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“街の酒屋さん”をなくしたくない 2代目の挑戦

2023年11月3日 10:00
“街の酒屋さん”をなくしたくない 2代目の挑戦
わたご酒店の20代スタッフ

酒どころ新潟。
しかし酒蔵と消費者の窓口となるいわゆる「街の酒屋さん」は減少を続けています。
「店を残していきたい」そんな思いで新たな取り組みを始める2代目の店主を取材しました。

■“昼呑み専門店”で日本酒の入り口に

新潟市中央区でことし5月にオープンした「まみあな」
営業時間は正午から午後7時までの「昼呑み」専門のお店です。

●坂上恵さん
「良い酒は人をつなぐというコンセプト。
 おいしいお酒は人とのご縁をつないでくれる」

実はこちらの店、隣は酒の小売店、いわゆる「街の酒屋さん」です。
創業50年を迎える「都屋」は新潟の地酒だけでもおよそ300種類を揃えます。

なぜ隣に飲食店を作ったのか。きっかけはコロナ禍でした。

●2代目店主・坂上重成さん
「コロナの影響で売り上げが桁違いに落ちまして。
そのときに生き延びていくにはどうしたらいいんだろうと」

飲食店を切り盛りするのは妻の恵さん。
料理に合う日本酒を提案します。
もちろん気に入ったら、隣の都屋で買うこともできます。

●2代目店主・坂上重成さん
「やはり若い方とか女性とか、今まで日本酒に親しみのない方たちに日本酒を飲んでいただきたいというのは、どの蔵元も酒販店さんもミッションとして持っていると思うんです。(まみあなのオープンで)客層がぐっと変わってきたなというのは感じています」

■酒どころ新潟でも減り続ける“街の酒屋さん”

酒蔵と消費者をつなぐ「街の酒屋さん」ですが、店の数は減少傾向にあります。
およそ20年前は事業所の数が全国でおよそ9万2000か所ありましたが、おととしの調査ではその4分の1ほどおよそ2万4000か所まで減りました。

■スローガンは“Fun to Drink;”

新潟市江南区にある「わたご酒店」
カフェを思わせる外観ですが、店内に入ってみると全国の地酒がすらりと並んでいます。

●2代目店主・寺田和広さん
「新潟だけじゃなく全国で頑張っている方たちがいるので、情報交換も含めて、一緒にいろんなことをやれたらなと思っている」

そう話すのは2代目の寺田和広さんです。
大学卒業後、東京で酒の卸売り会社に就職。6年前、祖父母からこの店を継ぎました。

●寺田さん
「実家をやるんですと言ったら、新潟の酒屋さんや酒蔵さんとは『まじで』みたいな。いつか消えてなくなる街の酒屋さんタイプの店だったので」
「勝算は無かったし、とにかく自分は帰った方がいいなと思ったので」

スローガンは“Fun to Drink;”「楽しく飲む」
県内にこだわらず、全国の酒蔵から自分が美味しいと思う酒を仕入れています。
今では、飲食店に置く日本酒のプロデュースも事業の柱となっています。

新潟市江南区の亀田公園で開かれたイベント、ファーマーズアンドキッチン。
地元の農家や飲食店が出店するイベントです。

●来場者客
「公園だから、遊んでから来て。店が多いのと、駅が近いからお酒も(飲めて)いいなと思います」

寺田さんは実行委員として、企画・運営に携わっています。

●寺田さん
「お酒を飲むイベントに子どもは連れて行きづらいですけど、子どもが楽しめるイベントで生ビールが出ていれば、ちょっと飲もうかなみたいな。そういうところからお酒のハードルとか、シームレスな関係を作れたらなと思っています」

■20代のスタッフが活躍 若い力で店を盛り上げる

「わたご酒店」のスタッフは多くが20代。
若い力で新しい酒屋さんの形を模索しています。

●スタッフ
「ファーマーズアンドキッチンや他のイベントの担当だったり、広報みたいな。もちろん店頭にも立つ」
●別のスタッフ
「今年で24になりました。こんな感じでお酒に関われたらいいなと思って」

●寺田さん
「僕らの“Fun to Drink;スローガンを持っていて、デジタルの時代になっても、人と人が語らうことの価値は無くならないなと思っていて。
今日は酒が美味いって、お酒が美味しくなったわけではなくて、今日は一日いいだったなということだと思うので、そこを僕らは助力ができればなと思っています」

■おすすめはカップ酒と100円のあげパン

「お酒を飲まない人にも店に来てほしい」

そんな思いでリニューアルした店があります。
妙高市関山にある「酒のカワカミ」は店内の半分はカフェスペースになっています。
川上裕介さんは3年前、高齢になった祖父から店を継ぎました。

●2代目店主・川上裕介さん
「儲かりはしないだろうなと思って始めて。地元の酒屋さんを無くしたくないとか、店をなくしたくないという意地で」

カフェカフェスペースを担当するのは、母の典子さん。
川上さんが店を継ぐと言ったときは驚いたといいます。

●母・典子さん
「ほんとに?って。それまでお店にほとんど関わっていなかったので。やりたいっていうから、手伝いますって言ったんだけど、こんなに店にいることになるとは思っていませんでした」

カフェの自慢は、典子さんが作るケーキやパフェ。
それともうひとつ「あげパン」です。値段は1つ100円。

●典子さん
「100円じゃなきゃだめ。100円より上がって(硬貨が)2枚3枚になるとだめなんです。1枚じゃないと」

妙高市では昔から給食であげパンが提供されていて、馴染み深い味。
あげぱんを目当てに訪れる、近所の人もたくさんいます。

酒の販売方法も見直しました。

●川上さん
「全部新潟県のカップ酒なんですが、年々一升瓶の売り上げが落ちていて。みんないろんなお酒を飲みたいと思うので、100種類以上あるんです」

一升瓶ではなく、いろいろなお酒を楽しめるカップ酒に力を入れると、観光客も立ち寄ってくれるようになりました。

●客は
「完全にジャケ買い。楽しいです」

■これだけは無くしたくない 祖父の代から続く日本酒

それでも無くすことができない一升瓶の酒がありました。

●川上さん
「妙高 天狗の隠し酒という、自分の祖父の時代にこの地域限定で、田植えからやって作っているお酒で、なんとか守りたいという気持ちでやってます」

「妙高 天狗の隠し酒」
妙高市内の酒屋さんが協力し、コメ作りから携わっています。
しかし、いま取り扱っているのは、わずか2軒に減ってしまいました。

●川上さん
「昔はもっとたくさんの酒屋さんで取り扱いしてたんですけど、酒屋さんとかもつぶれたりして。そういうところでも意地があって、なんとか守っていきたいという強い思いでやっています。いろいろ面白いことを取り入れつつ続けていくということを大切にやっていきたいと思っています」

今の時代に合ったあり方を探す「街の酒屋さん」
形は様々ですが、酒の魅力を知ってほしい。
そして、店を残していきたいという気持ちは同じです。

(※2023年10月10日「夕方ワイド新潟一番」放送より)