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【千年の歴史に幕】 岩手県奥州市で最後の『黒石寺蘇民祭』 青年部長「記憶に残るすばらしい祭り…」

2024年2月19日 20:23
【千年の歴史に幕】 岩手県奥州市で最後の『黒石寺蘇民祭』 青年部長「記憶に残るすばらしい祭り…」

 岩手県奥州市では17日、関係者の高齢化と担い手不足を理由に、ことしで最後となる黒石寺蘇民祭が行われました。

 1000年以上続いた奇祭、様々な思いが渦巻く中歴史に幕を閉じました。

 北上支局・熊谷記者が取材しました。

 今月17日、奥州市水沢の黒石寺で行われた、黒石寺蘇民祭です。

 薬師如来への信仰にもとづき、下帯姿の男たちが無病息災と五穀豊穣を祈願し、夜通し行われる祭りは1000年以上続くとされ、国の選択無形民俗文化財・「岩手の蘇民祭」のひとつです。

 しかし今回で、その歴史に幕を降ろすことになりました。

 黒石寺 藤波大吾 住職
「祭りの中心を担っている関係者(檀家)の高齢化、将来的な担い手不足により、祭り自体をこれまで通りの形で維持していくことがかなり困難な状況になっている」

 2023年12月、黒石寺の藤波大吾住職は会見で、今回の蘇民祭を最後にすると表明。

 また、住職は蘇民祭について、地域で守り続けてきた信仰の形のひとつであるとして、『先祖代々伝わる檀家の役割は代えが効かないもの』であると話しました。

 黒石寺 藤波大吾 住職
「閉鎖的と捉えられるかもしれないけれど、その部分の形を変えてまで祭りを継続するのは本質的ではないと考えた」

 長年祭りに参加し、保存に力を入れてきた人は…

 黒石寺蘇民祭保存協力会 菊地敏明 青年部長
「さびしくもあり、残念でもあるが、納得せざるを得ないのかなと…」

 蘇民祭に、特別な思いをもって参加し続けているひとがいます。

 県産の米を使った酒造りにこだわっている、北上市の酒造会社・喜久盛酒造の五代目蔵元、藤村卓也さん51歳です。

 全国の奇祭を見物するのが趣味という藤村さんは、知り合いに誘われたのをきっかけに、2008年から黒石寺蘇民祭に参加し続けています。

 蘇民祭を愛する 藤村卓也さん(51)
「蘇民祭は特別と言うか、真冬にあの格好でという祭りは他にないし、『参加しないともったいない』かなと」

 2020年の蘇民袋争奪戦では、取主まであと一歩のところまで迫ったという藤村さん、次こそはと意気込んでいた矢先のコロナ禍で、翌年から争奪戦は中止に。

 このため藤村さんは、蘇民祭の完全復活を願い、祭りの儀式のひとつ、『柴燈木登』の名を冠した酒をつくるなど、祭りと取主になることへの熱い思いを持ち続けてきました。

 蘇民祭で取主目指す 藤村卓也さん(51)
「蘇民祭の『取主』が賞品としてもらえる米で、酒をつくりたい。蘇民祭の賞品の米にはご利益があると思うし、それでつくった酒をみなさんに飲んでもらいたくて参加し続けてきた」

 喜久盛酒造は、2011年の東日本大震災以降、度重なる地震や大雪により、酒蔵が倒壊するなどの困難を乗り越えて酒をつくり続けています。

 そして創業130年を迎えたことし、藤村さんは喜久盛酒造の本格的な復活を目指し、北上市にある本社の敷地に新しい酒蔵などを建てました。

 自身の経験から『復活』することの難しさを知るだけに、蘇民祭が終了する背景と、復活を願う声にも理解を示しています。

 蘇民祭を愛する 藤村卓也さん(51)
「参加するみなさんにはいろんな思いや願いがあると思う。家内安全、五穀豊穣、商売繁盛、ひとそれぞれ違うと思うので、そういう願いが叶うようなものになればと思っている」

 午後6時、最後の黒石寺蘇民祭が始まりました。

 下帯姿の男たちはまず、川の冷たい水を浴びて心身を清めます。

 今回は日程を縮小しての開催ながら、『ことしで最後』ということもあってか、これまでにない人数が参加し、多くの見物客と報道陣も集まりました。

 兵庫から来たひと
「独特の雰囲気で、掛け声もすごくて、すごくかっこよかった」

 奈良県から来たひと
「こんなにたくさん人がいるのに、なんでやめちゃうのかなと、残念ですね」

 最後と聞いて駆けつけた 漫画家・やくみつる さん
「勇壮ですね。これだけ密な祭りもそうはないと思う。(最後というのは)もったいないですよね」

 地元住民
「やっぱりさびしいですよね。事情もわかるしね…やむを得ないのかなと」

 午後10時、祭りはいよいよ、クライマックスの蘇民袋争奪戦へ。

 今回はコロナ前の2021年に比べて、倍以上となる270人が争奪戦に参加しました。

 喜久盛酒造の藤村さんも悲願の取主を目指し、蘇民袋に向かって果敢に攻めます。

 1時間ほど続いた激しい争奪戦の結果、黒石寺蘇民祭保存協力会青年部長の菊地敏明さんが取主に。

 藤村さんは、あと一歩及びませんでした。

 喜久盛酒造 五代目蔵元 藤村卓也さん
「最後ということで全力は出し切ったので、袋を握るところまでは行けたし、最後の最後で近いところまでいって、あとはちょっと運がなかったかなと。蘇民祭の賞品の米に限らず、今後も岩手県の米だけで、おいしい純米酒だけつくっていければと思う」

 黒石寺蘇民祭保存協力会 菊地敏明 青年部長
「(今回は)本当に素晴らしい、記憶に残る祭りでした。今回でひと区切りだけど、こういう蘇民の信仰を、形は変わるかもしれないけど残していきたいと思っている」

 いっぽう、報道陣の取材に応じた、黒石寺の藤波大吾住職は、蘇民祭の存続を願う声について…

 黒石寺 藤波大吾 住職
「これだけ多くの人がこの祭りを好きで、必要としてくれているということは率直に感じた。祭りというか蘇民信仰・薬師信仰については、みなさんとまたこれから話し合いを重ねていきたいと思っている」

 関わるひと、それぞれの思いが渦巻くなか、黒石寺蘇民祭は1000年以上続いた歴史に、幕を降ろしました。