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“服のたね”から洋服の裏側を想像する

2021年8月26日 21:23
“服のたね”から洋服の裏側を想像する

服がどのように作られるか想像したことがある人は、どれくらいいるだろう。「服のたね」プロジェクトは、洋服の主原料となるコットンを育てることで、服の生産プロセスを自分ごと化する取り組みだ。その意義を、企画者・鎌田安里紗さんらとともに考える。

■種からコットンを育てる「服のたね」

高校生からギャル雑誌のモデルや渋谷109のカリスマ販売員として、洋服にまつわる仕事で活躍してきた鎌田さん。現在は「エシカルファッション」について考える企画を幅広く展開する。その一つが、「服のたね」という取り組み。服づくりの過程を一緒に楽しむことを目的に、原料となる綿花を種から育て、参加者が収穫したコットンから一着の服を作る、1年がかりのプロジェクトだ。

この取り組みを始めたきっかけは、アパレルに関わる仕事をしているのに「洋服の生産工程が見えてこなかった」ことに違和感を覚えたことだったという。

「109でショップ店員のアルバイトをしていたのですが、しばらくしてから、洋服のデザイン企画の仕事をやらせてもらえることになりました。本社には生地の見本帳みたいなものがいっぱいあって、その中から生地を選び『この生地でこういう雰囲気の服をつくりたい』と伝えると、1週間くらいして外国の工場からできあがった服が送られてくるんです。その時に、組み立てをお願いをしただけで服ができちゃうって不思議だと思ったんですよね。

原材料を育てて、糸にして、生地にして、染めて、縫って、やっと一着の服ができるはずなのに、自分がデザインをする側に回っても、その生産過程が見えない。生産背景のことをお客さまに語れないことも不思議だと思い、工場に行ったりするようになりました」



生産過程を知る中で、アパレルの環境負荷の高さも知った。

「あるとき、知り合いがコットン(ワタ)の苗をくれたんですよね。家で育ててみたら、途中で枯れちゃったり、虫がやってきたり、いろんなハプニングが起きて大変なことを実感しました。そうやって、服を作る過程を知ると、服の完成品を見たときに見える景色も変わるなと思い、生産過程をみんなで体験するプロジェクトを立ち上げました」

一つの鉢から収穫できる綿花はわずか。参加する数十人分をあわせても、Tシャツ一枚分にも満たないという。最終的には紡績工場のオーガニックコットンとブレンドして製品をつくるが、育てる体験を通して、素材や大切さや一枚の洋服を作る大変さを伝えている。



■水への影響も懸念されるコットンの大量消費

環境省「ファッションと環境」タスクフォースチームメンバーの福田朋也さんは、この取り組みを「良い取り組み」と評価する。さらに、コットンの過剰な生産による「水」への影響について話す。

「現在、国内に供給される衣服の製造で必要な水の量は年間で約83億立方メートル、うち約9割は綿の栽培によるものです。服の原料となる綿花を作るために、年間で約83億立方メートル以上の水が使われています。綿花は、雨と乾燥の両方が必要な植物生物。もともとは雨の多い熱帯地域で作られていたんですが、地下水を汲み上げることで乾燥した地域でも作れるようになりました。その結果、地下水を大量に汲み上げてしまい、飲み水になるようなものまで使われています。そういった意味で環境負担が大きいとも言われており、もし全てを“オーガニックコットン”にできたら、年間67億立方メートルの水が節約できると言われています。綿花の多くは海外で作られているので、個人で思いを馳せるのはなかなか難しい。自分で育てることで、身近に感じてもらえるといいですね」


■食べ物以外の“オーガニック”という選択肢

Tシャツ1枚を気軽に買い、気軽に捨てる。そんな生活が、別の場所で地下水の枯渇に影響を与えているのかもしれない。“オーガニックコットン”は、土壌を汚さないという意味でも、地下水に頼らないという意味でも、環境に優しいといえる。オーガニックコットンの話を聞き、鎌田さんは「洋服でもオーガニックという選択肢があることを知ることが大事ですよね」と話す。

「食べ物でオーガニックの野菜などは結構聞くようになってきたじゃないですか。でも、服の原材料でオーガニックという選択肢があるんこと自体が、まだあまり浸透していないと思います。そもそも『服って植物だったんだ』みたいなところから実感していけると面白いですよね」

洋服が自分の手元に届くまでの背景を知る。どこかの国で大事に育てられた綿花や、そこで使われる地下水に想像をふくらませる。それでも「安いから、新しく買えばいいや」と思えるだろうか。

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この記事は、2021年7月30日に配信された「Update the world #7 地球にやさしいオシャレ」をもとに制作しました。

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