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【特集】ことしで終わらない?“令和のコメ騒動” 新米の出荷で一見解消するも「来年分を先食いしている」と専門家 ≪新潟≫

2024年9月20日 19:00
【特集】ことしで終わらない?“令和のコメ騒動” 新米の出荷で一見解消するも「来年分を先食いしている」と専門家 ≪新潟≫

“令和のコメ騒動”としてコメ不足が深刻となる中、県内でも新米が出回り始めました。
農水省は新米によって品薄が解消するとの見通しを示していますが、専門家はこのままでは来年の夏再びコメ不足になりかねないと指摘しています。
どういうことでしょうか。

黄金色に実った稲穂はまさに日本の宝……
本格的な稲刈りのシーズンを迎えた県内。
8月下旬から、待ちに待った新米も徐々に出回り始めました。

ただ、新米を求める人から聞こえてきたのは……。
〈新潟市からの客〉
「(コメが)どこにもなくて。全然ないですね。うちもあと2日分ぐらいでなくなるところだったのね」

〈埼玉県からの客〉
「スーパーに全然ないんですよね」

■コメ不足の正体とは

全国的に広がったコメ不足……。

コメどころの新潟でも品薄となるスーパーもあり“令和のコメ騒動”ともいわれるほどです。

農水大臣はことし8月、在庫が少ない時期に地震や台風に備えた買いだめの動きが出たことに加え、お盆休みの影響で物流が滞ったなどと説明。
在庫は確保されているとの見方を示しました。

しかし、こんな指摘をする人も……

〈キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下一仁さん〉
「猛暑とかインバウンドの需要をうんぬんする前に、そもそも昨年産のコメの生産量が10万トン減少してたということなんですね。だから40万トンぐらいの不足が多分あるんだろうと思いますね」

元農水官僚で農業政策などを研究している山下一仁さんです。

コメの生産量は年々、減ってきていたと話します。

国内は近年、主食用のコメの需要が毎年およそ10万トンずつ減少していました。
これに合わせるように供給も減少させていて、去年は前の年と比べて9万トンほど少ない生産量だったというのです。

それに加え、去年は猛暑によってひび割れたり白濁したりする米粒が多くなりました。
そうした粒が精米した際に取り除かれ、20万トンほど減少したといいます。

さらに、農水省は海外からの観光客が増えた上、物価高騰の中でのコメの値ごろ感が後押しして需要が去年より11万トン増えたとしています。

山下さんはこれらを合わせ去年よりも40万トン足りなかったと計算しています。

また、農水省も7月末現在の民間在庫が前の年の同じ時期より40万トン少ないと公表しました。(8月30日発表)

〈キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下一仁さん〉
「確かに9月になると落ち着くでしょう。でも9月に供給されるコメというのは今年産のコメなわけですよね。それを40万トン少なくなるということで、本来ならことしの9月から来年の8月に供給されるコメを先食いしてるわけですよね。先食いするということは来年の7月、8月の端境期にまたコメが不足するというわけです」

■コメの作り手は減少の一途

再びコメ不足に陥るかもしれない……しかし、産地は様々な事情を抱えています。

8月の魚沼市。
田んぼで作業していたのは井口勝士さん、82歳です。

〈井口勝士さん〉
Q.真夏に背負うのは本当に骨が折れますね
「肥料だけで20キロ入るから。(機械との合計が)50キロになる」

毎朝10キロ以上のウォーキングをするほど体力には自信があります。
それでも、一人で草刈りや肥料撒きを行うには限界があり、ことし一部の田んぼを手放しました。

いま、こうした農家が増えています。

〈井口勝士さん〉
Q.農業の機械化(スマート化)をどう思う?
「いや先のことは考えません。そういう機械は高くて買えないもん。いま(肥料撒きの機械)1つでも14~15万する。コメが安いし、肥料は高いし、農薬は高いし」

個人のコメ農家の平均年齢は全国、県内ともに68.9歳。
(出典:農林水産省「2020年農林業センサス」)

高齢化などを背景に5年に1万軒ほどのペースで減り続けているのです。

■海外輸出の増加が、コメ不足の解消に貢献!?

そうした中、国が進めているのが農業の大規模化です。

ただ、海外に目を向ける生産者も。
およそ50ヘクタールの田んぼでコメを作る上越市の「内山農産」。
肥料まきはことしから別の生産者に委託してドローンを導入しました。

〈内山農産 内山義夫さん〉
Q.あっという間ですね
「速いですね。非常にこの暑い炎天下でしょ。こういうまき方でないと、なかなか従業員も大変なんでね。だから来年もお願いしますと頼んでるんですわ」

この夏、内山さんのもとに、あるバイヤーがやって来ました。

台湾系のアメリカ人、デヴィッド・リンさんです。
日本米を中心に様々な食材を取り扱い貿易を行っています。

15年以上の付き合いで、リンさんと契約し台湾にコシヒカリを輸出しています。

リンさんが台湾で扱っている日本米は去年産だと65銘柄にものぼります。
毎年、「新米フェア」を開き日本の自治体の職員や生産者が代わる代わるPRに訪れているといいます。
世界で注目される日本のコメ……。

農水省が9月3日に発表した今年の1月から7月のコメの輸出量は前の年の同じ時期と比べて23%増加し、2万4469トンと過去最高となりました。

国内で品薄状態となる中、日本のコメが海外の店に並んでいるのです。

〈キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下一仁さん〉
「日本のコメは特に新潟はベンツどころじゃないんです。ベンツやレクサスじゃないんです。ロールスロイス。世界に冠たる品質のコメなんです。夢のある政策をやるべきなんです。そのリーダーとして新潟県は頑張るべきなんです」

山下さんはコメを可能な限り生産して海外に輸出するべきだと指摘。
コメの価格が下がったとしてもその分、輸出で所得が上がると話します。

〈キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下一仁さん〉
「250万トン輸出していれば、かりに不足が40万トン起こったとしても、輸出量の20万トンを40万トン減らして210万トン輸出すれば国内の供給は何も問題ないわけです。アメリカやEUもそういうことをやってきているわけです。増産して輸出することは世界の食糧安全保障ないし日本の食糧安全保障にも寄与することなんです」

店頭から次々にコメがなくなった“令和のコメ騒動”

改めて日本の主食、コメの在り方を考えるきっかけにもなりそうです。