【特集】シンボル?それとも迷惑?山中湖と河口湖 コブハクチョウで対応異なるワケとは… 山梨県
県内の一部の湖に生息するコブハクチョウを巡り、隣り合う2つの湖で対応が分かれています。地域のシンボルか?それとも迷惑な外来種か?コブハクチョウを取り巻く現状を取材しました。
■2つの湖にある“温度差”
湖面を優雅に泳ぐ白い鳥。オレンジ色のくちばしと、その付け根にある黒いこぶが特徴のコブハクチョウです。県内では富士山麓で人気の観光スポット、山中湖と河口湖でも生息が確認されていて、愛らしい姿を見ることができます。
しかし、地元自治体に湖のコブハクチョウについて聞いてみると…
山中湖村観光課 長田道仁 課長
「山中湖の鳥として愛されてきたこのハクチョウを、しっかりとこれからも守っていきたい」
富士河口湖町農林課 小佐野俊之さん
「農被害などの報告を聞いているので、河口湖の水質や漁業などへの影響を懸念している」
山中湖と河口湖、隣り合う2つの湖で考え方が大きく異なっています。
■山中湖では湖の“シンボル”
山中湖では1968年に2組のつがいが放されて以降、半世紀以上にわたりコブハクチョウが定住。エサ代は村が負担し、ボランティアが毎日エサやりをしています。
山中湖村観光課 長田道仁 課長
「山中湖のシンボルとして今まで愛され親しまれてきた。抱卵し始めたらその巣の周りに囲いをして、ハクチョウを守っている」
そのかわいらしい姿から、村の大事な観光資源でもあります。
山中湖村観光課 長田道仁 課長
「湖とハクチョウ、富士山をバックに。そういった景色を(観光客に)楽しんでいただく」
■河口湖では“疑卵”で対策
一方、約15キロ離れた河口湖ではー。
富士河口湖町農林課 小佐野俊之さん
「町としてまずは、増やさないことを念頭に動向を注視している」
河口湖のコブハクチョウは2020年に初めて飛来しているのが見つかり、今年は4羽が確認されています。コブハクチョウはもともと日本には生息しない外来種。食欲が旺盛で湖の水草を大量に食べるほか、周辺の農作物を食い荒らす被害が懸念されています。
町と協力し河口湖のコブハクチョウを調査している、篠田授樹さんです。
コブハクチョウ研究グループ 篠田授樹さん
「数が多くなるとさまざまな問題を起こすので、まずは増えないように予防的に措置をすることがすごく大事」
生息数を増やさない対策で最も効果が高いとされるのが産んだばかりの卵を偽物の卵「偽卵(ぎらん)」に置き換える方法です。
コブハクチョウ研究グループ 篠田授樹さん
「ただ卵を取るだけだともう一度、生み出してしまう可能性がある。ハクチョウが卵を生んだところで偽物の卵とすり替えることによって、新たに数が増えないように」
河口湖で今年、生まれたコブハクチョウのヒナは「ゼロ」。偽卵を使った取り組みを始めたおととし以降、個体数は少しずつ減っています。ただ、せっかく生まれた命を取り上げる行為に「かわいそうだ」という声もあります。
コブハクチョウ研究グループ 篠田授樹さん
「何を“かわいそう”と考えるかは、いろいろな考え方があると思う。私が一番かわいそうだと思うのはかわいいヒナのうちにエサをあげて、無秩序に数が増えてしまって“個体を少し減らしましょう”となった時に奪う命の数が増えてしまう可能性がある」
目の届く範囲で管理することが、コブハクチョウにとっても幸せではないか。篠田さんはそう考えています。
■“行き来”確認で実態調査へ
これまでの調査で、河口湖に定着した1羽が山中湖でも確認され、一部のコブハクチョウが2つの湖を行き来していることが分かりました。河口湖で数を減らしても、山中湖で増え続ければ意味がないー。
2つの湖がある地域全体で管理する必要がある中、山中湖村でも今年からコブハクチョウに「足環」を付け、個体ごとにどのような動きをしているか調べることを決めました。
山中湖村 高村正一郎 村長
「山中湖で生まれ育ったハクチョウが他の地域、村外に行って被害をその地域で与えてしまうこと。それについては我々も真剣に考えていかなければならない」
半世紀以上にわたり愛されてきた地域のシンボルと、3年前に突如現れた新参者の外来種。場所によって180℃異なる立場にコブハクチョウは今、何を思っているのでしょうか?
(YBSワイドニュース 2024年7月4日放送)