違法薬物の蔓延に“驚きの対策” タイ
「ヤーバー」と呼ばれる違法薬物が蔓延し社会問題となっているタイで、驚きの対策が行われている。
私たちが訪ねたのは、タイ中部にある寺。そこには、多くの若者の姿が。みんな違法薬物の中毒患者で、薬物と縁を切るために寺に来たという。ここで行われていたのは、驚きの荒療治だった。
ひざまずく彼らに、寺の僧侶がハーブを煮出した秘伝の薬液を飲ませる。するとまもなく、彼らは水を飲んでは吐くということを繰り返し始めた。科学的効果は不明だが、体内に残る毒を出すのだという。
この試練を乗り越えた先輩たちが、「薬物をやめられなければ死ぬだけだ~」とみんなで歌って励ます。
荒療治終えたタイ人「体の中がきれいになった気がします。気分がよくなりました」
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彼らが使用していたのは、「狂気の薬」を意味する「ヤーバー」と呼ばれる覚醒剤。カフェインなどが混ぜられ、1錠およそ400円程度の低価格で売買されている。
去年1年間の押収量は5億錠にのぼり、若者を中心に中毒患者が増えている。
タイ麻薬統制委員会「すべての麻薬の中でヤーバーの状況が最も深刻だ」
蔓延の背景にあるのが、違法薬物の一大生産地とされる「ゴールデントライアングル」。タイ・ラオス・ミャンマーの国境をまたぐ地帯だ。
最近は、主にミャンマーで製造された覚醒剤が、国境のメコン川を渡り、秘密裏に運ばれてきているという。
周辺諸国が協力して取り締まりを強化。武装したタイ海軍の警備部隊も、日々、川沿いでパトロールをして、密売の動きがないか監視する。
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一方で、意外な薬物対策で成功をおさめた場所もある。
ゴールデントライアングルの一部にあたるタイ最北部・チェンライの山間部。一見普通の森だが、実はすべてコーヒーの木だという。ここは、タイ有数のコーヒー豆の産地。山岳部に暮らす少数民族が栽培を担っている。この森はかつては、麻薬の密造地帯だった。
少数民族の男性「この一帯はケシの花で埋め尽くされていたよ」
貧しい少数民族の多くは、長年にわたり、麻薬の原料であるケシの栽培や麻薬の密輸で生計をたてていた。
事態を重く見たタイ王室の財団が目をつけたのがコーヒー。およそ30年前、住民にコーヒー豆の栽培方法を教える活動を始めた。
山間部の涼しい気候が豆の生育に適していて、今ではケシ畑は一掃され、タイ有数のコーヒー豆の産地となった。
豆の生産から焙煎、販売までこの地域で行い、少数民族の女性たちにとっても重要な収入源となっている。かつての麻薬密造地帯を生まれ変わらせたコーヒー。
観光客「香りがよくて、ほんのり甘くて、気分が安らぐわ」
地域の発展にもつながったタイ国内の麻薬対策。今後は、海外から流入する違法薬物にどう立ち向かうかも求められる。