×

【独自解説】「金一族に世襲維持」賛成者が半減 韓国政府、脱北者の調査報告書を初公表 変化する北朝鮮国民の意識と締め付けを強化する金正恩政権

2024年2月29日 19:30
【独自解説】「金一族に世襲維持」賛成者が半減 韓国政府、脱北者の調査報告書を初公表 変化する北朝鮮国民の意識と締め付けを強化する金正恩政権
締め付けを強化する金政権 韓国は脱北者調査を公表

 2月6日、韓国政府は、韓国への脱北者6351人を対象とした調査報告書を初めて公表しました。全部で160項目にわたる内容で明らかになった「北朝鮮の生活の実態」や「金一族の世襲権力に対する人々の本音」とは?これまで非公表だった調査内容をこのタイミングで公表した韓国の狙いとは?朝日新聞・元ソウル支局長の牧野愛博氏が解説します。

韓国政府 脱北者の調査結果「北朝鮮の経済・社会実態認識報告書」を公表

 2月6日、韓国政府は「北朝鮮の経済・社会実態認識報告書」として、2020年までの脱北者6351人を対象に、経済・社会・住民意識など全160項目の調査結果を初公表しました。調査対象は、女性:81.8%、男性:18.2%となっていて、地域は、平壌:2.7%、中国と接している地域:82.1%、それ以外が15.2%となっています。

Q.なぜ女性が多いのですか?
(朝日新聞・元ソウル支局長の牧野愛博氏)
「北朝鮮では、基本的に世帯主は国営企業や党、政府などに務めなければならないので、欠勤すると分かってしまいます。罰則もあります。女性は割と自由がきくので、逃げてしまうというパターンが多いです」

牧野氏によると、これまで非公開だったワケは「韓国が北朝鮮のことを“どれぐらい理解しているか”を北朝鮮に知られないため」「北朝鮮の人権問題に触れる内容のため文政権までは公開を配慮」していたということです。また、このタイミングで公開したワケは、「韓国の“対北カード”として人権問題にフォーカスし、北朝鮮への非難を国際社会に広げる狙い」ではないかとしています。

Q.北朝鮮の人権問題を全世界に知らせたいということがあるのですか?
(牧野氏)
「核・ミサイル問題をやりたいのですが、北朝鮮は『それはアメリカと話すことで、韓国は関係ない』と言って来たので、韓国としては『人権問題から切り込むことで自分たちの発言力を確保したい』という狙いもあると思います」
Q.韓国政府内部に公表への抵抗はなかったのですか?
(牧野氏))
「当然秘密が漏れるので、国家情報院は反対したと思います」
Q.4月に総選挙があるというのも大きいのでは?
(牧野氏)
「それはあります。2月に医師の数を増やすといってもめていますが、全て総選挙対策です」

 金一族の世襲に関する脱北者調査で、「金一族の世襲維持に賛成」と答えた人は、2000年以前に脱北した人が57.3%だったのに対して2016年~2020年だと29.4%に減っています。「また金一族の世襲に反対」と答えたのは、2000年以前の30.7%が2016年~2020年は54.9%に。「正恩の権力継承は正当ではない」については、2000年以前33.6%が2016年~2020年は、56.3%となっています。牧野氏は「1990年代に多くの餓死者をだした“苦難の行軍”以前と以降で 国民の意識は大きく変化」したと話します。

Q.2000年以前と最近とでは大きく変わっている理由は“苦難の行軍”の影響が大きいのですか?
(牧野氏)
「“苦難の行軍”以降に生まれた人は今27歳以下ですが、その世代は国から良いことをしてもらった記憶がないので、国に頼って尊敬する必要がないようです」

一方で金一族は国民無視の贅沢三昧と監視社会

 1月25日、 金正恩総書記は政治局拡大会議で、「食料や生活必需品さえ円滑に提供できないことは深刻な政治問題だ」と人民のための政治を行うと是正を表明しました。しかし2023年に去年輸入した“贅沢品”は前年比3倍となっています。高級時計は13億円超で前年比54倍に、革製品、毛皮製品も前年比15倍となっています。

Q.金総書記も時々弱気なことを正直に言いますね?
(牧野氏)
「そう言わないと事実を隠せないという意識があると思います」

他にも、金一族の贅沢品として知られているのは、「モンブラン」の万年筆1本10万円~数十万円・「IWC」の腕時計が176万円・与正氏の「ディオール」のバッグ100万円・ジュエ氏の「ディオール」のコートが25万5000円などとなっています。また、貿易白書では自動車関連の輸入は約290万円となっているのですが、1月15日放送の朝鮮中央テレビに映っている金総書記のものと思われる車はベンツ最高級SUV 約2900万円相当、1月8日にも3300万円相当の新型ベンツを使っていたといわれています。

市場経済・韓国文化の締め出しの監視社会

 金政権は体制維持のため国民の締め付けを監視を強化しているといいます。監視強化の狙いは、市場経済と韓国文化の締め出しだということです。脱北者調査によると、「監視統制が強化された」と思うのが2011年以前は50.7%だったのが2016年~2020年は71.5%になっています。「監視や家宅捜索を受けたことがある」人は2000年以前16.4%が51.3%ですが、この16.4%という数字の意味を牧野氏は「昔は食べることに精一杯で監視にそこまで注力できなかった」としています。「賄賂を贈ったことがある」は14.1%が54.4%になっています。牧野氏いわく「賄賂での監視逃れが常態化」したので今は54.4%になっているということです。

Q.北朝鮮の敵は韓国の政府ではなくて、内に入り込んできた韓国などの西側の自由主義的なものでしょうか?
(牧野氏)
「そうです。地方を発展させようというのは、施政権が及んでない地方を締めようと思ってのことですし、青少年保護は青少年への締め付けですし、2023年に女性大会を開きましたが、女性は監視が緩くなるので、それを締めなければいけないということで、締めることだらけです」

Q.もしアメリカでトランプ前大統領が再選したらどうなるでしょうか?
(牧野氏)
「北朝鮮はトランプ政権がまた誕生することを前提にしています。万が一トランプ前大統領が再選しなくても米共和党は変質していて、トランプ前大統領のような人が出てくるので、それに備えていろんなことをする。再選したらトランプ前大統領は金総書記とトップ会談をするので、そうしたら中国もあわてて北朝鮮に接近してくるだろう。トランプ前大統領なら核兵器の所有も一部認めてくれるし、ICBMだけ捨てたらミサイルは許してくれる。これで核・ミサイル問題は解決したことにして、日本には拉致問題で適当に人を帰せば国交は正常化して100億ドルくらいもらって、アメリカの制裁も解除するので、自分たちの政権は安定すると考えているようです」

(「情報ライブミヤネ屋」2024年2月29日放送)