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【特集】つなぐ②老舗和菓子店 亡き兄が残した菓子と伝統を次世代へ 岩手

2024年10月10日 16:34
【特集】つなぐ②老舗和菓子店 亡き兄が残した菓子と伝統を次世代へ 岩手

 今月のシリーズ「つなぐ」、2回目は盛岡市の老舗和菓子店が舞台です。亡き兄が残してくれたお菓子と店の伝統を次の世代へつなごうと、挑戦が続いています。

奥堂さん「兄が残したお菓子だけは、続けていきたいなって思ってます」

 盛岡市材木町に店を構えて115年。「御菓子司 (おかしつかさ)山善」は、創業当時から受け継いだ 伝統和菓子をはじめ、年代を問わず、喜ばれるお菓子を提供し続けています。

 一つ一つ地元の食材と手作りにこだわった和菓子。職人の技が光る上生菓子は、四季を伝える味わい深いひと品です。

 店内に飾られたお菓子で作った「南部花車」。およそ3年がかりで、職人たちが作りあげました。

 当時の写真に写る若き職人。5代目を継ぐはずだった、長男の「貴英」さんです。

井上フミエさん
「29歳で亡くなったね。あれはもう、どん底だったね。今でも考えると。お菓子が好きだったから、安心してた所に そういう事故でね。亡くなっちゃったけども。その時だったら辞めようと思ったね」

 消えそうになった山善をつなぎ止めたのは、「貴英」さんが最後に手掛けたお菓子、「もちもち焼き」でした。

井上さん
「ちょうどできあがって、これから売り出そうってやって間もなくですから亡くなったのがね。お兄ちゃんがお土産に置いてったんだなぁと思ってね。売らなきゃない、頑張らなきゃないっていう」

 その名の通り、もちもちとした生地が特徴の「もちもち焼き」。今では 1日に1200個も作るほどの人気商品になりました。

 包装作業をしているのは奥堂和香子」さん。「フミエ」さんの二女で、東京の大学へ行き、経営学と商業デザインを学びました。

奥堂さん
「向こうでも、一応デザインに関われる その会社の広報っていう仕事はしてたんですけど、やっぱ父と母もだいぶ歳もなってきて、そろそろ帰ってもいっかな…って(笑)思いました」

 店を手伝うだけだった和香子さんにある転機が訪れます。

奥堂さん
「コロナぐらいの時に、やっぱり お客さんも少なくなってきて『今後どうしようかな』ってちょっと思った時期があって、なくしちゃいけないお菓子を、どうやったら売れるかな…っていうのは考えてました。その頃」

 3年ほど前、和香子さんはある事を手掛けました。それは、大学で学んだ事を生かしたお菓子のパッケージや包装紙の デザイン。若手デザイナー松前さんとタッグを組んで、創業以来の伝統商品、「ぶどう飴(あめ)」のパッケージと包み紙を一新したのです。

松前さん
「やっぱり今までの山善さんの歴史で培ってきた雰囲気とか、たたずまいっていうものを、絶対に崩してはいけない。プラス、私みたいな若い人に頼んでいる意味みたいな所もしっかり汲んで、そこをうまく融合させていくっていうのをとても大事にしてます」

奥堂さん
「若い人にも見てほしいんですけど、やっぱり、ご高齢の方にも『あ、素敵なデザインね』って手に取ってもらえるようなデザインにしたいなっていうのは心がけてますね」

 「ぶどう飴」のパッケージを一新したことで、店を訪れるお客さんにも変化がありました。

井上さん
「買いに来るお客さんは、私ら年代の人もいらっしゃるし、あとこのパッケージ買えたことによって若い人たちが 結構、寄ってくれますよ。やってもらってね、感謝しなきゃいけないね。けんかもするけども」

 この日、和香子さんは、盛岡駅にある支店を訪ねました。

奥堂さん「お疲れ様です。抹茶のもちもち焼きの試作ができたので皆さんで召し上がって、感想を教えてください」

店長「じゃあ皆で食べさせていただきます」

和香子さんが手掛けた抹茶あんの「もちもち焼き」です。

奥堂さん「どうぞ。皆さんで 食べてみてください。抹茶の風味が負けてない」
井上さん「味がいいよね?」
職人「ちょうどいいね」
井上さん「OKだね。 お世辞はいいのさ」

 「もちもち焼き」の新作には和香子さんの願いが込められています。

奥堂さん
「最終的には、もしお菓子がどんんどん減ってってももちもち焼きだけでも、販売できるようなお店は続けていきたいなって思ってます。気軽に入って頂いて、お菓子を選んで、『あ、お土産にもいいね』って思って頂ける盛岡の代表の一つになれたらいいなと思ってます」

 亡き兄が残してくれたお菓子と店の伝統を新しいパッケージで次の世代へ。和香子さんの挑戦は続きます。