【速報】「願いを叶えるため」ALS嘱託殺人控訴審 医師の男の控訴棄却 一審の懲役18年判決を支持 大阪高裁
難病のALSを患う女性に依頼され殺害した嘱託殺人の罪や知人の父親を殺害した罪などに問われた医師の男の控訴審で、大阪高裁は25日、男の控訴を退け、一審の京都地裁と同じく懲役18年を言い渡しました。
医師の大久保愉一被告(46)は、知人の元医師・山本直樹被告(47)とともに、2019年、全身の筋肉が衰える難病・ALSを患う林優里さん(当時51)から依頼を受け、薬物を投与して殺害した嘱託殺人の罪のほか、2011年には山本被告の父親・靖さん(当時77)を殺害した罪などに問われています。
京都地裁で開かれた一審で、大久保被告は林さんへの嘱託殺人について、起訴内容を認める一方で、「林さんの願いを叶えるために行ったこと。目の前で困っている林さんを放っておくことができなかった」などと述べ、弁護側は「林さんの選択・決定を否定し、個人の尊厳と自己決定を保障する憲法13条に違反する」などとして無罪を主張。また山本被告の父親の殺人についても「やっていない」と主張し、全面的に争っていました。
これに対し、京都地裁は今年3月、林さんへの嘱託殺人について、「社会的相当性は到底認められず、真に被害者のためを思って犯行に及んだとは考え難く、利益を求めた犯行」と指摘。山本被告の父親の殺害についても、診断書を偽造していることや山本被告とのメールのやり取りなどから、山本被告らと共謀して殺害したと認定した上で「生命軽視の姿勢は顕著で強い非難に値する」として、大久保被告に対し懲役18年の実刑判決を言い渡しました。
その後、大久保被告は判決を不服として大阪高裁に控訴。10月に大阪高裁で始まった控訴審で、弁護側は嘱託殺人について「自らの生き方の決定を考えるときに生の終わり方と切り離して考えることはできず、一審判決は憲法13条の適用の仕方が根本的に誤っている。また、林さんが主治医や近親者に伝えて自らの希望を実現することが困難な中で、大久保被告らに依頼したのであって、適法に実現できる仕組みが提示されていないことが問題だ」などと述べ、改めて無罪を主張しました。
また、山本被告の父親を殺害した罪についても「山本被告と違って大久保被告には動機がなく、具体的な殺害方法についても共有されていなかった」などと無罪を主張していました。
大阪高裁は25日、控訴審の判決で嘱託殺人について「林さんの意思が変更する可能性について慎重に見極めなければならないところ、大久保被告は林さんの診察もなくカルテも見ていない中、SNSでのやり取りや短い会話しかしておらず、社会的相当性を認める余地はない」と指摘。さらに、父親の殺害についても「殺害することを前提に死亡診断書の偽造や速やかに火葬するための手続きなど具体的な計画を主体的に練り上げていて不可欠な役割を果たした」と述べ、いずれも「一審の判決に法令適用の誤りや事実誤認はない」としました。
スーツ姿で出廷していた大久保被告は、時折目元をハンカチで拭いながら、読み上げられる判決に耳を傾けていました。
弁護側は上告するかどうかについて「検討する」としています。
共犯とされる山本被告は、林さんへの嘱託殺人の罪について、一審で懲役2年6か月を言い渡され、現在、大阪高裁で控訴審が行われています。一方、父親を殺害した罪については一審の京都地裁で懲役13年を言い渡され控訴・上告していましたが、ともに退けられて刑が確定しています。