×

【独自密着】「もうちょっとトラックに、みんな優しくしてもらえたら…」日本の物流支えるトラックドライバーのオアシス“トラステ”で聞いた本音と不安「日本の物流、多分止まりますよ」

2023年10月14日 11:00
【独自密着】「もうちょっとトラックに、みんな優しくしてもらえたら…」日本の物流支えるトラックドライバーのオアシス“トラステ”で聞いた本音と不安「日本の物流、多分止まりますよ」
物流支える「縁の下の力持ち」

 すぐに届くネットショッピングや、生鮮食品が並ぶスーパーマーケットなどは、当たり前の日常に思えるかもしれません。しかし、その裏側には、昼夜問わずトラックを走らせ、物流を支えるトラックドライバーがいます。そんな彼らの心のオアシスが、トラックステーションです。緊張する運転の合間、“トラステ”での『ちょっと一息』を覗き見。物流が大きく変わるといわれている「2024年問題」、不安を抱えながらも日々トラックを走らせる彼らが漏らす本音の先に見えたのは、責任感と愛でした。

引っ込み思案な男性の愛車はド派手な“鳳凰トラック”、「バンバン彼氏作れ」と娘に伝える豪快な男性…物流と家族を支える、個性豊かなドライバーたちの“オアシス”

 トラックが次々と入ってくる、大阪トラックステーション。大型トラック約80台を収容でき、一日平均300台ほどのトラックが利用するというこの施設には、大浴場や宿泊施設、食堂、ゲームコーナーなどが入っています。休憩を取るトラックドライバーたちに、声をかけてみました。

 食堂で一人静かに食事を取るのは、ドライバー歴16年の池田塁さん(41)です。この日は大阪の市場で荷物を下ろし、青森へ帰る荷物を積むといいます。なぜ、トラックドライバーになろうと思ったのでしょうか。

(池田塁さん)
「人と接するのが、集団行動という仕事が、好きではなかったので。トラックの運転手だったら、ちょっと運転するのはキツいけど、一人の時間が多いので。荷物を積んだり下ろしたりする時だけ人と接する感じなので、いいかなと思って」

 食事を済ませた池田さんが、トラックを見せてくれました。そこに停まっていたのは、伝説の鳥「鳳凰」が一面に描かれた派手なトラック。これが、池田さんの愛車です。運転席の中には大きめのテレビがあり、グレーの落ち着いた色で統一されています。自慢のワンポイントは、シャンデリアの装飾。

(池田さん)
「車内もこだわっているので。トラックの中にいても、苦痛にならないです」

 自宅にはほとんど帰れず、トラックの中で過ごすことが多いという池田さんにとって、車内の居心地の良さは譲れないポイントです。そんな池田さん、結婚して21年、3人の子どもがいるのですが…

(池田さん)
「いつも家にいない、“おじさん”みたいな感じです。家に帰れないから…本当に帰れないから」

 笑顔ながらも、少し寂しそうな池田さん。幸せを運ぶといわれる鳳凰のトラックで、今日も家族の生活を支えています。

 続いて食堂で声をかけたのは、ドライバー歴10年の柳田知宏さん(39)です。

(柳田知宏さん)
「今日、大阪で荷物を積んで、九州に行きます。実費じゃなく全国に行ける、普段行けないところに仕事で行けるというのは、大きいですね。自分は、やりがいがあります。楽しいですね」

 食堂スタッフに「ごちそうさまでした」と食器を返却し、駐車場へと戻る柳田さん。元々はとび職をしていましたが、10年ほど前、稼ぎが良いといわれていた大型トラックのドライバーに転職したといいます。運転席に戻って眺めるのは、スマホに入っている今年高校生になる愛娘の写真。サッカーをする活発そうな女の子です。

(柳田さん)
「娘が今日休みだと思ったら電話して、『お前、何しよっとか?遊びに行ってこい』と。もっと横のつながりを広く持ってほしいので。彼氏、バンバン作ればいいやん。恋愛の仕方が分からない、となるよりかは、今いっぱい失敗をしろと。その中で礼儀さえちゃんとしていれば、俺は問題ないよと」

 豪快に笑いながら話をしてくれた柳田さん。一方で、トラックドライバーとして家族を支えているものの、ちょっと不安なことがあるといいます。

(柳田さん)
「2024年の法改正がありますけど、日本の物流、多分止まりますよ」

 トラックドライバーの「2024年問題」。働き方改革で、2024年4月から、年間の時間外労働の上限が960時間に規制されます。これにより、運べる荷物が減ると共に、ドライバーの収入も減少するとみられています。

(柳田さん)
「長崎から大阪の市場にアジなどを持って来ますけど。長崎で朝に捕れて、その日の夜に大阪に着いていたアジが、法改正された後は、次の日になる。消費者に回るのが、その次の次の日。3日目に、やっと消費者の手に渡ることになる。地方の生鮮食品が、どんどん食べられなくなる」

 そんなギリギリの中で日々トラックを走らせる柳田さんですが、嫌な思いをすることもあるといいます。

(柳田さん)
「どうしても速度のリミッターがあるので、最大でも93キロぐらいしか最大速度が出ないので、高速道路を走っていて邪険に扱われたり、あおられたりなどは日常茶飯事です。もうちょっとトラックに、みんな優しくしてもらえたら、ありがたいですよね」

運転の疲れを癒しつつ、時間調整としての場所としても…便利な世の中の裏側にある、ドライバーの人知れない苦労

 北は青森から南は大分まで全国24か所にあるトラックステーションは、「全日本トラック協会」が運営する施設です。トラックドライバーたちが安全運行のため休息できるように、と作られました。

 設備等はトラステによって異なり、「大阪トラックステーション」には大浴場や宿泊施設も完備されています。食堂の看板メニューは、ドライバーから「にんたま」と呼ばれ愛される、ボリュームたっぷりの「にんにくたまごラーメン」。なかでも、揚げにんにくがたっぷり入った「悪魔のにんたま」は、知る人ぞ知る人気メニューです。トラックステーションでのひと時が、ドライバーの元気を蘇らせます。

 午後8時、日が暮れた駐車場は満車状態です。カーテンが閉じられたトラックの運転席の中では、ドライバーがそれぞれの時間を過ごしています。しかし、ただ休憩しているわけではなく、決まった時間に荷物を運ばないといけないため、時間調整をしているドライバーも多くいます。

(トラックドライバー歴20年 田中真志さん)
「大阪は、こういう広場がトラステしかない。それか南港のほうに行くとか、フェリー乗り場に行くとか。でも結局、路上駐車しかない。大阪は、ちょっと不便ですよね」

(ドライバー歴26年 村田広美さん)
「行って、とめる場所がないから、そこが一番の悩みですね。トラック大事でしょ。物流ですから。何よりも大事やと思いますよ」

 運転の疲れを癒す場所であり、時間調整のための場所でもあるトラックステーション。決まった時間に荷物が届く便利な世の中の裏側には、ドライバーの見えにくい苦労が存在します。

「事故だけせんときや」「いつもたくさん、ありがとう」家族、彼女、仲間…大切な人がいるから頑張れる

 ハキハキした口調で話す冨田裕二さん(29)は、ドライバー歴9年。20歳でトラックドライバーになり、24歳の時に運送会社を立ち上げたといいます。

(冨田裕二さん)
「うちは、温度管理の必要な食品や医薬品を運ぶ会社です。コロナ禍で外に出なくなった分、家でご飯を食べることが増えたので、スーパーの店舗配送の数が増えました。コロナ前より、年末は忙しかったです」

 食堂で食事をしている合間にも、電話対応に追われる冨田さん。会社近くの賃貸マンションで、妻・娘と離れての単身生活を送りながら、次から次へとやって来る食品を運んでいます。

(冨田さん)
「食品って結構、嫌われる業種なんですよ。『積んだら下ろす』までが仕事なので、走り続けないとダメなので。妻は、メールで『大変なんやね、寝れてんの?』ぐらいで。『事故だけせんときや』って。昨日、妻の車の納車があったんです。普段、何もできていないので。車ぐらいいるよね、ということで」

 一人で子育てを頑張ってくれている妻に、新車をプレゼントしたという冨田さん。新車の前で記念撮影をする家族写真を、笑顔で見せてくれました。

 ドライバー歴5年の藤木恒輔さん(29)は、これから大阪で荷物を積んで、福岡に向かうといいます。トラックドライバーになった理由を、教えてもらいました。

(藤木恒輔さん)
「トラックが好きというのと、乗り物が好き。前は全然違う金融関係の仕事をしていたんですけど、そこからトラックという業種に移って、もう5年ぐらいです」

 藤木さんにとって、トラックドライバーは子どもの頃からの夢だったといいます。自慢のトラックを見せてもらうと、一番目立つ場所に、「悪顔笑会」と書かれた大きなステッカーが。

(藤木さん)
「“悪顔笑会(わるがおしょうかい)”っていって、九州のチームというか、トラックの集まりです。大阪にも支部があって、関東にも支部があって、北は北海道まである。困っていたら助けてくれるというのがドライバー同士のつながりなので、荷下ろししても手伝いに来てくれる人がいたりします」

 そう話すと、駐車場でドライバー仲間と楽しそうに会話を始めた藤木さん。ドライバー同士で、事故や渋滞など道路情報のやり取りもしているといいます。「悪顔笑会」のステッカーは、仲間との絆の証です。

 そんな藤木さんの車内に貼られている、ピンク色の付箋。そこには、「おつかれさま」「いつもたくさん笑わせてくれて、ありがとう」など、愛のある優しい言葉が並んでいます。

(藤木さん)
「彼女が、ちょくちょく、そうやって貼っていく。お守りじゃないですけど」

 なんと付き合っている彼女も、九州エリアを担当する大型のトラックのドライバーなのだといいます。愛する人のいる福岡へ、いざ出発。待っている彼女がいるから、頑張れます。

 私たちの暮らしを影で支える、トラックドライバー。今日も、沢山の荷物と支えてくれる人々の想いを乗せて、全国各地を走り回ります。

(「かんさい情報ネットten.」 2023年1月23日放送)

  • YTV NEWS NNN
  • 【独自密着】「もうちょっとトラックに、みんな優しくしてもらえたら…」日本の物流支えるトラックドライバーのオアシス“トラステ”で聞いた本音と不安「日本の物流、多分止まりますよ」