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世界でも戦える?日本のタテ読みマンガ【SENSORS】

2024年2月10日 21:03
世界でも戦える?日本のタテ読みマンガ【SENSORS】

スマホに最適化された"タテ読みマンガ"の登場で、日本のマンガが世界中から読者を獲得できる可能性が高まっている。タテ読みマンガの制作・配信を手掛ける制作会社、編集者、クリエイター、プラットフォーマーらの見解を掘り下げ、タテ読みマンガのグローバルな可能性と今後の成長について探った。

■市場はグローバル タテ読みマンガの可能性

スマホに最適化されたタテ読みマンガは、隙間時間でも手軽にアクセス・閲覧が可能で、若い世代へのリーチを見込めるメディアだと言える。右開き・左開きではなく縦に読み進める=世界中で統一されたフォーマットも大きな特徴で、全世界に読者を獲得できる可能性もある。タテ読みマンガのグローバル展開の可能性について、タテ読みマンガの配信プラットフォーム「LINEマンガ」を運営するLINE Digital Frontierの山下勝也さんは「世界に通用するメディアだ」と確信する。

「人気作品をグローバルに配信していくことで、少しずつ読者も獲得できています。タテ読みマンガがもっとも浸透している韓国から取り組んでいます。また、アメリカでも権威あるマンガ賞を受賞するなど、少しずつ浸透してきている状況です」

■世界中で共感されるコンテンツとは?

タテ読みマンガ制作・配信事業を手掛ける株式会社ソラジマ共同代表の前田儒郎さんは、事業の初期段階からグローバル市場を意識していたと語る。

「これまで、世界における日本のコンテンツは、アニメやゲームが主に売れていて、マンガは意外と読まれていませんでした。しかし今、マンガアプリの登場で、急速に世界中で読まれるようになりました。例えば、ファンタジーは共通言語なんです。国籍や社会の常識が違うと分かり合えない部分がある一方で、ファンタジーなら皆が楽しめます。世界的に著名な『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』もファンタジーですよね」

「どの市場を狙うかによって、作品の方向性は異なると思います。例えば世界中で愛される作品を目指すと、日本人でしか理解できない文化性を届けることは難しい。どちらが良い、悪いではなく、誰に向けて作るかが大事かと」

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一方で、タテ読みマンガの編集を手掛ける株式会社コルクの佐渡島庸平さんは、全世界を目指すときに、地域性が入らない作品がいいのかどうかは悩ましいと話す。

「世界を目指すときに、共感されやすいように、アメリカやヨーロッパを舞台にした方がいいかとも思ったんですけど、村上春樹さんの作品って日本ですよね。どこの国で作られたのか分からない無国籍な作品として全世界に広がるのか、日本の作品だと思われて全世界に広がるのか。実は『日本ってこういう感じなんだ』と、他の国の人には、よく分からないことも逆に良さになります。共通していることだけを描いていくと抽象的になっていき、具体の細かいところが演出されていない作品が本当に愛されていくのか。小さな"あるある"が、作品に共感する上では重要だったりするので、そこは課題かなと思います」

■難しさは“キャッチーさ”と“メッセージ性”の両立

タテ読みマンガのブームは韓国が牽引しており、世界中で読まれている作品も韓国発が多いが、ようやく日本発の作品もようやく追いついてきた。山下さんは、ここから日本のヒット作が生まれることを期待する。

「韓国のほうがタテ読みマンガに取り組み始めた時期が早かったため、ノウハウを活かした数々の人気作が生まれています。一方、日本でも2022年頃からタテ読みに対応できるスタジオや会社が増えてきました。2024年は、もっとたくさんの作品が世に出てくるはずです。作品数が増え、多くのクリエーターが関わるようになってきた今、ヒット作が生まれるのではと感じています。日本には、ヨコ読みマンガを作ってきた歴史や伝統技術もあるので、そこが噛み合わさっていくと、自ずと勝てるようになるのではと思います」

前田さんは、さらに作家の才能やメッセージ性も重要と話す。

「韓国発のヒット作は、メッセージ性、作家性が強いと感じます。日本作品が韓国を含めて世界で戦えるかどうかに関しては、日本の作家さんたちの才能やメッセージ性をいかに打ち出せるかにかかっているのではないでしょうか」

これまでメッセージ性の強い作品を手掛けてきた佐渡島さんは、今の時代は設定の面白さとテーマの深さのどちらも大事だと話す。

「これまで僕の作った作品ってなかなか売れなくて。『ドラゴン桜』も『宇宙兄弟』も2年間ぐらい売れなくて大変だったんですよ。"粘っていくと面白かった"という感じなんです。ただ、もう今の時代は、"設定の面白さ"と"作品の持つテーマというか深さ"みたいなもの両方を狙うという感じで作品を作っています。初速が悪かったら、何かが悪かったと思ってやり直そうという考え方です。読者はいきなりメッセージとか、深く考えてみようと思ってなくて。みんな面白いものを知りたいと思っています。昔はマンガを読む人たちって、何かを深く考えたいとか、本を読む延長線上でマンガを読んでいたのに対して、スマホのタテ読みマンガは隙間時間をつぶすために読みだす。読んでいく中で気がつくと深いことを考えていたな、という感じだと思うので、両方をかなえることが重要だと今は思っています。僕は、キャッチーさをつくるのが苦手です。僕にしたらすごくキャッチーかなと思って出すと、まったくキャッチーじゃないということを、今、味わってますね」