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【特集】行く先々で“監視”“尾行”される取材班…中国当局が警戒する“不都合な報道” 海を撮影するだけで拘束も!?「不動産不況」「史上最悪の就職難」が加速する現地の“今”を現地特派員が解説

2024年1月16日 20:00
【特集】行く先々で“監視”“尾行”される取材班…中国当局が警戒する“不都合な報道” 海を撮影するだけで拘束も!?「不動産不況」「史上最悪の就職難」が加速する現地の“今”を現地特派員が解説
中国・上海特派員が見た中国の“今”

 今、経済よりも「国家の安全」を重視する中国―「NNN」の取材班が行く先々には、当局とみられる監視や尾行が…そうした中、「不動産不況」と「史上最悪の就職難」が加速しています。背景には、急拡大を続けたことによる“ひずみ”が…中国で今、何が?上海支局・渡辺容代支局長の解説です。

未完成のマンションで無理やり生活…大卒者の“死んだふり”写真が相次ぎ投稿…不況の中国で、いま何が…?

 世界第2位の経済大国・中国が今、直面している問題―それは、不動産不況による景気の低迷です。2023年8月には、不動産大手「恒大集団」が破産法の適用を申請。各地で住宅の建設が相次いでストップしています。

 建設が途中で止まってしまったマンションの購入者たちは建設再開を訴えていましたが、その見込みはなく、ついには…。

(マンション購入者/中国SNSより)
「私たちの新しい部屋です!ベッドも2つあって、このベッドはマットレスよりは寝やすいよ」

 未完成のマンションでは、すでに頭金を支払った購入者が無理やり生活を始めていました。

(マンション購入者/中国SNSより)
「問題解決しなければ、もうここから離れない。建設会社と、これ以上無駄な話をしても仕方がない」

 先行きが不透明な中国経済。その影響は、若者にも及んでいます。2023年、中国のSNSに相次いで投稿されたのは、大学を卒業した若者らが“死んだフリ”をした写真。添えられたメッセージには―。

「やる気が出ない。おかしくなりそう」

 なぜ、こうした投稿が相次ぐのか―その背景にあるのが、「史上最悪の就職難」です。

(22歳の大学生)
「就活は、大学生みんなが難しいと感じています」
(就職活動中の20代男性)
「面接は、多いときで1日4社ぐらい。早く仕事先を見つけないと、食費や家賃が支払えません」

 2023年6月の若者の失業率は、21.3%と過去最悪を更新。5人に1人が職に就けていない状況です。こうした事実を隠すかのように、中国政府は8月、失業率の公表を中止してしまいました。

(就職活動中・陳さん)
「2023年後半に入り、リストラされました」

 陳さん(24)は大学を卒業後、上海の不動産関係の会社で働いていましたが、経営の悪化で11月に解雇され、今は新しい職を探しています。家賃の節約のため、上海の中心部から車で1時間ほどかかる場所の部屋を月5万円ほどで借りていますが、このままだと家賃が支払えなくなると、心配しています。

(陳さん)
「これは地元の料理で、実家から送られてきたものを食べて、節約しています」

 苦しい生活のなか、陳さんが夢見るのは、“普通の暮らし”です。

(陳さん)
「私の夢は、上海で仕事に就くこと。生活と仕事を安定させ、貯金をして、実家に自分の家を建てたいです」

“爆買い”から一転、若者に広がる節約志向 就職難の背景にある「大学の増やしすぎ」

Q.現地の様子は、いかがですか?
(「NNN」中国・上海支局 渡辺容代支局長)
「私は、上海の中心部にある豫園(よえん)という観光地にいるのですが、開発が中断した商業施設があります。地元の人からは、『一等地の観光地に、廃墟のような建物があるのは残念だ』といった声が聞かれます。中国メディアによると、6~7年前に建設が中断され、競売にかけられたものの、買い手がついていないということです」

Q.今後、中国経済は、さらに悪化していくのでしょうか?
(渡辺支局長)
「中国の不動産不況は、上海のような大都市でも例外ではなく、街中にはマンションや商業施設が建設途中で止まった状態のものがみられます。また、中国全土をみても、11月の新築住宅価格は、主要70都市のうち59都市で、前の月より下落しています。こうした不動産不況に端を発した経済の先行きの不透明さから、消費者の中には節約志向が広がっていて、中国の消費が転換期を迎えていると感じます」

Q.節約思考は、若者にも広がっているのでしょうか?
(渡辺支局長)
「就職難ということもあり、若者にとっては、より切実です。毎年11月11日は『独身の日』といわれ、ネット通販各社が大規模なセールを行うのですが、取材した若者らは『日用品を買うに留めるのみ』と口を揃えて言っていました。また、取材した就職活動中の男性も、今は自宅は持たず、1泊約1600円の民宿で寝泊まりしながら、就職先を探しているということでした」

Q.就職難の背景には、何があるのでしょうか?
(渡辺支局長)
「一因となっているのは、大学を増やしすぎたことだといわれています。かつて中国は『世界の工場』といわれたように、豊富で安価な労働力を供給してきたのですが、そこから高度な人材を持つ国へと転換を図ろうとしました。その結果、大学生は増えたものの、受け入れる側の企業の需要が経済の低迷により低下してしまい、就職難が発生しているといわれています。また、大学を卒業した学生たちが望む就職口と、企業側の求める人材がミスマッチを起こしているともいわれています。実は中国では、製造業・配送業を中心に人材不足に悩む業種は多いのですが、大学を卒業した人はそういった職業にはなかなか就きたくないという実態があります」

160kmも同じ車が…取材に付きまとう中国当局による“尾行”・“監視” 緊迫の一部始終

 渡辺支局長ら取材班は、中国内陸部の陝西(せんせい)省で不動産不況の影響を取材した際、“尾行”や“監視”を受けたといいます。取材中は、複数の男性がこちらの様子を伺っていて、車に乗って前を通ると非常に警戒した様子で、緊張感を覚えたということです。

 物々しい雰囲気の中、現場を後にすると、黒と白の2台の車が追ってきました。黒い車は、現場を離れたときに取材班が見た車と同じでした。取材班の車はしばらく走り続けて交差点を曲がり、黒い車は通り過ぎたかと思いきや、一旦停車した後バックし、また追ってきました。黒い車は一向に取材班の車から離れる様子はなかったといいます。

Q.その後、大丈夫でしたか?
(渡辺支局長)
「尾行されるだけで、何か止められるといったことはなかったです。しかし、私たちが取材を終えてから帰りの空港まで160kmほどあったのですが、その間ずっと尾行が続いていました」

Q.他にも、取材中に妨害されたことはありますか?
(渡辺支局長)
「2023年10月、李克強(りこっきょう)前首相が亡くなられた時に彼の故郷へ取材に行ったのですが、5~6人の地元住民に囲まれて『どこから来た?』『ここで何をしているんだ?』と追及を受け、その場所から立ち去らざるを得なくなったということがありました」

Q.なぜ、そういった妨害が行われたのでしょうか?
(渡辺支局長)
「李克強前首相は、習近平国家主席との方向性の違いから不遇にも政権を去ったという見方もあったので、追悼の動きが政党批判に繋がらないかと警戒されたものと思われます」

 渡辺支局長のような中国特派員の間では、例えばホテルのチェックインや飛行機等での移動など、「情報は全て当局が把握していると思って行動しろ」と受け継がれているといいます。また「不都合な情報は削除されてしまうので、その場ですぐ保存するように」といわれているということです。さらに、軍事設備が写りこむ可能性があるため、海を撮影するだけで拘束される恐れもあります。

Q.取材中の監視や尾行は、よくあることなのでしょうか?
(渡辺支局長)
「そうですね。今に始まったことではないのですが、景気の不透明さ・経済の低迷を受けて、中国政府は国民の不満が爆発するのを何とか抑えようと警戒しているように感じます。不動産不況の取材に行った際に尾行されたというのは、不動産開発というのは地元政府と深い繋がりがある話ですので、『地元政府にとって不都合な報道は許されない』という姿勢の表れだと思います。一方で、私たちのインタビューに答えてくれる人もいて、非常に貴重な行為ですし、そういった声を世界に届けていかないといけないと思っています。中国社会は、スマホ決済や顔認証など非常に進んだ技術を持っていて、裏を返せば、いくらでも私たちの行動履歴や個人情報が辿れてしまうということです。取材に応じてくれた人たちを守るためにも、どんなリスクが身近にあるかというのは念頭に置いて、取材を行っていきます」

(「かんさい情報ネットten.」2023年12月29日放送)