【独自】重大な少年事件や永久保存の記録廃棄するも…裁判所の懲戒処分は全国0件 当事者は「身内に甘い」
大分地裁を含む全国の裁判所で発覚した重大な少年事件や民事裁判の記録の廃棄。
今回TOSの取材で、関係者への処分は「厳重注意」などに留まり、懲戒処分は1件も行われていなかったことが明らかになりました。
こうした対応に当事者や専門家からは厳しい声が上がっています。
神戸連続児童殺傷事件など重大な少年事件や民事裁判の記録が廃棄された問題。
2023年5月、最高裁は調査報告書を公表し、謝罪しました。
大分地裁では永久的に残す「特別保存」としていた民事裁判6件の記録を廃棄。
記録の表紙に「特別保存」であることを「朱書き」しなければならないと認識していながら、全く行っていかなったほか、システムへの情報入力ミス、後任に引継ぎしなかったなど職員が適切な事務を行っていなかったとしています。
◆TOS渡辺一平記者
「人的なミスで失われた重要な記録。しかし、関係者に行われたのは懲戒処分に満たない処分でした」
大分地裁によりますと、行った処分は管理職1人に対して「厳重注意」。また、それよりも軽い「注意や指導」をほかの職員にも行いましたが、停職や減給などの懲戒処分は行わなかったということです。
大分地裁は「事実に基づいて対処した」としています。
大分地裁が廃棄した記録の中には2009年、竹田高校の剣道部員の工藤剣太さん(当時17)が熱中症で亡くなったことを巡る民事裁判の記録も含まれています。
◆工藤剣太さんの父・英士さん
「当然、懲戒処分くらいのものはあると思っていたので、今、聞いてびっくりした。いかに身内に甘いのかなとつくづく思う」
また、最高裁によりますと、この問題に関して、全国の裁判所でも懲戒処分は1件も行われていないということです。最高裁は「適切に対応したものと考える」とコメントしています。
こうした対応に公務員としての行政実務の経験がある専門家は―
◆ 日本大学 危機管理学部 鈴木秀洋教授(行政法など専門)
「この案件を軽視したことに結果的にはなると思う。(職員個人ではなく)組織全体の責任が考えられるものということであれば、組織として法制度をこれからこう変えていくとか、マネジメントをどう変えていくかという話になっていくと思う。今回はその両方が十分国民に見える形になってない」
一方、求められているのが記録の復元です。
最高裁は「困難」としつつも、2023年6月、工藤剣太さんの両親と面会した際、職員はできる限り努力する考えを伝えていました。それから1年以上が経過しましたが…
◆工藤剣太さんの母・奈美さん
「説明が一切ない。こちらから電話でたずねても『検討中です』という言葉しか返って来ないところに誠意を感じない」
◆工藤剣太さんの父・英士さん
「このまま、うやむやにして終わってしまうのではないかという気持ちがある」
最高裁は記録の復元が困難であることを踏まえて、「他の方策を内閣府や国立公文書館と検討している」ということですが、TOSの取材に対し、「協議が継続中であるため、現時点でお伝えできることはありません」とコメントしています。
失われた国民の財産とも言える重要な記録。その後の裁判所の対応に厳しい目が向けられています。
――日本大学 危機管理学部 鈴木秀洋教授(行政法など専門)のコメント
記録破棄後、最高裁判所が遺族に謝罪した後1年以上経過した現在、職員個人の懲戒処分はなされず、また組織としての復元の取組の検討もなされていない。
本件は、裁判記録、特にその中でも後世に残す歴史的価値が高いとして特別保存指定された記録が廃棄された事案であり、特別の配慮と対応が求められる案件のはずであり、結果的に軽視していると言われても仕方がない。
個人の重大な過失で今回の廃棄が行われたと判断するなら個人が懲戒処分受けるべき。個人の問題ではなく、組織の責任と判断するなら、組織マネジメントや法制度の改変が必要。その両方とも、国民や遺族に示されていない。
法制度は、ゼロか100かではなく、グラデーション的な設計ができる。特に今回は、自然災害による文書滅失ではなく、人為的滅失である。現在特別保存のあり方の議論がなされているが、指定後の人為的滅失は今後も必ず起きる。指定記録廃棄の場合の復元義務の法整備は不可欠である。
憲法が保障する裁判を受ける権利を実質的に担保する裁判記録の重要性との視点、遺族にとって亡くした子の生きた証を公的に証明する唯一ともいえる裁判記録を復元する過程を当事者の方々と話し合いながら行うこと、それこそが裁判所の信頼確保の道である。