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【独自解説】宝塚歌劇団と女性は実質的に労働契約? “いじめ”報道否定はミス? 亀井弁護士の解説

2023年11月14日 13:53
【独自解説】宝塚歌劇団と女性は実質的に労働契約? “いじめ”報道否定はミス? 亀井弁護士の解説
遺族側弁護団と歌劇団側 異なる主張

 今年9月に現役の宝塚歌劇団員の女性が亡くなったことを受けて11月10日、遺族側が会見を行いました。語られたのは、死亡の背景に「過重労働」や「パワハラ」があったとの主張です。一方、歌劇団側は10月7日の会見で“いじめ”を否定しています。憧れだったはずの舞台で、何が起こっていたのでしょうか?一体どこに責任があるのでしょうか?亀井正貴弁護士が解説します。

遺族側弁護人「劇団と女性は実質的に労働契約だ」

 9月30日、宝塚歌劇団の劇団員の女性が亡くなり、警察は自殺の可能性が高いとみて捜査をしています。10月7日劇団は、死亡の経緯を調べるため外部弁護士らによる調査チームを立ち上げたと発表しました。11月10日、遺族側の弁護人が会見を開き、「女性は、過重労働・パワハラが原因で死に至った。劇団と女性は業務委託契約を結んでいたが、実質的には労働契約だった。劇団側には安全配慮義務が存在する」と主張しました。

 遺族側代理人によりますと、宝塚歌劇団と女性との契約書の内容は、以下のようになっていました。
■劇団が行うレッスンへの参加や自己鍛錬により技能の向上・容姿の管理を求められる。
■劇団が決定した組所属・出演作品・配役・出演劇場・出演期間などについて一切方針に従わなければならない。
■劇団の定めた稽古に参加し演出家などの指示に従わなければいけない。
■劇団の許諾を得ずに劇団以外で演技・歌唱などを行ってはいけない。
などです。

Q. 「劇団と女性は業務委託契約を結んでいたが実質的には労働契約だった」というのはどういうことですか?
(亀井正貴弁護士)
「労働契約ですと『労働基準法』が適応されるので、労働者の保護が要請されます。業務委託契約ですと、独立したもの同士の契約なので、ある程度自由になります。労働契約は支配従属関係と働いたことに対する対価を払うという二つが柱なのですが、この契約書の内容をみますと、『技能の向上・容姿の管理を求められる』や『劇団が決定したことに一切方針に従わなければならない』『劇団の定めた稽古に参加し演出家などの指示に従わなければいけない』などというところに指揮命令関係があり従属関係が出ています。また、『劇団以外で演技・歌唱などを行ってはいけない』というのも『独占的にここで働かなくてはならない』という制約を受けています。ので、この契約は実質的に労働契約だと思います。あとは、賃金体系・報酬がどういうふうになっているかによって、労働者性があるかないかの程度がわかります」

Q.どういう賃金体系だと労働契約なのでしょうか?
(亀井弁護士)
「たとえば、金額が時間によって決められているだとか、どの程度支払われていたのかなども基準になります」

Q.「劇団側には安全配慮義務が存在する」というのはどういうことですか?
(亀井弁護士)
「これは、労働者であろうが業務委託者であろうが問題となる論点です。一般的に安全配慮義務は、事故が起きないように会社は労働者の安全を確保しなければならない。また、過労死に至らないように、自殺する人がないように、配慮しなければならないという義務です。違反すれば損害賠償の対象になります」

 亡くなった女性の労働時間ですが、午前8時半に劇団に到着します。午前9時から稽古が始まりますが、午後1時からの全体稽古の前後にも新人公演に向けての下級生だけの稽古もあり、劇団を出るのは午前0時を回っています。帰宅は午前0時半ですが、その後も書面作成などもあり、睡眠時間が3時間ほどしかない状態が続いていたということです。厚労省による過労死ラインが月100時間以上ですが、亡くなる前1か月間の時間外労働時間は、277時間35分。休日も業務を行わざるを得ず、実質的な休日は一切なかったということです。

Q.これは過重労働になりますか?
(亀井弁護士)
「なってくると思います。管理するからには、『一定以上働かせてはいけない』という、労働者の視点に立った管理を組織規範として存在しないといけません。それと、個人の裁量が持てるかどうかで労働かが決まりますが、全体稽古に関しては、“全体”ですので、『今日は、私は参加しない』というような裁量が持てないので、労働だと認定せざるを得ないと思います」

 元タカラジェンヌの東小雪さんはミヤネ屋のインタビューに答えて、「たとえば、娘役が舞台で使うアクセサリーは手作りで、自宅で夜を徹して作っている。舞台のために努力するという言葉に隠れて、過密なスケジュール・労働がある。寝ないでやる伝統、精進をしていく、下級生の間は苦労があるというもともとの土壌に問題がある」と語っています。

Q.アクセサリー作りは業務ですよね?
(亀井弁護士)
「業務で労働だと思います。しかも深夜労働なので割増賃金の対象になります。暗黙のうちに労働を強いるシステムになっているので、本人がそれを『したい』と言っても、その意思を無視してでも会社としては是正措置を取る必要があります。」

 また、遺族の代理人は「女性は、入団7年目で約45人いる後輩のまとめ役だった。入団当初は8人いた同期が退団などで3人に減り、うち1人は休演していた。残った2人とも娘役で男役の後輩の指導に不慣れだった。人数的に無理な状況だったが劇団は改善措置を行わず、極めて過重な業務を課すこととなった」と主張しています。

Q.人数のことを劇団側が考えていないように見えますが?
(亀井弁護士)
「労働管理を会社が行わずに、先輩が後輩を指導するシステムが問題だと思います」

 2021年8月、亡くなった女性が上級生から前髪を巻いてあげると言われ、ヘアアイロンを額に当てられやけどを負ったという内容が、今年2月、一部週刊誌が報じました。これについて、女性は劇団側の聞き取りに事実を述べましたが、その後上級生から詰問され、劇団が「報道は事実無根である」と声明を出したことで、多大な精神的負荷を受け頻繁に体調を崩すようになったということです。さらに女性は稽古中、頻繁に上級生に呼び出され怒号を浴びせられ、「下級生の失敗は全てあんたのせいや」「マインドが足りないマインドがないのか」「嘘つき野郎」などの暴言もあったということです。

 2月の報道について劇団側は、女性が死亡した後も「“ヘアアイロンを長く押し付けた”とあったが、両者と周囲にヒアリングを重ねた結果“誤って当たってしまった”ということはあった。報道されている書き方は、非常に歪曲された表現」「生徒間で何らかのトラブルがあったのではないかという、弊団としては“否定している事実”を報道されている。劇団としては、“いじめ”という事案があるとは考えておりません」とコメントしています。また同会見で、調査委員会の立ち上げも発表しています。

Q.劇団は会見で、報道を否定するのではなく、調査委員会の報告を待つべきですよね?
(亀井弁護士)
「これはリスクマネジメントからすると最大のミスです。結果的に虚偽報告になりかねません」

 元宝塚歌劇団の東小雪さんは「長時間労働は舞台に向けた精進、パワハラは愛ある指導に置き換えられ悪いことだと認識できなくなる。音楽学校時代に私自身、加害者にまわっている。辛かったはずなのに加担したという反省があり、負の連鎖を断ち切りたい。OGは衣装に針を入れられるなどの悪しき風習を、『辛かったことを乗り越えて今がある』といった美談や笑い話にするのはよくない。他のOGも知っているはずなのに沈黙していることが辛くて怖い」と話しています。

Q.所属する劇団員は感覚がマヒしてしまっているのでしょうか?
(亀井弁護士)
「支配従属関係が伝統的にあって、みんなそれが普通だと意識していくと、そういうふうになると思います」

 劇団は、ホームページで「調査結果につきましては、今後の改革の方針とあわせて、近日中にお知らせいたします」としています。

Q.劇団の発表のどこに注目すれば良いですか?
(亀井弁護士)
「まず、原因であるパワハラやいじめ、労働関係の強制労働などを確認できているかどうかが大前提です。その上で謝罪することです。おそらく今後、損害賠償請求があって場合によっては傷害など刑事告発もあると思います。この調査委員会が、これらのことを伝統的なものとしてどこまで昔を掘り下げて、他に同じような事案がなかったかというところまで広げて、ちゃんと事実認定しているかどうかが重要だと思います。この問題は非常に大きな問題だと思います」

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(「情報ライブミヤネ屋」2023年11月13月日放送)