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【いよいよキックオフ】サッカー男子W杯予選・運命の北朝鮮戦 ホームで勝ち点必須の日本代表 「他国のアウェーと全く違う」過去4戦勝ちなし・無得点の“鬼門”平壌・金日成スタジアムの異様さを実際に取材したジャーナリストが独自解説

2024年3月21日 19:15
【いよいよキックオフ】サッカー男子W杯予選・運命の北朝鮮戦 ホームで勝ち点必須の日本代表 「他国のアウェーと全く違う」過去4戦勝ちなし・無得点の“鬼門”平壌・金日成スタジアムの異様さを実際に取材したジャーナリストが独自解説
知られざる“北朝鮮サッカー”の実態

 2011年以来となるサッカー男子『日本vs.北朝鮮』の平壌開催が正式決定。日本代表は、どのような環境で戦うのか?13年前の平壌決戦を取材したジャーナリストが語る“北朝鮮の実態”とは?サッカージャーナリスト・森雅史(もりまさふみ)氏、「コリア・レポート」編集長・辺真一(ピョン・ジンイル)氏のダブル解説です。

サッカー男子・日本vs.北朝鮮、13年ぶり北朝鮮・平壌での開催決定!毎回“荒れる”北朝鮮戦の裏事情「彼らの“国際経験のなさ”が如実に出た」

 『2026年FIFAワールドカップ』アジア2次予選・日本vs.北朝鮮は、東京・国立競技場(2024年3月21日)と平壌・金日成スタジアム(同年3月26日)の“ホーム・アンド・アウェー”で行われます。「アジアサッカー連盟(AFC)」は3月5日までに平壌・金日成スタジアムなどを視察し、開催に支障はないと判断。「日本サッカー協会(JFA)」は3月11日、「アジアサッカー連盟から予定通り平壌で行うと通達を受けた」と発表しました。

 懸念されるのは、“北朝鮮サッカー”を巡る昨今のゴタゴタです。2023年10月に行われたサッカー男子・アジア大会準々決勝では、「後ろからスライディング」「審判に詰め寄り抗議」など北朝鮮選手のラフプレーが目立ち、後半プレー中断の際には「日本チームの給水ボトルを強奪」「スタッフを威嚇する」などして、北朝鮮には計6枚のイエローカードが。

 また、2024年2月24日に行われたサッカー女子・パリ五輪アジア最終予選では、北朝鮮での開催について「空路の定期便がない」「競技運営が不透明である」などから代替地の提示を求められ、北朝鮮は中国開催を提示したものの、中国側が拒否。サウジアラビアでの開催が決定したのは、試合3日前でした。

 今回の一連の“ゴタゴタ”について解説いただく森雅史氏は、「サッカーダイジェスト」などサッカー誌編集に携わり、2009年に独立。サッカーW杯の取材は、1990年以降イタリア・アメリカ・日韓・ドイツ・南アフリカ・ブラジル・ロシア・カタールの8大会、現地に向かいました。そして2011年11月、北朝鮮・平壌で開催されたW杯ブラジル大会アジア3次予選を唯一取材したフリージャーナリストです。

Q.平壌で試合ができる・できないは、何で決まるのですか?
(サッカージャーナリスト・森雅史氏)
「サッカー女子のときは、飛行機の定期便が飛んでいないためアジアサッカー連盟の役員が平壌に入れず、断りました。実は、中国側が断ってサウジアラビアで開催される前に、もう一度『こういう案で、できないですか?』とアジアサッカー連盟に提案したみたいなので、今回のサッカー男子・平壌開催は、そこも考慮したのではないでしょうか」

Q.平壌で試合をするということも含め、FIFAが人権問題などもある北朝鮮の出場を認めることを、どう考えますか?
(森氏)
「私自身は、問題ないと思います。というのも、人権問題というと他のいろんな国も関わってきて、政治的な問題でもありますので、スポーツの世界とは別に考えるべき問題ではないかと思うからです。また、先日のサッカー女子の試合では、終わった後にフェアプレーを称える声も出ました。2023年のアジア大会のときは、確かに荒れた試合にはなりましたけど、彼らの“国際経験のなさ”が如実に出たという感じでした。国際試合の基準がよくわかっていないので、『自分たちの国だったら問題ないのに』と言っていたように思います」

「隣の人の声が聞こえないほどの統率された応援とブーイングに圧倒」マスゲームに人文字…アウェーの試合会場となる『金日成スタジアム』の異様さ…観客は“動員”された?「予行練習をやった上で臨んでいる」

 サッカー男子・日本代表と北朝鮮の対戦成績は『8勝7敗4引き分け』ですが、

1979年『国際親善試合』0-0
1985年『W杯メキシコ大会 アジア1次予選』0-0
1989年『W杯イタリア大会 アジア1次予選』0-2
2011年『W杯ブラジル大会 アジア3次予選』0-1

 と、平壌開催での試合に限ると『0勝2敗2引き分け』で、勝ち星がありません。

Q.点も取れていないんですね?
(森氏)
「まだ1点も取れていません。あのスタジアムの雰囲気に気圧されてしまうのではないか、という気がします」

 5万人を収容できる平壌・金日成スタジアムは1982年、金日成主席の生誕70周年を機に改称されました。2016年には観客席や内部施設などを改修していて、正に“北朝鮮サッカーの聖地”。マスゲームを行うため人工芝を採用していて、天然芝に比べて管理費が安く、年間管理費は1000万~2000万ウォン(110万~220万円)だということです。

 2011年11月15日に行われたW杯ブラジル大会アジア3次予選では、『ザックJAPAN』が0-1で敗れ、無敗記録が16でストップしました。約5万人の大観衆の中、日本サポーターは150人。そのうち65人は、日本サッカー協会の公式ツアー参加者でした。また、日本からの報道関係者は51人が取材申請しましたが、渡航許可が出たのは10人(記者6人カメラ4人)、テレビ中継のスタッフらが8人でした。そのうちの一人が森氏です。

 スタジアムは「ピッチサイド・ゴール裏など看板広告なし」「国歌斉唱では『君が代』がかき消されるほどのブーイング」「試合終了後、母国勝利に5分以上も歓声止まず」という異様な雰囲気でした。森氏は、マスゲームを彷彿とさせる“人文字”で「朝鮮 勝て」と応援を展開する観客席を、現場で目撃したといいます。

Q.他の国のアウェーとは、違う空気でしたか?
(森氏)
「全く違って、一番プレッシャーをかけてきます。よく見ると、観客席の列の一番前に白い服を着た人たちが立っているんですが、彼らの指示で観客は声を出したりマスゲームをしたりしますので、普通なら音がズレたりしますが、それが一切なかったです」

 「日本サッカー協会」2011年度事業報告書によると、「試合では隣の人の声が聞こえないほどの統率された応援とブーイングに圧倒され、選手の当たりも激しく、完全に相手ペースの試合となった。また、慣れない人工芝にも苦戦し、敗れた」ということです。

Q.世界大会をするスタジアムで、人工芝の所は少ないですよね?
(森氏)
「人工芝と天然芝を混ぜたハイブリットというのも出てきていますが、人工芝は少ないです。ただ、『直前に行った国の“ボコボコの芝”よりも、こちらのほうが良い』と言う選手もいました」

Q.観客席の人たちは入場料を払って見に行っているのか、それとも動員されているのか、どちらでしょうか?
(「コリア・レポート」編集長 辺真一氏)
「基本的には、動員だと思います。入場券を各組織・団体、あるいは大学などに国が配って、バスか何かで皆でやって来ると。応援も即席でやったのではなく、予行練習をやった上で臨んでいると思います。正に、“統制が取れた組織的な応援”です」

 一方、北朝鮮国内での報道のされ方ですが、「朝鮮中央テレビ」が当日夜に録画放送し、北朝鮮選手のファウルで日本選手が倒れると「日本チームの仮病作戦がそろそろ出始めたでしょうか?」などと実況。「労働新聞」は翌日、「朝鮮チーム、日本チームに1-0で勝利。試合観戦に集まった平壌市内の各階層の勤労者と青年学生たち、外国からの観客で溢れた」と伝えました。

Q.北朝鮮では、生放送をしないのですか?
(辺氏)
「北朝鮮が生放送で実況中継をすることは、滅多にないです。以前、南アフリカW杯で、ブラジルを相手に敗れたものの善戦し、気を良くして次のポルトガル戦を実況中継にしたところ、7-0でボロ負けしてアナウンサーも司会者も解説者もぐうの音も出なかったというハプニングがありましたので、今回も生放送はしないと思います。録画放送も、恐らく勝った場合はしますけど、負けた場合はしないと思います」

「北朝鮮の物に触れるな」通信機器・食材など没収、空港到着後は5時間待ち…北朝鮮の過酷な入国事情 入国後も続く“24時間監視”

 「日本サッカー協会」2011年度事業報告書によると、入国者50人が指定日時に在北京北朝鮮大使館へ出向きましたが、ビザ取得に1時間弱かかりました。また、平壌空港ではパスポートチェックに2時間・荷物検査に2時間・荷物受け取りに1時間と、入国するまでに約5時間かかったといいます。入国審査の際には、選手が壁などに近づいただけで「北朝鮮の物に触れるな」と言われ、翌日に試合を控えているにも関わらず3時間立ちっぱなしでした。

Q.アウェーの試合に行くと、いろんなことがありますよね?
(森氏)
「ありますが、ここまでのことはなかったです。私も選手と一緒に入ったので、同じように待ちました。実は、このアウェー戦のほうが後で、先に日本でホーム戦をやったんですが、そのとき入国にすごく時間がかかったというのがあったようで、それの仕返しをされたのではないかと思います」

 また、森氏によると、記者6人・カメラマン4人に対して北朝鮮側のガイド5人がどこに行くにもついてきて、常に15人で移動していたといいます。記者室で原稿を書いているとガイドがパソコンを覗き込み、事前チェックをしていたとみられるということです。

 中には日本語が堪能なガイドもいて、森氏がホッケを食べて「これ、ヤバい(おいしいの意味)」と言ったところ、そのガイドは笑顔で「喜んでいただいて、ありがとうございます」と言ったといいます。

Q.ネイティブに近い日本語を理解し、ボキャブラリーも豊富ということですか?
(森氏)
「彼らは非常に気を遣っていまして、他のガイドがキツいことを言ったとしても、それをすごく柔らかく訳して私たちに伝えてくれていました。それだけ日本語能力が凄かったです」

Q.彼らはなぜ、これほど日本語が上手なのでしょうか?
(辺氏)
「平壌外国語大学に日本語学科がありますので、そこの卒業生などが駆り出されています。大韓航空機爆破事件の金賢姫が日本語を使ったとき、『こんなに上手なのか』とみんな驚きました。北朝鮮の学生は語学が達者で、そういう人たちがこういう時に動員されて、通訳兼ガイドをします。彼ら以外にも、北朝鮮には国家安全保衛部というスパイを摘発する情報機関・組織がありますから、その関係者もついて回っていると思います」

 日本代表が宿泊した「平壌高麗ホテル」の部屋には、壁一面に大きな鏡があって、誰かに見られている気がすると感じていたといいます。1フロアに8~10部屋あり、全員が1人部屋で、各フロアに3~4人いる守衛が24時間態勢で監視していたということです。

Q.「盗聴器がついている」などとよく耳にしますが、今の北朝鮮はどうなのでしょうか?
(辺氏)
「基本的には、平壌を訪問する外国人の場合は賓客という形で、一般市民や外務省は観光客を歓迎します。しかし、スパイを監視する国家安全保衛部は、観光名目で入ってきたスポーツマンやビジネスマンが盗撮して情報提供しないかどうかを徹底的に調査しますので、“諸手を挙げて歓迎”というわけではない、という面もあります」

Q.ジャーナリストとして平壌に入って、気になる点はありましたか?
(森氏)
「食事もホテルの部屋も、非常に充実していました。食糧難が伝えられていたので、ガイドに『こんなに良い物を食べていいのか?』と聞いたら、ガイドは不思議な顔をして『日本人からそんなに心配してもらえると思っていなかった』と言っていました。恐らく、僕みたいにサッカーしかわからない人間を監視しても、どうしようもないと思ったのだと思います」

Q.お酒も自由に飲めたのですか?
(森氏)
「はい。大同江(テドンガン)ビールというのが出てきて、おいしかったです」

 北朝鮮には持ち込み規制があり、携帯電話・パソコンなど通信手段を搭載した機器は事前に没収。選手が食べる食材も没収され、8割がパスタ・ご飯など炭水化物ばかりだったといいます。また、選手らへの『禁止3通達』として、「散歩」「買い物」「政治的質問への回答」を禁止されていました。

Q.森さん含め取材しなければならない人たちは、どうしたのですか?
(森氏)
「私たちもスマホなどは全部、平壌の空港に預けなければいけなかったです。スマホにはGPSが入っているので、正確な座標がわかることを避けたかったのではないかと思います」

 また、サポーターの周囲にも軍の保安員が立っていて、応援グッズや国旗は没収、スタジアムを離れる際にはバスに小石などを投げられたということです。

Q.『日の丸』も何もかもダメ、ということですね?
(森氏)
「スタジアムに『君が代』が流れたり『日の丸』が掲げられたりというのは、到底容認できませんという話をしていました」

Q.いずれにせよ選手たちは、肉体的・精神的に非常に負担を抱えたまま、試合をしなければならないということですね?
(辺氏)
「北朝鮮の5万人の観衆の熱気に圧倒され、ものすごいプレッシャーの下で試合をすることになると思います。北朝鮮はそれを一つの追い風にして立ち向かってきますし、サッカー女子はオリンピックに行く夢が断たれたということもあり、女子の分を男子がリベンジしなければならないと北朝鮮のサッカー協会は燃えていますので、大変な試合になると思います」

Q.日本代表には東京・国立競技場で快勝して、「平壌では引き分けでOK」というところに持ってきてほしいですね?
(森氏)
「いやいや、今度こそあのスタジアムで勝ってほしいと思います!」

Q.まさかとは思いますが、金正恩総書記がスタジアムに来るということは、ないですか?
(辺氏)
「100%あり得ないです。『絶対的に勝つ』となれば話は別ですが、勝負事ですから、勝敗はやってみないとわかりません。仮に負けたりすれば、それはもう失望・落胆どころの話ではないですから、国際試合を見に来ることはないです。また、ブーイングに関してですが、北朝鮮は世界で稀に見る統制国家ですから、当局が『今回は一切ブーイングせず、静かに観戦しろ』とフェアプレー・マナーを徹底させるような指導をすれば、ブーイングが起きないと思います。ですから、ブーイングが出るか・出ないかというのは、注目に値します。北朝鮮は今、日本との関係を非常に意識していますから、今回はブーイングを黙認することはないのではないかと、個人的には期待しています」

(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年3月12日放送)