どんな家庭環境でも「学びをあきらめない」学習の機会を提供「なりたい自分になって」今を生きる子どもが見つめる未来
経済的な理由や家庭環境などで学習の機会に恵まれない子どもたちに勉強を教えているグループがあります。
さまざまな学びと出会うことでなりたい自分になってほしい。
こどもたちに寄り添う活動とこどもの姿を追いました。
自分のペースを大切に 地域で学習サポート
街灯が辺りを照らすころ・・・
(子どもたち)「こんにちは~」
札幌市内にある地域の会館に、子どもたちが集まってきました。
英語の勉強をしたり、算数・・・と思いきやノートに絵を描いたりする子どもも。
みんながそれぞれのペースで勉強しています。
(スタッフ)「後半間違ってそうだね」
(ひかる君)「ね、俺も思った」
(スタッフ)「プラス2でいいんじゃない?」
(ひかる君)「忘れてた!」
(スタッフ)「OK!OK!」
中学3年生のひかる君です。
勉強は苦手ですが、無理なく学ぶことができるスタイルが気に入っています。
(ひかる君)「わからないってなったらちゃんと教えてもらえるから、やりやすいかなと思います」
(スタッフ)「筋トレとかしない?まだしないよな~」
(ひかる君)「するよ!きのう運動しすぎて湿布貼ってるんだよ、ジジイだよ~」
勉強から脱線することもしばしば…
ここに通うのは、ひとり親や生活保護世帯など経済的な理由で塾に通えない子どもたちです。
学習支援の活動をしている「カコタム」という認定NPO法人が運営していて、大学生や社会人のボランティアが月500円で勉強を教えています。
ひかる君の家は母子家庭。
両親は11年前に離婚し、母親がひかる君と2人の妹を養っています。
ひかる君の母親は仕事終わりで送迎しています。
母親の収入は契約社員で働く給料など月20万円ほど。
中学生の学習塾代は平均で月2万円ほどかかりますが、ひとり親がその費用を出すのは難しい状況です。
(ひかる君の母親)
「一般的な塾と考えたら1教科いくらとかけっこうびっくりするくらい、ひと家庭の食費くらいになって、捻出できないと思っていた」
「シングルとか貧困世帯は諦めてしまう気持ちが多い印象があって、そうはさせたくなかった」
未来見つめるきっかけ すべての子どもに学びの機会を
学習支援の「カコタム」を立ち上げたのが高橋勇造さんです。
(認定NPO法人 カコタム 高橋勇造理事長)「私たちが考えるのは、学びの機会というのは平等にあるべきことで、それにアクセスできない子どもがいる。そもそも学びの機会さえない状況にある子も多くいる」
学生時代、家庭教師をしていた子どもが悩む姿を見たことで、貧困や複雑な家庭環境の子どもに寄り添いたいと考えるようになった高橋さん。
なりたい自分になってほしいと、およそ10年から活動を始め、これまでさまざまな学びや体験の場を提供してきました。
(認定NPO法人 カコタム 高橋勇造理事長)「人とのつながりを感じられたり、未来に何か見通しを持つことができるような機会が、教育の中にはあると思う」
学習支援の活動は少しずつ成果が見え始めています。
この日開催したのは、学習支援に参加するボランティアスタッフの研修会です。
講師として招かれたのは、中学から高校までカコタムで勉強した狩野穂乃佳さんと大澤梨華子さん。
自らの体験を話しました。
(狩野穂乃佳さん)「勉強が本当に嫌いで、ずっと嫌いだったんですけど、あれやんなさい、これやんなさいではなく、じゃあこれだけやろうかって。私がひたすら漢字を書き写しているのも見守ってくれていた時期もあった」
(大澤梨華子さん)「(藤女子大のボランティアにカコタムで)出会って、食物栄養という学科を知って、管理栄養士になりたいという夢を見つけた。カコタムがなければ何してたんだろうというくらい」
2人は学習がきっかけとなり、自分たちの未来が大きく開けたことを伝えました。
狩野さんはいま、希望していた児童養護施設の職員に。
大澤さんは管理栄養士という夢に向かって大学で勉強を続けているといいます。
(認定NPO法人 カコタム 高橋勇造理事長)「少し頑張ろうとかポジティブな感情が抱ける場所になっているというのは、今まで活動してきたことが間違いではなかったのかなと思います」
心を開ける「居場所」 子どもに寄り添うスタッフ
母子家庭で育つ、ひかる君です。
実はひかる君、学校の雰囲気に馴染めず、いまは学校に行っていません。
日中は1人で家で過ごすことの多いひかる君ですが、この日向かったのがー
一軒家を使った中高生のための「居場所」です。
ここもカコタムが運営しています。
(スタッフ)「あのさ、ニンニクが余っててさ。ニンニクトッピングしない?刻みニンニク担々麺?」
インスタントラーメンのアレンジを考えたりゲームをしたり。
過ごし方は自由です。
部屋にはこんなホワイトボードがありました。
「やりたいをカタチにするプロジェクト」
子どもたちが挑戦してみたいことを自由に書いています。
ここに「ゲームのコントローラーを違う色に塗装してみたい」と書いていたひかる君。
(スタッフ)「まず使えるどうか試そう」
そこで、スタッフがひかる君のためにスプレーを用意しました。
(ひかる君)「これ何?ガス?」
ひかる君、さっそく説明書を見ながら組み立てます。
(ひかる君)「おお、出てる出てる」
ひかる君は自分に寄り添ってくれるスタッフに救われたといいます。
(ひかる君)「学校に行ってなくて、昔は学校に行っていないのはよくないかなと思っていた自分がいたが、メンバーに相談した時、自分のせいじゃないんだからって。自分がどうとらえるかだからって肯定的に考えられるようになった」
(ひかる君)「たっつ~!宿題出して~」
(スタッフ)「お!いいよ!」
(ひかる君)「数学終わったからさ」
(スタッフ)「お!マジ?」
(ひかる君)「今回は国語多めかな?」
スタッフに宿題を頼むひかる君。
勉強にも前向きに取り組んでいます。
(スタッフ)「こういう風に声をかけてくれて初めて(プリントを)印刷できるので、やる意欲がわいているのかな」
自分が歩いていきたい道は…
(ひかる君)「学ばないで不安を覚えるより、ここでちょっとずつでも勉強して自信につながればいい。自分の決まっている目標はカコタムのメンバーになる、勉強が教えられるくらいに勉強できればと思う」
悩みながらも今を生きるひかる君。
“学び”を通して見つけた未来にむかって歩き続けます。