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“ヒロアカ”作者・堀越耕平にインタビュー 「この人がヒーローだよな、僕にとって」 10年の連載で変化したヒーロー像

2024年7月31日 22:05
“ヒロアカ”作者・堀越耕平にインタビュー 「この人がヒーローだよな、僕にとって」 10年の連載で変化したヒーロー像
『僕のヒーローアカデミア』の作者・堀越耕平さん
世界累計発行部数1億部を記録した人気漫画『僕のヒーローアカデミア』。8月5日(月)発売の「週刊少年ジャンプ」36・37合併号にて、10年続いた連載がついに終了します。人々を魅了する作品はどう描かれているのか。報道番組『news zero』が、作者の堀越耕平さんを取材しました。放送に入りきらなかった未公開部分を含めたロングバージョンです。

■世界を魅了 “ヒロアカ”が生まれる場所

日本時間の7月6日、アメリカで開催された北米最大級のアニメの祭典『Anime Expo 2024』。一際盛り上がりを見せていたのが『僕のヒーローアカデミア』通称“ヒロアカ”のイベントです。8月2日に日本で公開される劇場版『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』の詳細が発表され、会場には3400人以上もの人が詰めかけました。

『僕のヒーローアカデミア』の舞台は、人口の約8割が“個性”という特殊能力を持つ世界。様々な個性を生かして街の安全を守るヒーローが職業になっています。そんな中、何の個性も持たずに生まれた主人公・緑谷出久。ヒーロー養成学校に通い、仲間と最高のヒーローを目指す物語です。

2014年に連載が始まり、現在コミックスは40巻(掲載時点)。2024年4月には、累計発行部数が世界で1億部を突破する記録的なヒット漫画となりました。その作品を描いているのが、堀越耕平さんです。顔出しはNGですが、『news zero』の中島芽生キャスターが特別に作業場を取材することができました。

◇◇◇

中島:気になるのは、この辺りにある…

堀越:これは原稿です。

中島:おお~!

堀越:描き直しですね、コミックス用の。(見せたら)ダメなやつしかないんですよ。これは落書きです。気晴らしに。

中島:息抜きもやっぱり描くことで消化しているみたいな所もあるんですね。

堀越:それしかやってこなかったので。

中島:何時間ぐらいこの部屋で作業されるんですか?

堀越:ずっと終わるまでやっています。

中島:多い時だと24時間中…?

堀越:36時間。

中島:超えてしまった。

■過去、2度の打ち切りを経験 「もう1回挑戦しよう」で“ヒロアカ”が誕生

2024年6月、残り5話で完結することが発表された“ヒロアカ”。するとSNSでは「あと5話」というワードがトレンド1位に。世界でも大きな話題となりました。子供の時から使っている学習机で作品を描き続けてきた堀越さん。10年の連載が終了することについて、どのように感じているのでしょうか?

◇◇◇

中島:10年の連載がいよいよ終わる…

堀越:意外とさみしい。(例えば)このキャラあと10何コマしか描けないんだって思ったり、やっとゴールできますねって思いながらっていうのもあるんですけれど。

中島:4月には世界累計発行部数1億部突破。1億という数字ってどう思いますか?

堀越:ちょっともうよく分からないですね。

中島:「よっしゃー!」ってならないんですか?

堀越:いや、全然ならない。本当にならなかったです。これは謙遜とかじゃなくて、WHY(なぜ)って思って。

中島:WHY(なぜ)って思っているんですか?

堀越:いや、もう長く続いちゃっただけかなって思っているんですけど。

中島:いやいや、長く続いただけでは決して届かない数字ですよね。

堀越:ずっと“ヒロアカ”に価値を見出してくれている方がいらっしゃるので、達成した数字だとはすごく思うんですけど、本当にもうすごくちっちゃいお話をしているので、“ヒロアカ”って。そんな仰々しい数字を打ち立てられると、ビックリしちゃう。

中島:世界に人気が広がっているっていうところはどう見ていらっしゃいますか?

堀越:いや、なんかそこも全然意識していないし、もちろん狙っていないですし。描いたものが、なぜかたまたま海を越えて、文化の違う方に受け入れてもらえたっていう感じで。あえて海外の方にウケているから、ワールドワイドなもの描かなきゃとか、そんなことはもう全然思っていなくて。不思議ですよね。

中島:そもそも“ヒロアカ”を描こうって思った、そのきっかけはなんですか?

堀越:どうだったかな。忘れちゃったな。もう10年も前ですからね。すごくナルシシズムみたいになっちゃうんですけど、(昔)2回打ち切りになって、もう漫画いいやと思っていて、それで当時の編集担当さんが「諦めないで」「頑張って」って言ってくれたので、「じゃあ最後にちょっともう1回挑戦しよう」っていうことで、とりあえず自分の好きなものいっぱい入れて、自分の描きやすいものだけで構成して描いてみようって。

■堀越耕平が思う「面白い」とは

連載開始から10年、多くの人を魅了してきた『ヒロアカ』。SNSでは「ヒーロー側にとって都合がいい話だけで終わらないのがすごい」「正義って何なのか考えさせられる」といった声があがるなど、ヒーローと敵、それぞれ単純な善悪では割り切れない様や、個性のありなしから生まれる偏見など、社会のひずみが描かれます。

◇◇◇

堀越:世相がどうこうとか、現実世界でもこうだからこういうメッセージを込めてやろうと描いたことはない。あくまでヒロアカ世界っていうものに対して責任を持って描く。常に面白いって言ってもらえることだけを考えている。

中島:先生が思う「面白い」って何でしょうか?

堀越:改めて考えてみた時に、かっこいい必殺技とかクールなキャラクターはあまり夢中になっていたわけじゃなくて、例えば『ONE PIECE』で僕ボロボロ泣いちゃったんですよね。心がもうグーって震えて感動しちゃったっていうのが僕の中では「面白い」だったんです。読んだ人の心がグラッと揺れて、ばーっと泣いちゃう。泣くと体験になるから、読んでくれた人に、そういう体験をもたらしたいなという感じです。

中島:漫画家として一番大切にされていることって何でしょうか?

堀越:読んでもらうことですかね。どこで知ったかもう忘れちゃったんですけれど、 「漫画は読んでもらって初めて完成する」ってなにかで読んで「確かに」って思って、まず読んでもらわないと完成すらしないんだって思って。幸い僕は、『週刊少年ジャンプ』っていうすごく大きい媒体で描かせてもらっているので、1人にも読まれないってことは多分もうないと思うのですけれど。でも、なるべく多くの方に読んでもらって、「楽しかった」って言ってもらえれば、それが全てだと思うので、それが一番大事だと思います。

■自身の経験から感じた“ヒーローは自分の身近にいる”

そんな堀越さんは、ヒーローを描く上で1つの信念を持っているといいます。それは、ヒーローは自分の身近にいる、ということ。

◇◇◇

中島:描き続けて、ヒーローという言葉に対して、イメージが変わった?

堀越:だいぶ変わりましたね。1話目とか描いている時点では、殿上人みたいな、手の届かないところにいる人がヒーローだと思っていたのですけれど、立派なことをやらなくても、ちゃんとよくあろうとしていれば、それはもうヒーローなんじゃないのかな。僕は「もう描けねえ」ってなっちゃった時に、編集担当さんが「大丈夫っすよ」って明るいテンションでずっと言ってくれていたんですね。それがものすごく助かったんですよ。鳥山明先生(DRAGON BALL)、尾田栄一郎先生(ONE PIECE)、そういう方に憧れて漫画描いていたんですけれど、助けてくれたのって隣にいた編集担当さんだったので。「この人がヒーローだよな、僕にとっては」って。

中島:誰しもがヒーローになれるっていうことですよね。

堀越:実際に手を差し伸べてくれて、「大丈夫だよ」って肩たたいてくれた人はやっぱり本当に命の恩人になるので。(『僕のヒーローアカデミア』も)そういうところに着地するんじゃないかなと思っています。


(7月19日放送『news zero』を再構成)