【特集】「ダウン症の子は育てられないと思った」思い悩む母が、実話をもとに描いた絵本『もし僕の髪が青色だったら』 「生まれた子どもに障害があったらどうしたらいい?」わが子からの問いで見つけた“答え”
ダウン症の女の子を育てる母親が、実話の育児経験をもとに、ある絵本を描きました。タイトルは「もし僕の髪が青色だったら」。絵本の中では、子どもたちから様々な問いが投げかけられます。「僕の赤ちゃんが障害を持って生まれてきたら僕はどうしたらいい?」問いに対する母親の答えとは…家族の日常を取材しました。
「とっても特別だよ、こんな喜びがあるなんて」ダウン症のまりいちゃんとガードナー家の『日常』
大阪に住む、ガードナーまりいちゃん(5歳・取材当時)は、ダウン症の女の子。取材に訪れた日は、「おしりたんてい!」と言いながら、満面の笑みで絵本を楽しんでいました。兄・エイデンくんは小学5年生で、姉・りりいちゃんは2年生。ガードナー家は3人きょうだいです。
(まりいちゃんの母 ガードナー瑞穂さん)
「3人の育児が大変と思ったら、大変やと思ってしまうから、そんなに大変じゃないといつも思うようにしている。まりいちゃんは全然好き嫌いがない。なんでも食べる」
父・ブルースさんはアメリカ人で、学校で英語と美術を教えています。ブルースさんの帰宅後、家族全員が揃っての夕食。この日のメニューは母・瑞穂さん手作りのピザ。姉・りりいちゃんがまりいちゃんにピザを取り分けます。
(まりいちゃん)
「おいしい!うん、おいしいおいしい!」
ガードナー家の子どもたちは英語と日本語、どちらも理解することができます。父・ブルースさんにも英語で話を聞きました。
(まりいちゃんの父 ブルースさん)
「とても幸せだよ。息子がいて娘がいて、まりいちゃんもいて。とっても特別だよ。こんな喜びがあるなんて」
「ダウン症の子は育てられない」母とわが子との出会い 得意の絵が「全然描けなかった」
まりいちゃんがダウン症だと分かったのは、生まれた後のことでした。
(まりいちゃんの母 瑞穂さん)
「一番最初は、『ダウン症の子は育てられない』と思いました。退院してすぐベビーベッドに寝ているんですけど、見に行くのが怖かったんですよ。『まりいちゃん』だと思えなくて、『ダウン症の赤ちゃん』だと思って…」
母・瑞穂さんは学生時代美術を学び、イラストレーターとしても活動しているほどの腕前です。しかし、まりいちゃんが生まれてから、ある変化が…。
(まりいちゃんの母 瑞穂さん)
「退院してすぐの頃、受け入れるために、まりいちゃんの似顔絵を描こうと思って。でも、どうしてもダウン症の特徴を描こうとしてしまうんですね。描けない…全然描けなかった」
我が子を題材にした絵は描けても、まりいちゃんの顔の特徴を押さえた「似顔絵」だけは、納得のいくように描けませんでした。
自問自答を繰り返してきた母が“答え”にたどり着いた親子の会話 そこから生まれた「もし僕の髪が青色だったら」
まりいちゃんは月に2回、ことばのトレーニングを受けています。
21番染色体が3本あるダウン症では、知的な発達の遅れを伴います。5歳のまりいちゃんは現在、2歳半程度の知能とされていて、将来、どれだけ言葉が使えるようになるかは、人により様々だといいます。
(言語聴覚士)
「話し言葉以外の非言語的なコミュニケーションがすごく豊かだから」
(まりいちゃんの母 瑞穂さん)
「まりいちゃんはコミュニケーション能力を…」
(言語聴覚士)
「持っていると思うよ」
日々、成長を重ねる3人のわが子たち。3人きょうだいの真ん中、りりいちゃんは、去年夏に、新たにスケートボードを習い始めました。初めて自分から「やりたい」と言ったそう。スケートボードに打ち込む姿を家族全員、興味津々見つめますが、兄・エイデンくんは…
(まりいちゃんの兄 エイデンくん)
「僕はりりいのような体育系じゃなくてオタク系なの」
兄・エイデンくんが大好きなのは、歴史。日本の城の絵を描くのが得意なのですが、以前は…
(まりいちゃんの兄 エイデンくん)
「昔行っていた学校が、すごく怖いところだった」
エイデンくんには英語が分かる長所を生かして、世界に羽ばたいて欲しいと願って育ててきた母・瑞穂さん。しかし、小学1~2年生のころ学校になじめず、通えなくなってしまいました。毎朝、一緒に学校へ行っては、校門から中に入れず、連れ帰る日々…。
その後、転校を決意し、今では楽しく学校に通えるようになりました。母・瑞穂さんは、このときの育児経験を忘れまいと、ある絵本を作っていました。そのタイトルは「もし僕の髪が青色だったら」。
コピー用紙に印刷された1つだけの手作り絵本。完成後、何年も自宅の本棚で人知れず眠っていたものでしたが、「前、こんなものを作ったんです」と、母・瑞穂さんが取材班に見せてくれました。
絵本の内容は全て、エイデンくんが学校に通えなかった頃の実話に基づいています。ある日、エイデンくんは自らを「青色の髪の子ども」に例え、それでも好きでいてくれるのか、母・瑞穂さんに尋ねました。
【絵本より抜粋】
(エイデンくん)
「ねぇママ、もし僕の髪の毛が青色だったら、ママ僕のこと好きだった?」
(母・瑞穂さん)
「生まれたときから青色なの?」
(エイデンくん)
「うん そうだよ」
(母・瑞穂さん)
「どんな青色なの?」
(エイデンくん)
「魔法の石のような青色だよ。それでも僕のことママは好きなの?」
(母・瑞穂さん)
「もちろん大好きよ。きっとママも同じ色に髪の毛を染めたくなると思うな」
次にエイデンくんは、「自分が半分、猫だったら?」と尋ね、母・瑞穂さんは「もちろん深く愛している」と答えました。しかし一方で、エイデンくんからの問いかけの数々は、ダウン症のまりいちゃんとどう向き合うべきか当時悩んでいた、瑞穂さん自身に別の問いも投げかけていました。
(まりいちゃんの母 瑞穂さん)
「エイデンくんは多分私に『僕が学校行けなくても、お母さん僕のこと好き?』と聞きたかったんだけど、それはダイレクトすぎて聞けなかったから、きっと『髪の毛が青くて生まれても好きだった?』と聞いてきたのだと思います。でもそれは私に『染色体が3本でも好き?』という質問も同時にくるわけで…」
そして、最後にエイデンくんが尋ねたのは―。
【絵本より抜粋】
(エイデンくん)
「いつか僕がパパになって生まれてきた赤ちゃんが…障がいを持って生まれてきたら、僕はどうしたらいい?」
(母・瑞穂さん)
「パパとママがあなたたちを大好きなように、愛したらいい。心配しなくていいよ」
「まりいちゃんとどう一緒に歩んでいけばいい?」数えきれないほど自問自答を繰り返してきた母・瑞穂さん。絵本の最後に、瑞穂さんにとっての答えがありました。
ダウン症を巡っては、近年母体の採血で胎児の染色体について調べる「新型出生前検査」の普及が進んでいます。
(まりいちゃんの母 瑞穂さん)
「生まれる前に(ダウン症だと)分かっていたら、その時の自分だったら恐れおののいて、『心臓の病気が気になる』とか『上の子に迷惑がかかる』とか妄想が膨らんで、きっと産んでいなかったと思います」
そして、こう付け加えました。
(まりいちゃんの母 瑞穂さん)
「あのとき、ダウン症だと分かっていなくてよかったんですよ。本当に」
繰り返した自問自答の先…母が乗り越えた「壁」
まりいちゃんは、地域の幼稚園に通っています。
(まりいちゃん)
「ガオー」
(クラスメイト)
「恐竜や!」
まもなく卒園。掃除はもちろん、友達に気持ちを伝えられるようにもなりました。
(まりいちゃん)
「入れて」
(クラスメイト)
「いいよ」
日々成長するまりいちゃん。そんな中、お母さんには、やりたいことがありました。それは、ずっと納得いくように描けなかったまりいちゃんの似顔絵に挑戦すること。
(まりいちゃんの母 瑞穂さん)
「できた~」
(「どんな表情を描いた?」)
(まりいちゃんの母 瑞穂さん)
「満足した表情かな、やっぱり。『まりいちゃんをみたらすごい笑顔になるわ』と友達が言ってくれるけど、それってすごいなぁって」
ダウン症のわが子と出会い、ともに歩んでいく家族。繰り返した自問自答の先に、「幸せのカタチ」が存在しています。
【取材後記】ダウン症の子を持つ編集者から取材班に連絡が…絵本の出版が決定「それぞれが一歩進むきっかけに」
この特集の放送後、取材班のもとに1本の連絡が入りました。連絡をくれたのは東京の出版社。
(出版社の担当編集者)
「絵本『もし僕の髪が青色だったら』を出版したいのですが…」
この連絡をきっかけに、放送で紹介したガードナー瑞穂さんの絵本出版が決定。さっそく打ち合わせが始まりました。出版社の担当編集者もまた、ダウン症の娘を持つ母親。家族のストーリーと絵本に共感したといいます。
絵本の出版は3月を予定しています。瑞穂さんは「私とエイデンの会話からできた絵本を、また誰かが誰かのために読むのかなと思うと不思議な気持ちになる。読者それぞれが、その後、一歩進むきっかけになる絵本になれば嬉しい」と話しています。
(ウェークアップ 2023年9月30日放送分を一部加筆・編集)