×

【心地のいい場所】1学年1クラスの小規模校の定員が来年度から2倍に 人口4700人の過疎の町にある県立高校が定員増を成し遂げたワケとは 岩手県西和賀町

2024年11月26日 19:39
【心地のいい場所】1学年1クラスの小規模校の定員が来年度から2倍に 人口4700人の過疎の町にある県立高校が定員増を成し遂げたワケとは 岩手県西和賀町

 1学年1クラスだけの小規模校・岩手県立西和賀高校は、来年度から定員が2倍に増えます。岩手県内の高校で、統合以外の理由で定員が増えるのは実に20年ぶりで異例のことです。人口減少と少子高齢化が進む西和賀町の高校で、なぜ定員が増えるのか。北上支局・熊谷記者のリポートです。

 県内で最も高齢化率が高い西和賀町。

 人口は4700人。その半数以上、およそ54%が65歳以上の高齢者です。

 このまちにある小規模校で、生徒たちは驚くほど生き生きと高校生活を送っています。

 生徒たち
「楽しいです」「就職率が高かったので」「いい意味で想像以上だった」「西和賀高校、最高!」

 ここでは、様々なことが生徒たちをひきつけています。
 
 生徒
「なんか将来、本当にこっちに住みたいと思うくらい、心地のいい場所ではあります」

 全校生徒105人の県立西和賀高校。各学年1学級だけですが、近年、志願者が増えています。

 地元の要望を受け、40人の定員は、来年度から80人に倍増することが決まりました。

 岩手県教育委員会 佐藤一男教育長
「地域の方々や地元自治体からの継続的な協力・支援による成果であると」

 県教委によりますと、県内の高校で統合以外の理由で定員が増えるのは、2005年度の岩泉高校以来ですが、このときは町内の中学3年生がたまたま多かったため、「一時的な措置」として実施されました。今回は「異例の決定」です。

 生徒が集まる背景には、町をあげた「手厚い教育支援」の取り組みがあります。

 こちらは、数学と英語で行っている習熟度に合わせた授業です。きめ細かな指導により、大学への進学、就職など「進路の実現100%」を継続して達成。さらに無料バスの運行、資格検定料や昼食のおかず購入費の補助まで、「経済的支援」も充実しています。

 西和賀高校 千葉賢一 副校長
「(大事なのは)生徒ひとりひとりに真摯に向き合い、丁寧に対応することだと思っている」

 3年生(北上市から通学)
「習熟度別指導で自分の得意分野だけじゃなく苦手な分野も勉強できるようにと思って(入学した)」

 3年生
「(Q:西和賀高校に入ってよかった?)そうですね」

 3年生(北上市から通学)
「進路担当の先生のおかげで自分に合った企業を見つけられて、今後の人生も見えてきたかなと」

 2年生(北上市から通学)
「西和賀高校は町の支援があってこその高校だと思う。検定や模試の受験料など全部、町の人からの支援で成り立っているのですごくありがたい」

 町が西和賀高校の魅力アップに取り組み始めたのは2018年。高校再編で入学定員が1クラス40人だけに減ったのがきっかけでした。生徒に選んでもらえる学校づくりに、地域の生き残りがかかっていました。

 西和賀町 内記和彦町長
「(西和賀町は)過疎であったり人口減少という厳しいことを言われているけれど、ここでしっかり生活できるという持続性を確保するうえで(西和賀高校は)とても大きな存在」「町民挙げて存続に向けた取り組みを重ねてきた。その成果として定員を上回る入学希望者がいたという状況を踏まえて、県教委と県知事にそういう判断をしてもらい本当にありがたく思っているし、これからもっとがんばっていきたいと思っている」

  町が整備したこちらの女子寮は、なんと温泉付き。かつての温泉宿をリフォームした建物で、現在、町外出身の5人が生活しています。実は地元出身の生徒は少なく、全校の6割は北上市から入学していて、秋田県や関東から来ている子もいます。町の担当者が中学校を丹念にまわり、「一人一人を伸ばす教育」をアピールしてきた成果です。

 西和賀高の寮生 木村朱里さん(1年・埼玉県出身)
「継続することができない性格だったけれど、ここでボート部に入ってからは熱中できているし、継続する力がついたかなと感じる」

 西和賀高の寮生 照井日心さん(2年・北上市出身)
「(西和賀での寮生活は)いい意味で想像以上だった。周りは誰も知らないところからのスタートだったので不安だったけれど、地元の人たちの温かい感じで大丈夫と思えた。人と話すことが楽しくなって、コミュニケーションをとることが上手になったし好きになったと思う」

 地域の人たちとのふれあいは、西和賀高校の大きな特徴のひとつ。

 2年生の高橋なびらさんは、この日、秋田県横手市からの通学途中、JRほっとゆだ駅に着くと、学校ではなく、駅前の足湯コーナーへ直行。落ち葉を拾ったり、積もった雪を払ったりしていました。

 入学以来ほぼ毎日続けている日課で、最初はスクールバスが出発するまでの時間を潰すために始めたそうですが、毎日やっているうちに近所の人と仲良くなりました。

 近所の人
「掃除をしてくれてたことに感心して」
 高橋なびらさん
「話し相手になってもらってます。進学に関することの相談に乗ってもらったり…(Q:なんか第2の…)そうですね、第2のお父さんです」
 近所の人
「じいさんだべ」
 高橋なびらさん
「あ、おじいちゃん…仲良くさせてもらってます。今度家に行きたいと思ってて…」
 近所の人
「はい」

 西和賀高校2年 高橋なびらさん (秋田県横手市から通学)
「(西和賀町とは)つながりがなかったので、ほめられたのがうれしくて…朝はいまさびしくない。みんな声をかけてくれるので、始めてよかった。いいことすればいいことがあるなと…まちのためにできることはしたいと思うし、もっと仲良くなりたいと思う人もたくさんいる。なんか将来、本当にこっちに住みたいと思うくらい、心地のいい場所ではあります」

 西和賀高校 千葉賢一副校長
「本当に生徒たちの成長を感じるし、中学校でそれほど活発でなかったとしても、高校で頑張っているというのを、中学校の先生からよく聞く。ありがたいしうれしいことだと思っている」

 きめ細かな教育で生徒をひきつけ、全国からも注目される西和賀高校。今年度は県の内外から、のべ23人の中学生が見学に訪れました。

 ここは、生徒にとって「心地のいい場所」。人口減少が進む町で、子どもを第一に考える最先端の教育が行われています。

最終更新日:2024年11月26日 19:39