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行き場を失う移民 移民大国アメリカの行方

2020年1月1日 4:35

2020年のアメリカ大統領選で、国境・移民政策が重要争点のひとつになるのは間違いない。トランプ大統領は、2019年もメキシコとの国境沿いで取り締まりを強化し続けてきた。自らのウクライナ疑惑が注目されている間もだ。

2020年、トランプ大統領が再選に向けて不法移民対策の実績を声高に強調する姿が浮かぶが、国境沿いでは行き場を失った移民が漂流し、トランプ政権の政策は非人道的だとの批判が高まっている。

【国境に移民を寄せつけない“メキシコ待機政策”】
カリフォルニア州と接する国境の町、メキシコ・メヒカリ。去年10月、多くの移民が滞留している施設があるとの情報を得て、その場所へと向かった。

着いた場所にあったのは、一見、頑丈そうな2階建ての建物。中庭からは、それぞれの階に並ぶ部屋の扉を見渡すことができる。訪れたときは、中庭で多くの子供が遊んでいた。

ここは「移民の宿」と呼ばれる一時的な宿泊場所だ。元々は廃虚となっていたホテルで、今、民間の支援団体が運営してホンジュラスなど中米出身の移民らを受け入れている。給湯設備などは使えないものの、雨や風をしのぐ最低限の生活場所となっていた。

「冷蔵庫など足りない物はたくさんあるが、寄付でなんとかやりくりをしている」と語る運営責任者自身も、かつては移民だったという。

そんな施設に2019年、入居を希望する移民が急増した。その背景にあったのは、トランプ政権による「メキシコ待機政策」だ。

2018年、中米出身者らによる大規模移民集団「キャラバン」がアメリカ国境へと押し寄せた。これを受けてトランプ大統領は、入国して移住するための手続きをさらに厳しいものへと変更。それまで審査中の移民はアメリカ国内で待機することができたが、逃走のおそれがあるなどとしてメキシコ側に送り返して審査の順番待ちをさせるようにした。

シラキュース大学の調査によると、これまでに送り返された移民は5万6000人に上る。「不法移民はアメリカへの侵略者」だとするトランプ大統領としては、移民らの一時滞在をメキシコ側に押しつけた形だが、一方のメキシコ政府も受け入れ態勢は整えられていない。

そのため民間団体のシェルターや教会などが受け入れを担っているが、収容可能人数を超えているとの指摘もある。メヒカリの「移民の宿」には、取材で訪れた時点で約330人が滞在し、6畳ほどの部屋を5人ぐらいで使用していた。

ここで出会ったホンジュラス出身の女性は、約3か月前から7歳の娘と2人で滞在していた。犯罪集団のギャングによって母国の治安が悪化し、娘により良い教育を受けさせようとアメリカに入ったが、当局に審査日までメキシコで待つよう指示されたという。

女性は、当局から渡された審査の呼び出し状を大切に持っていた。「再び送り返されることになってもメキシコで待ち続ける」。娘の前では笑顔で振る舞うが、1人で応じたインタビューでは「母国にも戻れず不安」だと涙を浮かべた。

約1か月後、女性は審査を受けた。しかし入国は認められず、再びメキシコ側に送り返され「移民の宿」へと戻ってきた。

「移民の宿」の運営責任者は「滞在している移民の中には5回目の審査を待っている人もいる」と話す。送り返される移民の増加や滞在期間の長期化で物資不足が深刻になるなど、受け入れが限界に近いという。

この「メキシコ待機政策」は、単にメキシコ側で待たせるだけではなく審査自体も厳格化されている。先のホンジュラス出身の女性の場合、アメリカの当局側が求める迫害を受けた証拠を示すことができなかったとみられる。

さらに取材を通してわかったのは、そもそもアメリカの当局がどのような書類を求めているのか、移民らが把握できていないということだ。犯罪集団に命を狙われていると訴える移民らだが、シラキュース大学によると、送り返された約5万6000人のうち、これまでにアメリカで保護されたのはわずか100人あまりだという。

この政策に対し、カリフォルニア州の移民支援団体ボーダー・エンジェルの幹部は「移民らは命の危険から逃れてきたのに、再び厳しい環境へと追いやられている。安全に暮らす権利を奪う非人道的な政策だ」などと強く批判し、次の大統領選で大きな争点になると考えている。

【「壁をつくる」実現困難公約めぐり論戦必至】
トランプ大統領は再選に向けて、この「メキシコ待機政策」などを持ち出し、不法移民を寄せつけない安全な国境を実現しているとアピールする可能性がある。

ただ、国境・移民政策においては頭の痛い状況も抱え続けている。前回の選挙で看板公約にした「国境の壁」の建設が思うように進んでいないのだ。

3000キロあるメキシコとの国境沿いに不法移民や麻薬の密輸対策で壁を築くものだが、アメリカのメディアによると十分な建設予算がいまだに確保できておらず、建設できても一部分にとどまる見通しだという。

移民大国アメリカはどこへ向かうのか。2020年の大統領選で、移民の受け入れと「国境の壁」をめぐって激しい論戦が繰り広げられるのは必至だ。