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【独自解説】外国人観光客の受け入れを開始した北朝鮮 謎のロシア人女性「ビカ」が紹介するスキーリゾートその裏側 金総書記W杯で日本へ接近か…その思惑とは?

2024年2月16日 16:00
【独自解説】外国人観光客の受け入れを開始した北朝鮮 謎のロシア人女性「ビカ」が紹介するスキーリゾートその裏側 金総書記W杯で日本へ接近か…その思惑とは?
北朝鮮のリゾート地をPRする謎のロシア人女性「ビカ」

 “コロナ禍”後の国境開放に伴い、北朝鮮がロシア人観光客の受け入れを再開しました。ロシアに接近する北朝鮮、その狙いとは?今後、露朝と中国の関係はどうなるのか?東アジア情勢に詳しい朝日新聞・元ソウル支局長の牧野愛博氏が解説します。

北朝鮮国境開放後外国人観光客受け入れ再開 ロシアの団体旅行客が訪問

 北朝鮮が、国境開放後の外国人観光客の受け入れを再開しています。2月9日には、ロシアからの団体旅行客97人が北朝鮮を訪れました。新型コロナ対策で出入国制限が取られて以降、初めてとみられています。その日程は、2月9日から12日の3泊4日で、費用は日本円で約11万円だそうです。1日目は観光名所を訪問して四つ星ホテルに宿泊するといいます。

 ツアーの目玉は2014年に開業した、金正恩総書記肝いりの高級リゾート「馬息嶺(マシンニョン)スキー場」というところです。面積は1400㎢(東京ドーム約300個分)で、初心者コースを含めて全10コースあるそうです。附属するホテルも、客室120室で屋内プール・レストラン・カラオケ・ダンスルームなども完備されている五つ星ホテルだといいます。

Q.日本円で約11万円というのは、ロシア人にとっては安いのですか?高いのですか?
(朝日新聞・元ソウル支局長 牧野愛博氏)
「このロシアの人たちは、ウラジオストクなどの極東の方に住んでいる人たちだと思いますが、海外旅行としては手ごろな値段だと思います。北朝鮮が以前日本人を受け入れていたころは、1週間で30万円くらいとっていましたので、それに比べると北朝鮮の値段だなという印象です」

Q.外貨稼ぎの意味があるのですか?
(牧野氏)
「もちろん外貨稼ぎというのもありますが、スケールメリットがないのでこれから色々なことをやるための一つの準備段階として彼ら(ロシア人)を呼んでいると思います」

Q.今は冬のスキーツアーですが、夏は海などもあるのでしょうか?
(牧野氏)
「最近、ロシア人の学者と話しをしたのですが、夏に日本海側のウォンサンでサマースクールをやるので、そこにロシアの子どもたちを派遣する計画があると言っていました」

 ロシアメディアの記者によりますと、「自由に店を訪れることはできないが、ガイドにお願いすればスーパーなどにも入ることができる」「写真撮影も基本はOKだが、労働者や軍人などの撮影はNG」だそうです。そして、指導者の銅像を撮るとき絶対に守らなければならない3つの規則があり、それは「銅像の側面ではなく正面から撮影する」「銅像を背景に写真を撮るときは必ず両手を横に置く」「銅像の腕や足を切らずに全身を入れて撮影をする」となっています。

Q.指導者の銅像には全員行かなければいけないのですか?
(牧野氏)
「私も行きました。平壌に行ったときは必ず指導者の銅像のところに行って花束を捧げてお辞儀をするのが彼らのルールです」

Q.ロシア人といえども、北朝鮮では単独行動は許されないのですか?
(牧野氏)
「そうですね。私の印象だと久しぶりに観光客を入れたので、北朝鮮もちょっと緊張している感じがします。私が行ったときは、ホテルから平壌の駅まで歩きたいと言ったら『じゃあ、それぐらいだったら良いです』ということもありました」

Q.北朝鮮にとっては中国人よりロシア人の方が都合が良いと言いますがその理由は?
(牧野氏)
「ロシア人は、基本的に朝鮮語を話しません。それに比べて中国人の朝鮮族の人たちは懐かしいのでよく北朝鮮に行ったりするのですが、そこで北朝鮮の人に勝手に話かけたりして、いろいろ余計なことを喋ったりするので、ちょっと北朝鮮としてもコントロールしにくい部分があるんです」

北朝鮮をPRする謎のロシア人女性「ビカ」

SNSの総フォロワー数が8万人超という 「ビカ」と呼ばれる謎のロシア人女性が、インターネットで馬息嶺スキー場を紹介しています。そのほかにも「北朝鮮の美しいところを紹介します」「全てのインフラが設備された区画です」「お気に入りの朝鮮料理を紹介します」「北朝鮮でアイスを買いました」「ショッピングセンターで子どもたちは幸せな時間を過ごしていました」などと北朝鮮での暮らしを紹介していました。この女性については様々な憶測が飛んでいて、ロシア独立系メディアは「在北朝鮮ロシア大使館駐在官の妻」だと伝えています。香港メディアは「金正恩総書記に雇われたインフルエンサー」ではないかと伝えています。

Q.スキー場を紹介していましたが、電力の乏しい北朝鮮で、電力を山ほど使うスキー場が良く作れましたね?
(牧野氏)
「このスキー場は『馬息嶺スキー場』というのですが、名前の由来が『馬の息が上がってしまうほど急峻な山に作ってある』ということなんです。北朝鮮の普通の人が、ここに行きたいからバスに乗って行きましょうというわけにはいかないんです。普段は交通ルートがありません。衛星写真を見るとずっと夜間照明がされていたわけではないので、明らかにこの女性は北朝鮮から雇われて、北朝鮮政府のバックアップで行っていると考えた方が自然です」

Q.ロシア人のツアー客が来たときは一生懸命頑張って電気を送っているということですか?
(牧野氏)
「もちろんそうです。その代わり、電気が来なくて困っている人がたくさんいるわけです」

 牧野氏は「観光をきっかけに人的交流がさらに発展するのでは」と話しています。今後は「相互観光」「政治家の往来」「留学」もあるのではということです。ただ、北朝鮮の真の狙いは「ロシアへの労働者派遣」ではないかといいます。今北朝鮮は、安保理制裁で人的交流はできるのですが労働者派遣は禁止されています。

Q.北朝鮮がロシアに近づくということは、中朝関係に変化が起きると思うのですが?
(牧野氏)
「中朝関係は、2022年の春に北朝鮮が核実験をしようとしてからずっと冷却しています。今、関係はあまりよくなくて、今年国交正常化75周年なんですがお互いに交流しているのは外務次官など政府の人間なんです。本来お互い共産主義国家なので、こういう場合党間交流をしないといけないのですが、ランクを一つ落としている状況ですので、あまりよろしくない状況です。北朝鮮としては中国の観光客に来てもらうほうが(経済的には)ありがたいのですが、今はそういう状況になっていないということです」

 中国は、前提としては対日米韓で朝露と連携をしていますが、今の朝露には同調できないという考えの様です。朝鮮中央通信によると、金総書記は新年祝賀の挨拶と年賀状を親交のある国に送ったということですが、プーチン大統領の名前が最初に来て、習近平主席は二番目だったということです。2023年までは習主席が最初に挙げられていたということです。

Q.中国としてはロシアにあまり近づきたくないというような思惑があるのでしょうか?
(牧野氏)
「中国としては2022年の北京オリンピックをして、プーチン大統領と握手した直後にウクライナ侵攻が始まりましたのでちょっと不愉快なんです。中国はアメリカに変わる世界のリーダーになれると本当に思っていますので、『プーチンや金正恩みたいな“やくざな奴ら”と同じに見られたくない』という気持ちを強く持っています」

 北朝鮮は次に日本に接近するのでは?という予測もあります。能登半島地震のお見舞いの電報に「岸田文雄“閣下”」と特別な表現を使っていました。牧野氏によると「3月のサッカーワールドカップ予選でも日本側に接触を図るだろう」ということです。

Q.2月14日もミサイル発射実験をしていますが、一方で“閣下”と言ってみたり、ワールドカップの予選で日本に接触を図るかもしれないだとか、一貫性がないのですが、北朝鮮の思惑はなんですか?
(牧野氏)
「来年1月にトランプ政権が誕生したときに、返す刀で中国をヒーヒー言わせて、また北朝鮮とデートしてもらうというための下準備です。前回トランプ大統領と交渉したときになぜ失敗したかというのを北朝鮮は色々分析したようなんですが、やはり当時の安倍首相が『日韓合同軍事演習をやめたらだめですよ。核保有を認めたらだめですよ』などとトランプ大統領に色々アドバイスしていたようです。そういう余計なことを言わせないために、金正恩総書記としては『拉致問題を解決してあげるから、その代わり米朝交渉をしているときにごちゃごちゃ言うんじゃないよ』としようとしていると思います」


(「情報ライブミヤネ屋」2024年2月15日放送)

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