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【独自解説】「“外部の弁護士”に依頼した“内部調査”」「劇団側の信用性・信頼性は失われてしまった」宝塚歌劇団の調査結果に専門家指摘「再度第三者委員会での調査必要」

2023年11月16日 16:00
【独自解説】「“外部の弁護士”に依頼した“内部調査”」「劇団側の信用性・信頼性は失われてしまった」宝塚歌劇団の調査結果に専門家指摘「再度第三者委員会での調査必要」
遺族側と歌劇団側 食い違う主張

 11月14日、宝塚歌劇団の劇団員が死亡した問題を巡り、劇団側と遺族側がそれぞれ会見を行いました。「いじめやパワハラは確認できなかった」と主張する劇団側に対し、遺族側は「調査は不十分で納得できない」と反論するなど主張が対立しています。果たして真実は…亀井正貴弁護士と企業の危機管理に詳しい桜美林大学・西山守准教授の専門家2人が双方の主張を徹底検証します。

劇団の調査発表に遺族側が反論「会社の依頼を受けた調査委員会という域を出ない」

 11月14日、宝塚側の会見で外部弁護士9人の調査委員会による調査結果が発表されました。調査委員会は、宙組劇団員や遺族など70人以上から、延べ1500時間に及ぶヒアリングを行ったということですが、劇団員のうち4人はヒアリングを辞退したということで、その理由は差し控えるということでした。報告の内容は、過重労働は一部認めるものの、いじめやパワハラは確認できなかった、というものでした。

 この調査委員会に関して、遺族側は、「劇団側は外部委員会という表現を使っているが、これは第三者委員会ではない。日弁連は、第三者委員会が行うべき調査の方法や調査結果の取り扱いなど厳格な規定を定めているが、今回の調査は会社の依頼を受けた調査委員会という域を出ない」と話しています。亀井弁護士も「“外部の弁護士”に依頼した“内部調査”に過ぎない」と指摘しています。

Q.この調査委員会は、第三者委員会ではないのですか?
(亀井正貴弁護士)
「そうですね。だから聞き取り調査される方も、劇団が依頼した“劇団側の弁護士”だとみてしまいますので、話した情報が劇団に漏れてしまう可能性があると考えてしまい、どこまで本当のことが言えるのか?という問題があります。」

Q.宙組だけでなく、その他幅広く調査する必要があるのではないでしょうか?
(桜美林大学 西山守准教授)
「内部調査だけですと本当に事実が語られたかどうかという問題がありますし、本当に事実を明らかにしたいのであれば、退団をした方なども含めてヒアリングをしないとだめだと思います」

Q.1か月で、歴史のある宝塚歌劇団の全貌は明らかにできると思いますか?
(亀井弁護士)
「期間としては短いと思います。3か月は必要でしょう。現役以外にOGにもヒアリングの必要がありますし、LINEやメールも集めて全証拠を調査する必要があります。また団員の意識の問題もあります。団員は特殊な組織風土の中にいますので、そこもほぐしてからヒアリングしないといけませんので、1か月では全然足りません」

Q.宝塚という閉鎖された特殊な環境の中で、パワハラの意識が希薄になっていたということは考えられますか?
(西山准教授)
「非常に考えられます。一般の企業においても、一番多い不祥事はパワハラ・セクハラなんです。特に何も管理をしない状態で、宝塚の様な『閉鎖的な空間』で、『ヒエラルキーがある』、『競争が激しい』という3つが揃うとほぼ確実にパワハラが起きると思ったほうが良いです」

「ヘアアイロンによるやけど」は故意か、“日常的にあること”か…食い違う主張

 今年2月、亡くなった女性が上級生から「前髪を巻いてあげる」と言われ、ヘアアイロンを額に当てられやけどを負ったという内容を、一部週刊誌が報じました。これについて、劇団は「報道の内容は事実無根であることを当事者全員から確認している」と公式HPに抗議文を掲載しました。

 そのやけどについて、劇団診療所の看護師は「痕には残らない程度のやけどで、アイロンによるやけどは日常的にあることで、記録は残していない」としています。宙組プロデューサーは「一部週刊誌の報道後、女性と上級生に別々に聞き取り二人とも『故意ではない』と回答した」と証言しています。それに対して遺族側は、「ヘアアイロンを他人に操作されることはまれで、その特殊性を考慮していない。女性の母親は当時傷をみて『皮膚が赤くなって3cmもめくれあがっている状態だった』と証言したが採用されず、報告書の引用は一方に偏り失当(間違い)である」としています。

 また、やけどの後に母親に送ったLINEには、「まえがみ・●●(上級生)にまかれて・やけどさされた・ちゃいろになってる・わたし・でこ・さいあく・くすりもらってぬってるけど・芝居の通しが痛かった」とあります。

 遺族側は、「(宝塚歌劇団側から)証拠もあれば提出してくださいって言われて、LINEも見せ証言をしました。だけど、こういうところの問題については、一切それとは関係ないところで事実認定していて、その辺のところについて大変残念」だと語っています。

Q.女性本人のLINEも出てきていますが、どう考えますか?
(西山准教授)
「ハラスメント行為というのは、言った・言わない、やった・やらない、と言ったギャップが必ず生じますので、こういった事実として確認できるものを積み上げてどう解釈するかということになるのですが、このLINEをどう解釈するかが置き去りにされていますし、なぜやけどが日常的に起きるのかという説明もされていません。起きていた事実をどう解釈できるのかというのをちゃんと検証していく必要があると思います」

Q.劇団側が幕引きを図っているように見えるのですが?
(亀井弁護士)
「目撃者のいない状況ですので、疑われている人の言い分がそのまま通ってしまう可能性があります。もっと客観証拠を集めて事実認定していくことが必要です。ヘアアイロンの件も故意なら傷害ですので、本来捜査する対象です。故意でなく過失でも民法上の違法性が出てくるのにそのあたりには触れていません」

劇団関係者証言「コンプライアンス研修は“コロナ禍”以降全くやっていない」

 上級生からのパワハラ発言について劇団側は、「『ウソつき野郎』『やる気がない』といった発言の有無については、全て伝聞情報であり確認されていない。ただ、ウソをついていないか何度も聞いていたといった状況は確認されており、大きな心理的負荷になったものと十分に考えられる」としています。対して遺族側は、「上級生が下級生を叱責するという劇団の慣行を無批判的に受け入れパワハラと認定せず、業務上の指導の範囲内と評価している。縦の関係を過度に重視する風潮をそのまま容認し、一時代前の価値観に基づく思考と言わざるを得ない」と反論しています。

Q.パワハラをする側とされる側の認識の違いというものはあるのでしょうか?
(西山准教授)
「パワハラやいじめというものは、やっている側がパワハラやいじめをしていると思うかというとそうではなくて、パワハラの場合は『できていない後輩を指導してあげている』という様な解釈をしています。そこに認識のギャップが生まれます。そこで受けている側とのギャップを埋めていく発想が必要ですが、劇団側にそういった発想がないと思います」

 ミヤネ屋の取材に対して、劇団関係者は、「パワハラ体質は、内部にいる身からしても変わらないと思う。劇団スタッフにおいてのコンプライアンス(法令順守)研修は“コロナ禍”以降全くやっていない。人に言ってはいけないこと、やってはいけないことを伝えないと劇団においてハラスメントの根絶には至らない」と話しています。

 宝塚歌劇団の木場健之理事長は、「劇団独特の閉鎖的な上下関係を見逃していたのでは?」という問いに対して「宝塚歌劇は、109年にわたりずっと出演者が代々上級生から下級生に芸の継承・伝統の継承というのを行ってきた伝統がある。生徒同士の指導・伝承については、出演者でないとわからない部分、生徒として必要な部分もあり、我々事務サイドとしては詳細な内容までは承知はしていなかった」と答えています。

Q.会社側は宝塚の伝統や密室性を過度に尊重しているのではないでしょうか?
(亀井弁護士)
「上級生と下級生の文化の中で醸成された風土なのかもしれませんが、会社側は本来、『そういうことはしてはいけません』と管理をするべきです。しかし、この発言だと管理していないと感じます。なので、『管理していたのに起こったのなら悪質だが、管理していないので責任はそこまでしか認めない』という話だと思います」

Q.我々の管轄では無いという認識だったということですか?
(亀井弁護士)
「そういうことだと思います。今の風潮からして、『やっぱり管理すべきだったから、管理責任を問われても仕方がない』ということで、例えば2割~3割くらい責任を認めるという“いびつ”な認め方をしています」

Q.もう一度第三者委員会での調査は必要だと思いますか?
(亀井弁護士)
「この会見によって劇団側の信用性・信頼性は失われてしまったと思いますので、事実関係を確認するために第三者委員会は必須だと思います。この(内部の)調査委員会の報告を盾に終わらせてしまう態度は非常に悪いと思います」

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