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「犯罪の証明がない」紀州のドン・ファン元妻に無罪判決「本人が誤って過剰摂取したこと否定できない」法廷ですすり泣きも

2024年12月12日 18:07
「犯罪の証明がない」紀州のドン・ファン元妻に無罪判決「本人が誤って過剰摂取したこと否定できない」法廷ですすり泣きも

 “紀州のドン・ファン”と呼ばれた資産家の男性を殺害した罪に問われた元妻の裁判員裁判で、12日、和歌山地裁は被告に無罪判決を言い渡しました。

 阿部頼我 記者
「和歌山地裁は元妻に対し無罪判決を言い渡しました。無罪判決を言い渡しました!」

 3か月に及ぶ長期審理を経て、言い渡された無罪判決。その瞬間、元妻は顔を伏せ、涙を浮かべていました。

 6年前、和歌山県田辺市の自宅で、資産家の野崎幸助さん(当時77)に何らかの方法で致死量を超える覚醒剤を摂取させ、殺害した罪に問われた元妻の須藤早貴被告(28)。

 逮捕から3年以上がたち、今年9月から始まった裁判では―。

 検察側(初公判)
「『トリカブト殺人事件』『妻に全財産を残したい場合の遺言書の文例』というウェブサイトを見たり、『完全犯罪』『薬物』『老人 死亡』『殺す』などのワード検索をしていた。被告は財産目当てで結婚し、覚醒剤を使って完全犯罪を行った」

 直接的な証拠がない中、「覚醒剤の売人」とされる人物を含む28人の証人尋問を実施。無期懲役を求刑した検察側は、状況証拠のみでの立証を目指しました。

 一方の弁護側は―。

 弁護人(11月8日)
「野崎さんのベッドに寝ることはありましたか?」

 須藤被告(同)
「昼と夜の食事後に添い寝を求められました。(性行為ができず)社長(野崎さん)に『もうダメだから覚醒剤を買ってきてくれないか』と頼まれました」

 「どうやって覚醒剤を飲ませたかも明らかになっていない」などとして、一貫して無罪を主張しました。

 須藤被告(11月18日)
「ちゃんと証拠を見て判断していただきたいです」

 「野崎さんは殺害されたのか」という事件性が争点となった今回の裁判員裁判。

 無罪を言い渡した和歌山地裁は、“犯罪の証明がない”と説明。

 そのうえで―。

 裁判長
「須藤被告が野崎さんを殺害することは可能。ただ、覚醒剤を買ったことは疑わしい。須藤被告が野崎さんに覚醒剤を摂取させたと推認することはできず、インターネット検索履歴と合わせても推認することはできない。野崎さんが誤って過剰摂取したことは否定できない」

 12日の法廷で須藤被告に笑顔はなく、裁判長が出て行く際に一礼し、その後、まっすぐ前を向いて出て行きました。

 今後について、検察側は「判決文の内容を精査し、適切に対応したい」などとコメントしています。

◇◇◇◇

(黒木千晶キャスター)
 それでは、和歌山地裁から最新情報を中継でお伝えします。判決が言い渡された瞬間の法廷内は、どのような様子でしたか?(取材・報告=阿部頼我記者)

(阿部記者)
 裁判長から「無罪」という言葉が出てから、一瞬あっけにとられたような間がありまして、その後、記者が一斉に外へ飛び出していきました。
 これまでの裁判の経過から、無罪の可能性も十分に考えられましたが、傍聴した方に話を聞くと、皆さん「驚いた」と話していました。

 須藤被告は一瞬硬直したように見えましたが、その後、軽く前かがみになり、すすり泣くようなしぐさが見られました。

(黒木キャスター)
 判決のポイントは?

(阿部記者)
 裁判所は、須藤被告が犯行可能な立場にあったことや、遺産目当てという動機を認め、殺害したと疑わせる事情はあったとしています。
 しかし、売人から入手した覚醒剤が完全に本物だったとは言い切れないなどと、検察の示した証拠が、殺害を推認できるほど強くはないと判断しました。

 また、裁判所は自殺や須藤被告以外の他殺の可能性は否定しましたが、検察の出した証拠や、野崎さんが「覚醒剤をやっている」と知人に電話していたことなどを踏まえ、初めて覚醒剤を摂取した野崎さんが誤って致死量を超えて摂取した可能性が、完全には否定できないとしています。

 いずれにしても、検察側の主張の曖昧さを裁判所は否定したことになりました。

(黒木キャスター)
 裁判員からはどのような感想が出ましたか?

(阿部記者)
 直接的な証拠がないことの難しさを指摘する意見が多かったように思います。一部分だけを切り取って有罪・無罪を判断できないと、裁判ならではの難しさを話していました。

 また、感情とは切り離して考えたとも話し、中立の立場で証拠を見ることを心がけたとも話していました。

最終更新日:2024年12月12日 18:35