×

【異変】海外でブーム「抹茶」外国人から大人気、飛ぶように売れる陰で…老舗は「異常」京都で今何が?

2025年1月5日 14:00
【異変】海外でブーム「抹茶」外国人から大人気、飛ぶように売れる陰で…老舗は「異常」京都で今何が?
抹茶(提供:中村藤吉本店)

 京都のお茶を代表する「抹茶」。いま海外で大ブームを巻き起こしています。一方、その陰では異変も起きています。実態を取材しました。(取材報告:読売テレビ藤本佳成記者)

■外国人のお目当ては「MATCHA」飛ぶように売れていく商品

 創業170年の歴史を持つ京都府宇治市の老舗「中村藤吉本店」。抹茶、ほうじ茶、煎茶など様々な日本茶を販売しています。
 先月24日、オープン前にもかかわらず、お店の前には約30人の外国人観光客が列をなしていました。

(Q.お目当ては何ですか?)
 サンフランシスコから来た旅行客
「MATCHA!4缶買いました」
 オーストラリアから来た旅行客
「MATCHAを買いに来ました。私にとってMATCHAは幸せです」

 店内の抹茶は飛ぶように売れていきます。
 外国人観光客の多くは抹茶の缶を複数購入した後、さらに、店の奥のカフェで、抹茶パフェなどの抹茶のセットを楽しむことが多いといいます。

■高級品は品切れが続く「生産が追いつかない」

 店内の棚をみると商品のうち、30グラム1万2千円、8千円などの高級な抹茶のほとんどが売り切れになっていました。
 多くの外国人観光客は、希少で高級な抹茶から買っていくため、高級品は品切れ状態が続いているといいます。

 中村藤吉本店 中村省悟 社長
「“品質の良い抹茶はどれですか?”と聞かれる海外のお客様は非常に多いです。その状況が続いたことで、今までに経験のないくらい販売が急増し始めました。その結果、生産が追いつかなくなってしまって、売り切れの商品が多発し、供給が不安定な状況が続いています」

■抹茶を含む日本茶の輸出額は2023年に過去最高を更新

 農林水産省のデータによりますと、抹茶を含む日本茶の輸出額は、2023年で約292億円と、過去最高を記録しました。アメリカ、ヨーロッパなどを中心に輸出され、日本茶の輸出の約70%が抹茶などの粉末状のお茶だといいます。

 さらに、その人気は欧米だけに留まりません。

 「茶匠六兵衛」乃田真理子 エグゼクティブコーディネーター
「少し前まではアメリカやヨーロッパの人たちが抹茶に興味を示していましたが、最近は中東も多くなりました」

 京都に店を構え、全国の生産地から抹茶を海外に輸出している日本茶の卸・小売り店「茶匠六兵衛」。

 去年、ドバイで開かれた中東最大級の食品の見本市で抹茶をPRするブースを出したところ、中東の人々が続々とやってきました。質問攻めにあい、相次いで取引を持ち掛けられ、トイレに行く時間もないほどだったといいます。
 その結果、これまで1回数キロ単位だった取引は、今では数百キロ単位に増えたそうです。一体なぜ?

■人気の理由は“長寿・美容”などの健康志向

 「茶匠六兵衛」乃田真理子 エグゼクティブコーディネーター
「多くの海外の人は、抹茶がとても体に良いと思っています。日本人は長寿で、特に女性は若く見えて肌がきれい、その秘密がお茶にあるのではと思っています。単に抹茶を飲み物としてではなく、美容・健康にも良いものだと考えています」

 「茶匠六兵衛」によると、抹茶には抗酸化作用があり、海外ではスーパーフードとして注目されているといいます。
 
 一方、世界的なブームの陰では異変も起きています。

■何倍もの価格で…海外で横行する“転売”

 中村藤吉本店 中村省悟 社長
「海外の方には高いものから売れていくのですが、とにかく安く感じるようです。理由の一つは転売されているからです。私たちの売る抹茶が何倍もの値段でサイトで売られています」

 今、抹茶業界で起きている異変。それは「転売」です。
 「中村藤吉本店」の中村社長によりますと、高級な抹茶を転売業者が大量に購入。海外の通販サイトで高値で売られているといいます。

■止める手立てはなく“いたちごっこ” 手口は巧妙化

 しかし、転売を止める手立てはなかなかありません。見つければサイトの運営会社などに通報はするものの、また新たな方法で転売され、いたちごっこだといいます。

 老舗抹茶メーカーの中には「転売目的の注文を断る」ところも出てきています。最近では、通販サイトでは通報されるケースが増えていることから、SNSで客にダイレクトメールを送って販売するなど、手口も巧妙になってきているといいます。

■「抹茶だけが爆売れするのは異常」日本人が購入しづらく

 中村藤吉本店 中村省悟 社長
「抹茶だけが爆売れして独り歩きするのは異常。そして、昔ながらの製法で少しずつ大切に作っているものを転売業者に高値で売られることは本意ではありません。それで私たちの業界が潤うわけでもない。抹茶が注目され売れること自体は大きなチャンスなのですが、それが茶畑まで還流して、よいお茶が作られ続けるようにしなければなりません。私たちは、抹茶を含む日本茶全てが評価されて、人々の生活に欠かせないと感じてもらうのが仕事だと思っています」

 抹茶の人気が世界的に高まっているといっても、必ずしも日本茶の業界全体が潤っているわけではありません。
 また、これまで購入してきた日本人の客が購入しづらくなっている状況も生まれています。

■製造に手間ひま、茶畑の面積にも限り… 生産量を急激に増やすことは難しい現状

 そもそも抹茶を作るのには、手間がかかります。
 春頃に一斉に芽吹く新芽に覆いを掛け、日光を遮って旨味成分を葉に留めます。その後、摘採し、酸化酵素の作用を止めるために新鮮なうちに蒸します。
 蒸した葉は碾茶炉と呼ばれる場所で乾燥させ、抹茶の原料になる碾茶になります。この碾茶を茶臼で挽き、粉状にしたものが「抹茶」です。

 「中村藤吉本店」などの老舗では、1時間に40グラム程度しか作ることができないといいます。

 さらに、葉を手摘みするなど昔ながらの製法を守っている生産者の平均年齢は65歳を超えています。また、茶畑の面積にも限りがあり、急激に増やすことはできません。
 海外で売れているからといって、抹茶の生産量を急激に増やすことは難しいのです。

 海外から熱い視線を注がれている「抹茶」。日本の伝統文化を世界の人に知ってもらいたいという気持ちの一方で、転売や供給量との板挟みになっています。生産者の葛藤は、今年も続きそうです。

最終更新日:2025年1月6日 15:58