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【旧ビッグモーター店舗前街路樹問題】伐採の背景に「点検」、結果悪いと降格や給料半分に 元店長の男が法廷で語った“組織風土”

2024年9月14日 8:00
【旧ビッグモーター店舗前街路樹問題】伐採の背景に「点検」、結果悪いと降格や給料半分に 元店長の男が法廷で語った“組織風土”

旧ビッグモーターの店舗前の街路樹が枯れたり、伐採されたりした問題。2023年に全国各地で次々と明らかになると、警察も捜査に乗り出す事態となった。

神奈川県でも川崎市の店舗前のツツジを伐採したとして、元店長の男A(33)と社員の男B(51)が器物損壊の疑いで起訴された。このうち、元店長の男の裁判が橫浜地裁で行われ、「罰金20万円」の有罪判決が言い渡された。

「やるしかない」――ツツジを伐採することに一度は戸惑った元店長の男にそう思わせた背景には、旧ビッグモーターにはびこる“組織風土”があった。(横浜支局・久保杏栞)

■点数化される月イチの「環境整備点検」

元店長の男Aの裁判は今年8月、横浜地裁で始まった。検察側の冒頭陳述によると、旧ビッグモーターには「環境整備点検」と名付けられた行事があり、この「環境整備点検」が発端となってツツジの伐採が行われたという。

「環境整備点検」は、店舗の運営に携わる「本部」に所属する社員が各店舗を訪れ、清掃が行き届いているかなどを評価する行事。頻度は月に1回。十数個の項目に沿ってチェックが行われ、150点満点で採点されるという。店舗の従業員たちはこの行事で指摘を受けるとすぐに改善を行い、社員全員が閲覧できる掲示板に写真を掲載し報告を行う仕組みだ。

しかし、この「環境整備点検」はただ単に店舗の状況を評価するためだけのものではなかった。点検の結果で、給料が減ったり、降格させられたりすることもあったという。店舗の従業員たちは、こうした事態になるのを避けるため、必死に掃除をするなどして月イチの「環境整備点検」に向けた対策をしていた。

■150点満点中“10点”―「木が邪魔だ。低い木は全部切った方がいい」

2022年9月某日、Aが店長を務める店舗でも「環境整備点検」が行われることになった。Aは休暇を取得していて不在。出勤していた従業員らで「環境整備点検」に対応することになった。

この日の点検の担当者は、社内でたった1人「環境整備点検推進委員」という職に就いていた本部社員のB。検察側の冒頭陳述によると、Bの点検は厳しく、低評価を受けやすいと従業員の間で有名だったという。Aも、Bの点検について、「ほかの人と比べると点数が取りづらい」「机が一直線になっていなければ点数が取れない」と法廷で証言している。

そのBはこの日、店舗に来て点検をはじめると、外の街路樹を指して従業員にこう伝えた。

「木が邪魔だ。低い木は全部切った方がいい」

この言葉を聞いた従業員は、Bの指摘をAに報告。点数は、150点満点中たったの10点だった。

その後の対応について、Aは法廷でこう証言している。

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弁護人:Bの指摘を受けて、あなたはどう対応をしたんですか?

A:木を切ってよいか、川崎市に問い合わせをしました。

弁護人:なんという回答だったんですか?

A:歩道に出ている部分の少しの剪定(せんてい)や背をそろえる程度はやっていいと言われました。木をすべて切っていいとは言われていないです。

(弁護人側の被告人質問より)
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Aが川崎市に問い合わせをした数日後、Bからあるメッセージが届いたという。

「歩道はこのイメージで!」――Bからのメッセ―ジには、木が少しも生えていない写真が添えられていた。Aは「市に確認し、できる限りやります!」と返した。市に確認したところで、伐採を許可してもらえるはずがないと思っていた。それを理由にうまくやりすごそうと思っていたと法廷で語っている。

しかし、Bから返ってきたのは思わぬ指示だった。「『市に確認』とかではなく、自分で動いてください」。

■横行する「減給」「降格」、ツツジの伐採を決意させた“組織風土”

「『市に確認』とかではなく、自分で動いてください」――Bからこう発破を掛けられたAは「やるしかない」と店の前のツツジを伐採することを決意した。その背景には、Bの指示を簡単に断れない“組織風土”があった。

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弁護人:Bの指示を拒むことは考えなかったのですか?

A:「環境整備点検」の点数で降格があって、それが怖くて断れなかったです。当時、「環境整備点検」の点数の善しあしで降格がやられていて、自分も点数が悪くて降格したことがありました。給料も半分くらいになりました。

(弁護人側の被告人質問より)
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「出入口見やすくなるよう写真部分なくします」――Aはツツジの写真と一緒にこうBに返事をすると、部下の従業員にのこぎりを買ってツツジを切断するように指示した。

「街路樹が店に悪い印象を与えるとは思わない」「とにかくBの指示に従った方がよいと思った」――裁判官から街路樹を伐採する意味について問われたAはこう答えた。“組織風土”は、Aにものごとの意味や善悪を考える力を失わせ、とにかく指示に従わなければならないという思考にAを陥らせていたのかもしれない。

切断が発覚することになったのは、それから半年以上が経った2023年夏。全国各地のビッグモーター店舗前で、街路樹をめぐる問題が明るみになりはじめると、川崎市も店の前の現地調査を実施。切断されていたことがわかり、市は神奈川県警に被害届けを提出した。

■元店長に言い渡された有罪判決

橫浜地裁が元店長Aに下した判決は、求刑通り「罰金20万円」の有罪判決だった。

検察側は、ツツジを根元からのこぎりで切断する行為は「大胆かつ粗暴で悪質」だと指摘。Bからの指示があったとはいえ、切断することが違法だとは十分にわかっていたはずなのに、降格などをおそれ、自己保身のために部下の授業員を巻き込んで犯行に及んだとして罰金20万円を求刑した。

一方で、弁護側は、Bの再三の指示による犯行で「偶発的で従属的」だと主張。人事上の評価や処遇に大きく反映されると考え、Bに逆らえなかったAの状況を考慮して、罰金10万円が相当だとした。

橫浜地裁は、公共の財産であるツツジを伐採したことについて、「大胆かつ反規範的」と指摘。降格などの処分をおそれてBの指示に従ったのは「自己保身的で身勝手」と厳しく批判した。Bに対して従属的ではあるが、結果的に部下に指示をして切断させていて、一連の犯行において不可欠で重要な役割を果たしていると結論づけた。

■「私と同じように罪を認めてほしい」

Aは法廷で罪を認めると、何度も反省のことばを発した。それは世間に向けられたものだけではなく、従業員に向けられたものもあった。

一方で、指示をされたBに対する思いを聞かれると、やや語気を強めてこう述べた。

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「私と同じように罪を認めてほしいです」「Bの指示がなかったら、絶対にやっていなかったです」

(弁護人側の証人尋問より)
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Aに街路樹を取り除くよう指示したとされる本部社員Bの裁判は、まだ始まっていない。捜査関係者によると、警察の捜査段階では一貫して容疑を否認していたというB。

検察側の冒頭陳述のように、BがAに街路樹を取り除くよう指示していたのであれば、Bはいったいなぜそのような指示をしたのか?今後行われるであろうBの裁判にも注目したい。