ロシアと北朝鮮を結ぶ鉄道 両者の思惑一致
今年9月、ロシアと北朝鮮を結ぶ鉄道ルートが開通した。この鉄道の開通は、アジアへの足がかりを強化したいロシアと、外国の資金で開発を進めたい北朝鮮との、両者の思惑が一致し実現したものだ。モスクワ支局・山内康次記者が工事を終えたばかりの列車に乗り込み取材した。
北朝鮮の羅先特別市にある羅津港。この日、羅津港とロシア極東のハサンを結ぶ全長54キロの路線が5年にわたる改修工事を終え開通し、約3000人が参加して盛大な開通式が行われた。ロシア鉄道公社のヤクーニン総裁は「2001年、北朝鮮の指導者とロシアの大統領は鉄道の改良と港湾施設の建設について合意し、それが完成したのです」とスピーチした。また、北朝鮮のチョン・ギルス鉄道相は「わが国民は、金正恩最高指導者に従って力強く繁栄する国家を建設するという目標に、最終的に勝利するため積極的に戦っているのです」と語った。
老朽化した線路を撤去して、北朝鮮とロシアの双方の規格に対応する線路を新たに敷き、北朝鮮とロシアの間ではじめて直通運転ができるようになった。ロシアは工事費用の7割にあたる約150億円を投じ、この路線を利用する権利を北朝鮮から得たのだ。鉄道の開通式を取材するため取材班は、北朝鮮との国境に近いロシアのハサンから工事を終えたばかりの路線を走る列車で北朝鮮の羅津港へと向かった。
ハサンを出発してから約15分、北朝鮮に入った。北朝鮮側に入ったということで、ここからはカメラを止めろという指示があった。撮影を再開できたのは北朝鮮側の入国と税関の手続きが終ったあとだった。車窓には、日本人には見る機会の少ない北朝鮮北東部ののどかな風景が広がり、まるで昔の時代にタイムスリップしたかのような印象を受けた。目の前に見えたのは日本海。漁をしているのか、小舟も浮かんでいる。経済特区の羅先に入ると建物が増え、多くの住民がロシアの列車を珍しそうに眺める姿が見られるようになった。街の中心部にさしかかると金日成、そして金正日氏の肖像画が掲げられているのが見えた。50キロ余りの距離を1時間半ほどかけて走った列車は終点の羅津港駅に到着した。駅と言っても駅舎やホームはない。
かつて日本が整備した羅津港。現在は、ロシアと中国が北朝鮮からの使用権を得て老朽化していた港湾施設の整備に着手している。こうした中での鉄道の開通。外国の資金により経済特区の開発を促進したい北朝鮮と鉄道と港湾という物流の要を押さえることでアジアへの足がかりにしたいロシアの両者の思惑が一致して実現したといえるのだ。さらに、ロシアは、今回開通した路線をきっかけに将来、朝鮮半島縦断鉄道とシベリア鉄道を結び、アジアとヨーロッパの物流の中心的な役割を果たすという壮大な青写真を描いている。羅先の旅行会社でガイドをしている女性は「いまはロシアからの観光客はいませんが、これからたくさん来ると信じています」と語る。
現在、港では、貨物ターミナルの建設も進められていて、鉄道で運ばれたロシア産石炭の輸出などで物流が活性化することに両国は期待を寄せている。