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【独自解説】大阪のIR計画、万博期間中の工事中問題が決着 “白紙”の危機回避も…続くイバラの道 一番の問題は不明瞭な責任の所在

2024年9月15日 8:00
【独自解説】大阪のIR計画、万博期間中の工事中問題が決着 “白紙”の危機回避も…続くイバラの道 一番の問題は不明瞭な責任の所在
大阪IR 続くイバラの道

 大阪の人工島・夢洲にある万博会場のすぐそばで、現在、整備が進められているのが、カジノを含む統合型リゾートのIRです。2030年秋ごろの開業を目指していて、その経済波及効果は1年間で1兆円以上とも言われていますが、この夏、“騒音問題”などにより「万博期間中のIR工事の中断」を求める声があがり、最悪の場合、“白紙”になることが危ぶまれる事態になっていました。
 前途多難な「IR計画」、この先、無事に進んでいくのか?現場を取材してきた平田博一記者が徹底解説します。

■万博vsIR 騒音問題は解決も、不明瞭な責任の所在が露呈

 今回大きな問題となっていたのが、「万博開幕中のIRの建設工事」をどうするかという問題でした。
 IRを巡ってはこれまで、事業者側に「解除権」というものが設けられていて、「条件が整わなかったら事業者が撤退できる」状況になっていました。そのため、計画とは異なり、「万博期間中にIRの建設工事ができない」という事態になれば、「最悪の場合、IR計画が“白紙”になってしまうのではないか」という懸念があったのですが、今回、万博期間中もIRの工事を続けられることになったため、業者側は「解除権」を放棄。つまり、2030年秋の開業を目指して、今後、本格的に建設工事が進むことになりました。
 この夏の約2か月間、裏側では一体どのようなことが起きていたのか、解説します。

 2024年6月、万博の国際会議が日本で行われ、その際に万博の国際機関である博覧会国際事務局(BIE)のトップ・ケルケンツェス事務局長が、「万博期間中にIRの工事をするということは、私は聞いていない」と言ったのが今回の問題の発端となりました。これを受け、日本の万博協会も「万博期間中はIR工事を中断できないか」と大阪府・市などに要請することになったのです。

 一方で、IRを進める大阪府・市側はIRの建設工事のスケジュールはそもそも国の認可をもらって進めているものなので、「いまさら、『工事を止めろ』というのはおかしい」と主張。IR側と万博側で意見が“対立”するような構造になっていました。

 IRの工事を巡って一番大きな問題となっていたのが“騒音問題”でした。万博協会側は、万博期間中に工事を続けると騒音や景観の悪化などで万博に“マイナスの影響”が出る可能性があるということで、工事の中断を求めたのです。

 大きな展開を迎えたのが8月末です。関係者によりますと、博覧会国際事務局(BIE)・ケルケンツェス事務局長が再び来日した際に、「録音した工事の音」を聞いてもらったということです。これを聞いたケルケンツェス事務局長は「この程度だったら問題ないのではないか」ということで、一気に前進することに。その工事の騒音の大きさというのは、だいたい「博物館の中くらいの音レベル」だったということです。

 ただ、この問題はすでにかなり大きくなっていて、大阪府・市と万博協会の間では収まらず、途中で国も介入することになりました。ケルケンツェス事務局長から「IR工事に待ったの声」があがった後、自見万博担当相や斎藤経産相は、相次いで「万博の会期中は万博の成功が最優先」と発言するなど、ケルケンツェス事務局長の意向に沿うような態度を示していました。

 最終的には、建設工事の中でも騒音が大きいとされる「杭を打つ工事」のピークを閉幕後にずらすなどの追加の騒音対策を行うことで、「万博期間中もIR工事を続ける」ことに合意したのです。

 今回の一連の騒動について、ある関係者からは、「音を聞いてもらって解決できるレベルの話なら、これぐらいは万博協会がしっかりとケルケンツェス事務局長に説明をして調整してほしい」という声が聞かれました。

 さらに別の関係者からは、「誰が責任を持ってIRの計画を前に進めているのか?誰も責任を取ってくれない」という声も聞こえてきました。

 今回の一連の騒動に関して、9月10日、大阪府の吉村知事は「誰が責任という話ではなくて、もっと情報共有をすべきだった」と話しました。万博期間中のIR工事をどうするかというのは、大阪府・市や万博協会の間では、2~3年前からずっと調整が続けられていたもので、関係者の間で適切に情報共有がされていれば、急遽、計画とは異なる対応を迫られるような混乱が起きることにはならなかったのではないかと思います。

■一旦決着も…「交通渋滞」や「土地改良費用の問題」 IR計画にイバラの道は続く

 万博期間中のIRの工事問題はひとまず決着することになりましたが、今後に向けて少し気になる動きが。
 8月に来日した博覧会国際事務局(BIE)・ケルケンツェス事務局長は、引き続き、このような発言をしています。「万博に“マイナスの影響”を与えないようにIRの工事をしてほしい」ということなんです。
 
 万博とIRを巡ってはまだ気になる課題が残っていて、その1つが、万博期間中の「交通渋滞」の問題です。

 万博、そして、その後、IRが行われる予定の夢洲は、車両で移動する手段は橋とトンネルの2つしかありません。しかし、万博開催期間中はIRの工事車両だけでも、1日に最大で約2000台が夢洲にくると言われています。今のところ大きな交通渋滞がないように調整しているということですが、いざ万博が開幕して交通渋滞が発生し、「万博に“マイナスの影響”を及ぼす」と判断されれば、今回と同じように、また、ケルケンツェス事務局長などから「待った」の声があがらないかと懸念する声が聞こえてきています。

 さらに、こちらは、IRの内側の問題ですが、大阪市が現在、IR予定地の土地改良工事を行っていますが、この「工事にかかる費用やその間の土地の賃料を大阪市が負担するのはおかしい」と訴える住民訴訟も起きています。引き続き、IRに関する課題は残されていると思います。

 今回の一連の騒動から見えてきたことがありました。大阪のIR計画は、引き続き様々な課題がある中で、「誰が責任を取って、リーダーシップを発揮して、前に進めていくのか」ということを明確にすることが今後、重要なのではないかと感じました。
(読売テレビ記者 平田博一)

(「かんさい情報ネットten.」2024年9月10日放送)