「私たちはこれで病気が治るわけではない。治らない病気。治らない。勝訴って分かった時点であ、やっと認められたんだと」
判決を受けて熊本県は。
■熊本県 蒲島郁夫知事
「上級審の判断を仰ぐべきではないかと思いました。それは寄り添う、寄り添わないとはちょっと違ったものではないかと思います」
国や原因企業のチッソと同様、“控訴”を「選択」しました。同様の裁判は、熊本でも来年3月22日に判決を迎えます。
県の支援事業助成金めぐり不適切受給
大きな波紋を広げているのが、新型コロナの経済対策として県が旅行業者を対象に行った支援事業。
■公益通報者
「何度か内部で声を上げたんですけれども、ことごとくつぶされてきた。最後は外部通報しかないのかなっていうふうに思って通報しました」
報道機関への外部通報を「選択」せざるを得なかった“公益通報者”。TKUヒューマンのタクシー券を使った旅行商品で、補助金の不適切な受給の疑いがあると指摘。この疑いを県の幹部が見逃すよう指示した結果、不適切な受給額は2000万円にのぼるとしました。
第三者調査委員会による非公開での調査は今も続いています。
TSMC進出の効果
■松本茜記者
「熊本と台北を結ぶ初めての定期便が、今着陸しました」
熊本空港では、1月のソウル線を皮切りに、台北線、香港線と国際線の就航が相次ぎました。今年度の国際線の旅客者数は、過去最多だった2018年と並ぶ20万人台を見込んでいます。
好調な国際線の要因のひとつが、菊陽町で工場の建設が進む台湾の大手半導体メーカー、TSMC。県内への経済波及効果は10年間で6兆8500億円と試算されています。周辺への工場進出を「選択」する企業が相次ぎました。
影響は隣の大津町にも。需要の高まりを受けて、マンションやアパートが次々に建設されています。恩恵は地元の飲食店にも。外国から訪れるビジネスマンの姿が目立つようになりました。
■インド料理スリャ アヒイル・ブパトオーナー
「台湾の人達とか、下請けの業者で来ている人が増えた。スマホのアプリで見られるけど、外国語のメニューはあった方がいいかな」
地元の人も変化を感じています。
■大津町に住む人
「息子が通う学校に行くと、ちょこちょこ外国人を見かける。もう少し栄えてくれたらいいなというのはあったので、お店が増えたりしてうれしい」
100年に1度のビッグチャンスともいわれるTSMCの進出。今後の動向が注目されます。
【スタジオ】
(畑中香保里キャスター)
県政担当の松本記者です。今年もTSMCに関するニュースが目立ちましたね。
(松本茜記者)
建設中のTSMCの工場では、オフィス棟が8月から一部で供用が始まっていて、2024年末までの量産開始を目指しています。現在1400人ほどが働いていて、関係者によりますと、来年2月下旬に開所式を行うということです。
今年も半導体関連企業の進出が相次ぎました。工場などの新設や増設に伴い、県や自治体と立地協定を結んだ件数は、TSMCの進出が発表された2021年度は過去最多の22件。その後も同じくらいの件数で推移し、今年は18件に上っています。改めてTSMCの影響は大きいと言えます。
(畑中キャスター)
工場の進出が増えれば、土地の確保が難しくなりますね。
(松本記者)
県も土地の確保が喫緊の課題としています。県営の工業団地に、もともと潤沢に土地があったわけではありません。TSMCの進出が明らかになる前までは、168区画のうち、4区画あわせて38ヘクタールが空いていました。ところがTSMCの進出を契機に3区画が埋まり、現在、1区画、約5.7ヘクタールしか空きがないという状況です。企業誘致したい県としては、“武器”を持っていない状態ともいえます。
このため県は、菊池市や合志市、八代地域に新たな工業団地を整備する方針です。また、県内の市町村も独自に工業団地を整備する動きも見られます。県全体で土地やインフラの整備など企業進出の受け皿づくりを急いでいます。
新しい県政のリーダーは
今年の県政を語る上で、欠かせないのが蒲島知事。5期目への進退が注目される中、不出馬を「選択」しました。県政の大きな転換点となった県議会での一幕を振り返ります。
12月6日の県議会。
■畑中香保里キャスター
「午前9時55分、蒲島知事が姿をあらわしました。ゆっくりと議場に向かっていきます。この後の議会でいったい何を語るのか。その発言に注目が集まります」
熟慮に熟慮を重ねたという蒲島知事。一般質問の答弁で、その胸の内を初めて明かしました。
■熊本県 蒲島郁夫知事
「私は全国47の都道府県の中で最年長の知事であります。しかし、仮に次の選挙で県民の負託をいただいたとしても、次の任期の途中で限界を迎える可能性もあります。私は与えられた今の任期を全うした上で、次の知事選には出馬しない、出馬しないことを決断いたしました。みなさん本当にありがとうございました」
4期16年の任期で築いた“良き流れ”をさらに強く大きくしてほしい。蒲島知事の思いは、新たなリーダーに託されました。