【特集】「主役ではないけれど…暮らしに寄り添う器を」 伝統工芸「南木曽ろくろ細工」会社員から職人の道へ 受け継がれる伝統の技【長野】
木材から作り出される伝統工芸「南木曽ろくろ細工」。木の表情を大切にしながら作品を生み出す若手職人の思いに迫ります。
塩原孝介さん
「木っていう自然の素材なので意図したものにはならなくて逆にそれが魅力で」
南木曽ろくろ細工の世界に新たに加わった塩原孝介さん37歳です。
塩尻市出身で、会社員として働いていましたが、以前から興味のあったものづくりに携わりたいと30歳から専門学校に通いました。
地元のベテラン職人のもとで修業したあと、ろくろ細工職人の一歩を踏み出しました。
木曽郡南木曽町に江戸時代から伝わるとされる「南木曽ろくろ細工」。地元の木材をろくろで回転させ、形を削り出して作る器です。国の伝統的工芸品にも指定されています。
「私が好きなのは山桜ですね、優しい感じがするので」
「木目が強い木とそうじゃない木があるので好みが分かれますね」
今年7月、塩原さんは南木曽町に店を構えました。工房は隣の大桑村に。
名前は「TADORU WORKS」。「山をたどる」「伝統工芸を通じて地域をたどる」そんな意味を込めました。
塩原さん
「必ずしもどこか遠くに行って適した材料を探すというよりかはこの地で出会ったのをどうやって生かすかというのを考えているのでそういう観点で見ています」
塩原さんの作品はクリやトチノキなどすべて木曽地域の木材にこだわっていて地元の材木店で品定めをします。
「こっちのほうが素直そう。素直だけど面白くない…」
寒さが厳しい木曽地域の木材は目が詰まっていて良質で作品に適しているといいます。木目を眺めるとそれぞれ少しずつ違っている木材の表情。木材業者も塩原さんのような若い力に期待を寄せています。
丸一木材工業 北原大さん
「地域に根付いてくれて地元の木材を活用してくれて、素晴らしい製品を作ってくれるのでこれからもどんどん地元のものを使っていいものを作ってほしい」
納得のいく木材を選んだら、どの部分を器にしていくか決めます。木の状態を確認しながら選ぶ繊細な作業です。
塩原さん
「木の繊維というか強度が弱っているかもしれないので避けてあげて、木取るように」
器の形になるようにろくろで削り、乾燥させて、また整えるという作業を繰り返します。
南木曽ろくろ細工は、木の選定から削り、漆塗りといったすべての工程を完成まで一人で手掛けます。
丁寧な技術が求められる一つ一つの工程に思いを込めます。
塩原さん
「いろいろ進むIT化とか情報化の中で反動じゃないですけど人が求め始めているんじゃないかなと思っていて、そういう意味では私はものづくりを通じて少しでも身近にある山とか森を感じてもらえるように届けられたらなと思っています」
一方で、職人になりたいと手を挙げる人は年々減っています。40年前、南木曽ろくろ細工の職人は130人いましたが、現在は20人ほどに。そのほとんどが高齢です。
作り手が減れば木曽の豊かな森の魅力を伝える機会も減る…地元では危機感を感じています。
南木曽ろくろ工芸協同組合 小椋一男理事長
「無駄にできないとか大切にしないといけないという思いは強いです。とても喜ばしいことだと思います。彼みたいな人が南木曽ろくろ細工の仲間になってくれたのでとても頼もしいなど持っています」
南木曽ろくろ細工は仕上げの漆塗りまで、長いもので100日ほど十分な乾燥に時間がかかります。1か月で完成できる作品はわずか50個。
根気のいる作業ですが、塩原さんは木との対話を楽しんでいます。
塩原さん
「木っていう自然の素材なので意図したものにはならなくて逆にそれが魅力で、すべて違うものができるのでこちらで何か特別に木の魅力を引き出そうとかそうやって作らずとも勝手に木がいい表情を出してくれるというかそういうところが面白いなと思います。主役ではなくてあくまで器ですのでわき役ではあると思うんですけどそこにいつもあるようなものでありたいな、そういうものを作りたいなと思っています」
山が育んだ木の温かみや自然にしか織り成せない美しさ。受け継がれる伝統の技によってその価値が伝えられていきます。