難病の祖母を結婚式に 制度の壁を乗り越え…夢をかなえる看護師 家族の思い出を紡ぐ
介護や支援が必要と認定された高齢者は、この20年で3倍以上に増えています。
しかし、現在の介護保険制度では多くの制約があり、やりたいことを諦めてしまう人も少なくありません。
病気や障害があっても望みをかなえるために、制度の枠を超えたサービスを行う女性に密着しました。
(大山尚美さん)「きょうは目の調子どうですか」
(男性)「あまりよくない。だんだん見えづらくなってきた」
看護師の大山尚美(おおやま・なおみ)さんです。
89歳の男性の買い物に付き添います。
(男性)「値段いくら?」
(大山尚美さん)「ラム肉100グラム、税込みで538円」
男性は、視力や筋力の低下により1人で買い物をすることが難しく、大山さんがカゴを持ったり会計するなどサポートします。
男性が楽しみにしていたのが、期間限定で出店した魚屋です。
この店のホッケが食べたいと、自宅から1時間ほどかけてやって来ました。
(魚屋)「何年ぶり?」
(男性)「そんなに経ってないだろう」
(魚屋)「1年ぐらいですか」
(男性)「今まではおっかなびっくり1人で来ていたが、今度は(大山さんに)支えてもらって助かっています」
買い物や散歩の付き添いなど、およそ4時間の利用で料金は1万9000円でした。
(男性)「高すぎます。もう少し公的な補助があればいいけど」
大山さんが提供するのは、介護保険が適用できないサービスです。
40歳以上の人たちが保険料を支払いサービスを利用できる介護保険制度。
しかし、利用できるのは国が定めた範囲内のサービスのみです。
買い物で嗜好品を買うことや認知症の高齢者の見守りができないなど、多くの制約があります。
そこで大山さんは2年ほど前、自宅を拠点に保険外のサービスを提供する事業を立ち上げました。
(大山尚美さん)「最低限に寝て食べての生活は介護保険でできると思うが、お出かけしたいとか病院や習い事、人と会うことができなくなるので、それはその人にとって生活の一部がなくなることなので、制度だけでは難しいのかなと、生き方が変わってしまうのではと思う」
札幌の医療機関で看護師として働いていた大山さん。
介護保険や医療保険では患者の要望に応えられないことが多く、もどかしさを感じていたと言います。
そして、きっかけとなったのが父親の隆さんをがんで亡くしたことでした。
当時は仕事や育児に追われ、家族で旅行したいという隆さんの望みを叶えることができなかったのです。
(大山尚美さん)「今を一生懸命生きようと思っていて、いつどうなるかわからないという気持ちを持って、諦めないで過ごしてほしい」
料金は、単発利用が1時間6000円から、継続利用は1時間4500円からで、回数や時間などの制限はありません。
毎月20件ほどの依頼があると言います。
札幌市の佐藤真優(さとう・まゆ)さんです。
入院中の祖母を結婚式に招待したいと言います。
(佐藤真優さん)「祖母にとって孫は私一人だけなので、小さいころからすごくかわいがってもらって大切に育ててもらったという思いがある。今入院している状況の中でも、なんとか晴れ姿を見てほしいという気持ちが強くある」
進行性の難病を抱える真優さんの祖母・工藤恵子(くどう・けいこ)さん。
声を出すことや体を動かすことが難しく、医療処置が必要です。
保険内のサービスに私用の外出は含まれないため、大山さんのサービスを利用することに決めました。
(佐藤真優さん)「私の成長をすごく楽しみにしてくれていて、結婚式もずっと楽しみにしてくれていたと思う。祖母の願いも叶えられると思っている。こういったサービスがもしなければ諦めていたかもしれないが、看護師についてもらえるということで安心して来てもらえると思う」
結婚式当日。
真優さんの祖母・恵子さんです。
(病院スタッフ)「ちょっと緊張されています、朝から」
(大山尚美さん)「よろしくお願いします、大山です」
入院してから初めての外出。
普段とは違う慣れない環境の中で、大山さんは恵子さんの不安な気持ちに寄り添います。
結婚式場までは車でおよそ1時間かかります。
車内で血圧を測るなど、体調に変化がないか常に気を配ります。
(大山尚美さん)「大丈夫です?」
医療処置である「痰の吸引」。
命に関わるケアをお願いできることも利用者が安心して頼れる理由です。
会場に到着しました。
待ち望んだ結婚式…
大山さんに付き添われ、その時を迎えます。
見届けることができるとは思っていなかった孫の晴れ姿…
今はもう、表情に出すことはできないけれど、じっと見つめていました。
最後に、真優さんから感謝の思いを込めたプレゼントが…
(佐藤真優さん)「おばあちゃん来てくれてありがとう!持てる?真優と同じ花だよ」
(佐藤真優さん)「花嫁姿を見たいと思ってくれていたと思うので、見せられてよかったという安心した気持ちです」
この取り組みが広がることで、より多くの人に手を差し伸べられると大山さんは考えています。
(大山尚美さん)「諦めずにできたという体験をして、笑顔になってもらいたい。本人が今の人生いいなとか、家族が幸せだと思えるように過ごしてもらいたいので、そのサポートをしていきたい」
介護保険では賄いきれないサービス。
利用する側のニーズに寄り添った大山さんの仕事が、かけがえのない家族の思い出を紡いでいます。