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【記者解説】生活保護費引き下げめぐり富山市の受給者らが訴えた裁判 控訴審始まる

2024年7月22日 20:07
【記者解説】生活保護費引き下げめぐり富山市の受給者らが訴えた裁判 控訴審始まる

国による生活保護費の基準額引き下げをめぐり、富山市に住む受給者らが国と市に減額処分の取り消しなどを求めた裁判の控訴審が、22日に名古屋高等裁判所金沢支部で始まりました。

吉田颯人記者「憲法25条・生存権のあり方を問う裁判の舞台は、富山地裁から、ここ名古屋高裁金沢支部へと移りました」

この裁判は、2013年から15年にかけて国が生活保護費を最大10%引き下げたのは、憲法25条の「生存権」に反するなどとして、富山市の受給者ら5人が市に対する処分の取り消しと国への賠償を求めたものです。

今年1月、一審の富山地裁は生活保護基準の引き下げについて「厚生労働大臣の裁量権の範囲に逸脱や濫用がある」として減額処分の取り消しを認めた一方、国への賠償請求は退けました。

この判決を不服として富山市と原告の双方が控訴していました。

22日、名古屋高裁金沢支部で控訴審が始まり、被告側は改めて引き下げの適法性を主張しました。一方の原告側は、統計などの客観的な数値との合理的関連性や専門的知見との整合性がない違法な引き下げだと訴えました。

裁判の終了後には会見が開かれ、8年前に亡くなった妻から原告を引き継いだ男性が今の思いを話しました。

原告の男性「ひとつの歴史、日本の歴史であるような闘いが今、この裁判という形で闘われてるんだなと」

上野キャスター)スタジオには、警察・司法担当の吉田颯人記者です。裁判は被告と原告、双方が控訴して開かれたんですね。

吉田記者)今年1月、富山地裁は引き下げ処分の取り消しを認めました。この判決を不服として富山市が控訴したほか、原告側は国家賠償が認められなかったとして控訴していました。

上野)裁判では何が争われているのでしょうか。

吉田)裁判の大きな争点は「基準額の引き下げ幅が厚生労働大臣の裁量の範囲を超えているかどうか」です。

生活保護の基準額は経済情勢などを踏まえて厚生労働大臣が決定します。国は「2013年頃の物価下落によりその分使えるお金は実質的に増えた」として基準額を引き下げました。大臣の広い裁量権を理由に引き下げの適法性を訴えています。

一方、弁護側は、国が算定した下落率に正当な理由がないとしたほか、当時物価が下落したのは生活保護世帯が買う機会の少ない家電などの高額製品だとして、値下げの恩恵は少なく、多くの原告が支給額の減少により切り詰めた生活を余儀なくされている、などとしています。

上野)同様の裁判は全国でも起こされていますが、現状、司法の判断はどうなっていますか。

吉田)同様の裁判は全国29の都道府県で起こされています。まずは一審の結果です。引き下げの取り消しを認めた原告勝訴判決を下したのは、富山を含む17の地裁です。一方、11の地裁は原告敗訴の判決でした。

次に控訴審では、3つの高裁が原告敗訴の判決とした一方で、去年11月の名古屋高裁判決は、引き下げの取り消しに加えて国の賠償までも認めるなど、判断が分かれています。

憲法25条の生存権のあり方を根本から問う注目の裁判で、次回の弁論は今年10月に開かれます。