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なぜ強い?“12人のソフトボールチーム”全国大会へ 人口6000人の町の「二十四の瞳」

2024年2月17日 18:50
なぜ強い?“12人のソフトボールチーム”全国大会へ 人口6000人の町の「二十四の瞳」
市を表敬訪問した三瓶ジュニア

「田舎の“噂”はね、ネットよりも早いんよ」

愛媛県の南西部・西予市三瓶町(みかめちょう)。日当たりの良い山々とリアス海岸の地形を生かした、ミカンの栽培やアジ漁が盛んな町です。

人口はわずか約6000人、高齢化率は51.5%(2024年1月現在)。少子高齢化の“先頭集団”を走っています。

三瓶小学校のソフトボールクラブが全国大会に出る―。

今年1月下旬、そんな“噂”が町内に瞬く間に広まりました。しかも、全国大会に出るというそのソフトボールクラブの部員は、わずか12人(男子10人、女子2人)とのこと。町は興奮に包まれました。

どこの地域でも子どもの数が減少し、スポーツクラブも立ち行かなくなって消滅していく現在。

都市部でなく、人口が減っている地域のチームが、なぜ全国大会に行けたのでしょうか。

「もう無理かもしれん」廃部の危機

少子化で三瓶町内に5つあった小学校は今では1つに。ソフトボールチームも統合され、2012年に誕生したのが「三瓶ジュニア」です。

この町の高校からは、明徳義塾高校の馬淵史郎監督や元千葉ロッテマリーンズの塀内久雄氏を輩出するなど、もともと野球やソフトボールが盛んな地域でした。

しかし、子どもが少なくなってきただけでなく、スポーツとしてソフトボールをやってみようという児童も減少。三瓶ジュニアの部員も5年前には部員が4人に。コーチの繁木俊忠さん(39)によると、当時、「もう無理かもしれん。廃部にしようか」という議論が出ていたと言います。

こうした中、この年の春に入学した1年生のある男の子が「三瓶ジュニア」に入部します。

“ソフトボールって、面白い!”

「ゲームや屋内での遊びが中心だった現代の子どもたちにとって、バットでボールを打つというスポーツが刺激的だったんだと思いますよ」(繁木さん)

ここから、流れが変わり始めます。

自然と強くなった“二十四の瞳”

「ソフトボールって面白いけん、一緒にやろうや」

1人の子が新たに1人の友達を誘って2人になる。さらに、新しく入った子が新たな友達を誘って3人になるー。

大人の誰が指示したわけでもなく、自然発生した子どもたちの“口コミ”で、1年生のうち9人の男の子が「三瓶ジュニア」に入りました。

中には保護者が知らない間に「友達に誘われたから」とソフトボールの練習に参加していた子も。ある日突然、土まみれで帰ってきた我が子を見た保護者の驚きようは想像に難くありません。

「選手が少ないから1年生の時から試合に出られる。自然と強くなりますよね」と語るのは井上正直監督(47)。自らはバスケットボールの経験しかないですが、「一番練習に来ることができそう」という理由だけで監督に推挙されたと言います。

「楽しんでやろう。やるからには全国を目指そう」(井上監督)

その合言葉の元、9人の子どもたちはソフトボールを辞めることなく4年が経過。「自然と強くなった」5年生9人を中心としたわずか12人の「三瓶ジュニア」は、この春の全国大会出場を決めました。

「それでも、次の世代は作れない」

今月8日、全国出場を決めた「三瓶ジュニア」は西予市長を表敬訪問しました。

「全国制覇、最後まで仲間を信じて1点の重みを感じながらプレーします」(菊池斗真キャプテン)

繁木コーチは、「いくつかの小学校で作った合同チームではなく、1つの小学校でつくったチーム。しかも田舎にある小学校が全国大会ということで、町民からは大声援をもらっています」

西予市の管家市長も「ナイターで練習している姿をいつも見かけていました。全国のソフトボールを愛する仲間と交流を深めてほしい」と激励。

市やソフトボール協会から遠征費に活用する激励金をもらったほか、中には自らチームへ寄付を申し出る町民もいるといいます。

しかし、来年5年生の9人が卒業すると、残るメンバーは3人になります。

「正直言って、次の世代を作れていないという危機感はあります」(繁木コーチ)

“口コミ”で9人集まったから強くなったチーム。裏を返せば、9人がいなくなってしまうとチームの現状は急変してしまう。子どもの母数が減る町では、毎年この“口コミ”を再現していくのも難しい現実があります。

それでも繁木コーチは、「子どもたちにはこうしたことを考えず試合に臨んでもらいたい。そしてソフトボールで得た経験や学んだチームワークは、一生の宝物になるはず」と話します。

小さなチームの快挙に胸を躍らせる喜びと、これが最後かもしれないという寂しさ。

様々な思いを抱えて、「二十四の瞳」が全国に挑みます。

(報道部 植田竜一)