“鉄道発祥の国”で受注増 “日本流”鉄道
鉄道発祥の国・イギリスで、日本の日立製作所が鉄道車両の製造を相次いで受注している。世界的メーカーがしのぎを削るヨーロッパで受注を重ねるその訳を、石川真史記者が取材した。
3月、イギリス南部の港・サウサンプトンでは、高速鉄道の車両が陸揚げされていた。船から運び出されたのは、山口県の工場で製造され約2か月かけて海を渡ってきた車両だ。日立は、2012年以降、ロンドンとスコットランドなどを結ぶ高速鉄道用の車両866両の製造と27年半にわたる保守を受注した。総事業費は約1兆円にのぼる巨大プロジェクトだ。英・運輸省のクレア・ペリー政務次官は、車両の到着イベントでこう挨拶した。
「すばらしい新しい列車は、ロンドンと北部・南西部を結ぶイギリスでも混雑が激しく、とても重要な2つのルートの旅を変えることになるでしょう」
日立は、受注した866両のうち約9割をイギリス国内で作る計画で、そのための工場を建設している。工場は2016年中に稼働を開始。そこで3月に新たに受注した都市近郊用の車両の生産も始める予定だ。ヨーロッパの鉄道車両の製造をめぐっては、フランスのアルストムやドイツのシーメンスなど世界的なメーカーがしのぎを削っている。そのような中、なぜ日立は受注を増やしているのだろうか。
ロンドンオリンピックの観客輸送などで、すでにイギリスで活躍を始めている日立の高速鉄道車両。その整備工場を訪ねた。工場では、最高時速230キロで走る車両、約170両の整備を日々行っている。24時間体制のオペレーションルームに案内されると、大きな画面が2つあった。工場責任者のナイジェル・キングさんがこの画面について説明してくれた。
「左側の画面は、車庫に入った列車の配置を示しています。3つのシフトが稼働し、どの列車のどの仕事を優先させるかが分かります」
仕事の優先度がこの画面で確かめられるだけでなく、世界中の事務所からもオンラインで情報を共有できるという。さらに奥の部屋に行ってみると、部屋の名前に“改善”という日本語が使われていた。
「いま入ってきたここは『カイゼンルーム』です。安全や電車の性能などについて、すべての問題の根本原因を明らかにします。ここで学んだことを将来のプロジェクトに生かすようにしています」
従業員が勤務中に気づいた問題点を持ち寄り、業務の改善を図っているという。
実際の車両にも工夫があった。車両の床下の機械を隠すためのカバーを固定するレバーが黄色に塗られている。列車の走行中に、もし外れれば大事故につながりかねないカバー。これを固定するレバーを分かりやすい色にすることで、横向きなら固定されている、縦向きなら外れる、と一目で分かるようにしている。また、工場の床は、ネジ一本が脱落しても分かるよう常にきれいな状態を維持。このような日本的な細やかさがイギリス側に評価され、受注につながっているという。今後の課題をナイジェルさんはこう語る。
「ヨーロッパへ車両を輸出するために必要なのは、高速鉄道プロジェクトで何を得られるか。ここで自信を得て成長し拡大できる」
目指すのはヨーロッパ大陸への進出。そのためにイギリスでのプロジェクトでどこまで信頼を増し、実績を積むことができるかがカギになりそうだ。