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【特集】「パンドラの箱を開けたら恐怖がいっぱい出てきた。でも、最後にhope(希望)が入っていた」ダウン症の女の子を育てる母からのメッセ―ジ…手作りの絵本『もし僕の髪が青色だったら』が出版されるまでに独自密着「どんなあなたも全部愛してる」

2024年4月7日 12:00
【特集】「パンドラの箱を開けたら恐怖がいっぱい出てきた。でも、最後にhope(希望)が入っていた」ダウン症の女の子を育てる母からのメッセ―ジ…手作りの絵本『もし僕の髪が青色だったら』が出版されるまでに独自密着「どんなあなたも全部愛してる」
3月に出版されたガードナー瑞穂さんの絵本「もし ぼくのかみが あおいろ だったら」

 ダウン症の女の子を育てる母親が描いた絵本が、報道番組の特集をきっかけに、2024年3月に出版されました。タイトルは『もし ぼくのかみが あおいろ だったら』。絵本の中では、子どもたちから様々な問いが投げかけられます。絵本に込められた、母からのメッセージとは―。手作りで描かれた後、本棚で眠っていた絵本が出版されるまでに独自密着しました。

ガードナー家に出版社が!絵本の書籍化が決定

 2023年10月末、猫好きなダウン症の女の子・ガードナーまりいちゃん(6)の自宅を訪ねてきたのは…。

(『東京ニュース通信社』中山広美さん)
「東京ニュース通信社の中山と申します。あー!こんにちは、まりいちゃんだ」

 まりいちゃんの母・瑞穂さんのもとを訪ねてきたのは、出版社『東京ニュース通信社』の中山広美さん。実は、報道番組『ウェークアップ』で2023年9月、まりいちゃんと家族の日々の特集「もし僕の髪が青色だったら」を放送。瑞穂さんの手作り絵本を動画絵本にしてWEBで公開したところ、出版社の目に留まり、書籍化の話が舞い込んだのです。

(中山さん)
「今でも何回見ても泣ける動画なのですが、とても感動して、あの動画絵本を紙の絵本にしたいという思いが強いです」

 ガードナー家は、5人家族。小学校で美術と英語を教えるアメリカ出身の父・ブルースさん、母・瑞穂さん、兄・エイデンくん(小5)、姉・りりいちゃん(小2)、そして末っ子のまりいちゃんです。

 通常は2本の21番染色体が3本ある『ダウン症』。まりいちゃんがダウン症だとわかったのは、生まれた後のことでした。

(まりいちゃんの母・瑞穂さん)
「最初は、『ダウン症の子は育てられない』と思いました。退院してすぐ、ベビーベッドにまりいちゃんが寝ているんですけど、見に行くのが怖かったです。『まりいちゃんだ』と思えなくて、『ダウン症の赤ちゃんだ』と思って」

 ダウン症のわが子と、どう歩んでゆけば良いのか…。瑞穂さんが自問自答を繰り返していたさなか、兄・エイデンくんにも変化が起きました。

(まりいちゃんの兄・エイデンくん)
「昔、行っていた学校が、僕にとってはすごく怖い所だった」

 小学1・2年生のころ、学校に馴染めず、通えなくなってしまったのです。毎朝、一緒に学校へ行っては、門の中に入れず、連れ帰る日々。

 この経験を忘れまいと、学生時代に美術を学んでいた瑞穂さんは、手作りの絵本を描きました。タイトルは、『もし僕の髪が青色だったら』。

 コピー用紙に印刷された、一つだけの手作り絵本。完成後、何年も自宅の本棚で人知れず眠っていましたが、瑞穂さんが取材班に「前、こんなものを作ったんです」と見せてくれたのです。絵本の内容は全て、エイデンくんが学校に通えなかった頃の実話に基づいています。

 ある日、エイデンくんは自らを『青色の髪の子ども』に例え、それでも好きでいてくれるのか、瑞穂さんに尋ねました。

【絵本より抜粋】
(エイデンくん)
「ねぇママ、もし僕の髪の毛が青色だったら、ママ僕のこと好きだった?」
(瑞穂さん)
「生まれたときから青色なの?」
(エイデンくん)
「うん、そうだよ」
(瑞穂さん)
「もちろん大好きよ。きっとママも、同じ色に髪の毛を染めたくなると思うな」

 次にエイデンくんは、「自分が半分、猫だったら?」と尋ね、瑞穂さんは「それでも愛している」と答えました。

 一方、エイデンくんからの問いの数々は、当時「ダウン症のまりいちゃんと、どう向き合うべきか」と悩んでいた瑞穂さん自身に、別の問いも投げかけていました。

(瑞穂さん)
「『僕が学校に行けなくても、お母さんは僕のこと好き?』と聞きたかったんだけど、それはダイレクトすぎて聞けなかったから、きっと『髪の毛が青く生まれても好きだった?』と聞いてきたのだと思います。でも、それは私に『染色体が3本でも好き?』という質問も同時に来るわけで…」

 そして、最後にエイデンくんが尋ねたのは―。

【絵本より抜粋】
(エイデンくん)
「いつか僕がパパになって、生まれてきた赤ちゃんが障がいを持って生まれてきたら、僕はどうしたらいい?」

 この絵本を読んだ中山さんは、瑞穂さんに感想を伝えました。

(中山さん)
「“障害”という言葉を使ったからこそ、大人までズーンと響くので、活かしたいと思うんですけど」
(瑞穂さん)
「そうですね、障害って難しいですね。本当に障害がある人でも、生活の中で障害じゃなければ障害じゃないですもんね」

「サンタさんへの願い事は…」ガードナー家のクリスマスに密着

 瑞穂さんとブルースさんはもともと、テーマパークでフェイスペイントの仕事をしていた同僚。2人は、あの手この手で子どもたちを喜ばせることを第一としています。

 クリスマス・イブの日、ブルースさんは3人のわが子のために、ブルースさんの故郷で親しまれる『くす玉遊び』など、とっておきのイベントを企画しました。ディナーは『ターキーの丸焼き』で、子どもたちは大喜び。

 りりいちゃんのサンタクロースへの願いは…。

(まりいちゃんの姉・りりいちゃん)
「アイドルの服が欲しい。I want an idol costume」

 一方、エイデンくんは、サンタクロースへの願い事をしていないといいます。

(兄・エイデンくん)
「僕は、このままですごく幸せなんだ。ママもりりいもパパもまりいもいるし、猫ちゃんもいるし」

 翌朝、まりいちゃんにプレゼントが。2023年に発表されたばかりの『ダウン症のバービー人形』です。

(瑞穂さん)
「世界のダウン症の大人の人たちは、バービー人形が発売されることを喜んでいたんです。子どもはもっと柔軟に、それを楽しむんだろうなと思って」

 ちなみに、りりいちゃんにも、サンタクロースからクリスマスプレゼント『アイドルのコスチューム』が届けられました。

広がる共感の輪 出版に込めた編集者の思い

 2024年2月、東京では、絵本の出版に向けた編集作業が佳境を迎えていました。実は、担当編集の中山さんも、ダウン症の娘を育てる母親。娘・由梨ちゃんは生まれて間もなく、心臓の手術を受けました。

(中山さん)
「私も(由梨ちゃんが)生まれたあと、病院にいる間、ずっと泣いていたんです」

 由梨ちゃんも、今では8歳。兄も小児がんを患った過去があり、親子一緒に多くの困難を乗り越えてきました。

(中山さん)
「子どもって、障害のある・なしに関係なく、絶対に何かで躓くこととか、自信がなくなってしまうことはあると思うんです。それを親も受け入れて、『大丈夫だよ』と言ってあげることは、普遍的なこと」

Whatever you do, still I love you anyway―

 3月中旬。ガードナー家の姿は、書店にありました。

(瑞穂さん)
「おぉ、あった!エイデン、見て!」
(エイデンくん)
「わぁー、すごーい!とっても幸せで興奮しているよ」
(ブルースさん)
「おめでとう、君の腕前や才能が花開くと思っていたよ」

 絵本『もし ぼくのかみが あおいろ だったら』の最後は、こう締めくくられます。

【絵本から抜粋】
(エイデンくん)
「いつか ぼくがパパになって うまれてきた あかちゃんに しょうがいがあったら ぼくは どうしたらいい?」
(瑞穂さん)
「パパとママが あなたたちを だいすきなように、あいしたらいい。しんぱい しなくて いいよ」

 ダウン症の娘と出会って、6年。その先に見つけたものとは―。

(瑞穂さん)
「パンドラの箱(笑)パンドラが箱を開けて、恐怖がいっぱい出てきた。一番怖いのは、自分自身だったし。でも、最後に蓋を閉めた中に、hope(希望)が入っていた」

 そして、まりいちゃんが幼稚園に通う最後の日。卒園式で、まりいちゃんが発表した将来の夢は、ダンサー。4月からは支援学校で、新たな日々が始まります。

 まりいちゃんと家族の物語は、絵本になって世界中の人たちへ。「Whatever you do, still I love you anyway(どんなあなたでも、私は全部愛してる)」―。

(「ウェークアップ」2024年3月23日放送)