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“名物女将” の遺志を継ぎ「自分らしく新たなもてなしを」壱岐島の老舗旅館 三代目女将の挑戦《長崎》

2024年7月13日 7:00
“名物女将” の遺志を継ぎ「自分らしく新たなもてなしを」壱岐島の老舗旅館 三代目女将の挑戦《長崎》

壱岐の老舗旅館の三代目女将 平山 真希子さん。

“名物女将”と呼ばれた先代が亡くなって3年。その伝統を守るため、日々 奮闘しています。

◆青い海に囲まれた楽園「壱岐島」に “老舗 平山旅館” あり

午後5時半過ぎ。おもてなしの準備が始まりました。

厳選された旬の魚介が運ばれていきます。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「平山旅館の女将です。きょうはありがとうございます」

平山 真希子さん 48歳。

10年前に嫁ぎ、3年前から三代目の女将を務めています。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「今 割りたてだから棘が動くの。動いているでしょ」

女将が採ったウニ。そのお味は?

(宿泊客)
「濃厚でおいしいですね」

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「島に来るとこういうものが食べられるんだと思ってもらいたい。頑張っています。フフフ」

壱岐市勝本町にある創業70年の「平山旅館」。

くつろぎの客間に、“子宝の湯”ともいわれる由緒ある温泉を備えます。

花束のような自家製の無農薬野菜。

天然のマダイやイカなどが漬けがのった 「島茶漬け」も絶品です。

▼二代目は超パワフル 島内外に名の知れた“名物女将”

平山旅館の館内を見渡すと、いたるところに “先代の” 女将にまつわるものが。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「かわいい。笑っている。50年間 平山旅館の顔になっていた女将なので、懐かしむ人もいるし、(二代目)女将に会いたいという人もまだまだいるのでずっといてもらった」

二代目は壱岐の名物女将と呼ばれ、自らつくった等身大パネルも。

女将業一筋50年。二代目の平山 宏美さん。

(平山宏美さん)
「私は本当に壱岐の島が好きで、壱岐の島を一人でもたくさんの 人に知ってもらいたい。まず歴史文化が豊か。それから自然が豊か。人情味豊か。食材が…。」

語りつくせぬほど、とにかく壱岐のことが大好き。

人を元気にさせる笑顔は、“パワースポット” と呼ばれました。

お客さんの送迎や島のガイドも務め、女将の枠を超えて壱岐島の魅力を発信し続けました。

二代目のそばにはいつも、若女将 真希子さんの姿が。

頼れる “相方” です。

(二代目女将 宏美さん)
「由布院の辻馬車のおじさんに “壱岐で馬車をしたい”といったら、紹介してくれて(馬車を)買ったんですよ。その時、真希ちゃんが一緒にいたら…」

(三代目女将 真希子さん)
「絶対買っていなかったと思います」

(二代目女将 宏美さん)
「ケチケチ真希子だから。ケチな嫁だけど頼りになる(笑)」

(三代目女将 真希子さん)
「あきれるを通り越しておもしろいので、毎日がジェットコースターのような感じ」

▼二代目女将を襲った試練 それでも前に…前に…壱岐島のために…

そんな日々の中、宏美さんにがんが見つかります。

余命3ヶ月と宣告されました。

(二代目女将 宏美さん)
「家族はみんなレントゲン写真を食い入って見て、どうする?みたいな感じで悲痛な面持ちをしていた。この期間は、神様が私に与えてくれた『50年間分の休養の時』だから」

女将の留守を支えたのは、若女将の真希子さん。

(長女 月望ちゃん)
「私がご飯を食べている時くらいに帰って来る?」

(三代目女将 平山真希子さん)
「うん」

(長女 月望ちゃん)
「じゃあ、いいよ!」

子育てと両立しながら、旅館を守る日々…。

二代目 宏美さんは、女将の仕事を真希子さんにバトンタッチしたあとも、病魔と闘う中で考えているのは、“壱岐のために” できること。

(二代目女将 宏美さん)
「今まで世の中にない“新しい事業”をやりたい。それは今のところ内緒。楽しみに!」

夢を追い、壱岐を愛し続けた人生。享年 73歳でした。

▼二代目の遺志を継ぎ、その夢を “真希子流”で叶える

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「女将がいなくなっちゃったから、“平山旅館ダメになったね” と言われないようにすることで もう精一杯で精一杯で。どんなつらいことがあっても、笑っていなさい!というのは(二代目が)すごく言っていた。コロナも乗り越えられたし」

70年間、つながれてきた旅館の歴史。

コロナ禍で観光客が激減する中、守らなくてはいけない従業員の生活。

重圧を背負い、思い出したのは宏美さんの姿でした。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「女将はやっぱり決断が早かった。いなくなって気づきました。早く決断しないと、ダラダラしていてもしょうがないという考えにはなった。それが正しいかどうかはわからないんですけども」

外資系メーカーや観光協会などで広報を務めた経験。ここでいかされることになります。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「家族風呂から徒歩3歩で…」

2か月かけて客間を大幅リニューアル。

家族でゆったりと過ごせる和洋室もつくりました。

長期滞在者向けに、戸建てもリフォーム。若者の人気も集めています。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「古い趣を残しつつ、今でいう映えるものも要素として残しておかないと思って」

“真希子流” は、こんなところにも

「食」中心だった土産物の隣には、温泉成分たっぷりの化粧水や壱岐自慢の真珠を使ったアクセサリー。

さらに。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「これ見てください。デッドシーオブゴッドマザー。先代の女将はゴッドマザーみたいな人だったので」

そういえば、二代目の宏美さんにはこんな夢が。

(二代目女将 宏美さん)
「(中東の)死海の海水を私は仕入れているので、湯本湾の夕日を見ながら浮けるお風呂を作るのが夢」

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「怪しくないですか?あはは。これが噂の『死海の水』。すごいですよね。飛行機で飛んできました」

義理の姉と一緒に美容液として商品化。夢のかけらをカタチにしています。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「きょうもありがたいことに、お客様いっぱいいらっしゃっています。売りは主人の料理でしょう…ね」

自慢の料理を手掛けるのは、夫 周太朗さんです。

(料理長 平山周太朗さん)
「マグロが水揚げされている。壱岐のマグロ。こんな感じのサシ加減」

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「(マグロは)しゃぶしゃぶにしてもすごくおいしい。よかったらしゃぶしゃぶで」

(宿泊客)
「大好き」

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「よかったです」

きめ細やかな心配りや飾りっ気のない人柄で、女将目当てのリピーターも増えているそうです。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「誠意であったり。本当に心からお迎えしたいという気持ちを、素直に出していきたい」

▼老舗旅館に新たな歴史を 島の魅力とともに客人に愛される宿へ  

二代目女将の宏美さんは、今、まちを見渡せる丘で眠っています。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「いつも見守ってくれていてありがとうということと、これからも頑張るので見守ってほしいし、力を貸してくださいと…」

ここが、今の真希子さんにとってのパワースポットです。

いのちの限り、壱岐の女将であり続けました。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「少し任せてもらえるかなという気持ちも。自分のためにも、切り替えていくためにも」

宏美さんに頼らなくても愛される旅館に。

これまで不安になるたび、目を向けていた宏美さんの等身大パネルを思い切って奥にしまい…。

この日を区切りに新たな一歩を踏み出します。

~ あなたはあなたのままでいい ~

宏美さんは、いつもそう言ってくれました。

その言葉を胸に、真希子さんは自分のやり方で壱岐の魅力を発信していきます。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「歴史とか文化、海産物がおいしいだけでなく。種類も豊富だし、お米もおいしい、野菜もおいしい、お酒が…」

壱岐への思いはもう誰にも負けません。

平山旅館3代目女将。きょうも晴れやかな笑顔でもてなします。

(平山旅館 三代目女将 平山真希子さん)
「また季節も変えて、お待ちしています」