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米大統領選「トランプを続けるのか、否か」

2020年1月2日 5:53

海図なき暗闇の航海を続けている。

2020年、世界の羅針盤はどちらを指すのか。「トランプを続けるのか、否か」、世界の“最高権力者”を選ぶアメリカ大統領選挙は、今後の世界の針路を決定づける一大イベントとなる。

<撤退するアメリカ>
2019年暮れ、“事件”は起きた。国際会議の舞台裏で、カナダのトルドー首相やフランスのマクロン大統領、イギリスのジョンソン首相らが、トランプ大統領の陰口で盛り上がる様子をカメラが捉えたのだ。

これは“傍若無人”にふるまうトランプ大統領に誰も直言できない、いまの世界のリーダーたちの関係性を如実に示している。同盟は壊れかけているのだ。

戦後、築き上げてきた「多国間の協調主義」か、それとも「一国主義」か。

トランプ大統領は、意気揚々と「世界からの撤退」を決め込む。いま彼の眼中には、「大統領選挙での再選」しかない。

2020年は一層“内向き”に拍車がかかる年になろう。

<トランプか、否か>
大統領選挙の構図は混沌(こんとん)としている。「誰ならトランプに勝てるのか」。唯一にして最大のポイントをめぐり、野党・民主党の候補者レースは、刻々と戦況が変化する。

本命視されたジョー・バイデン前副大統領は、トランプ大統領のウクライナ疑惑の「登場人物」として、防戦を強いられている。

国民皆保険や大学無償化を掲げるエリザベス・ウォーレン氏、バーニー・サンダース氏には、“急進左派”とのレッテルが貼られているが、一定の支持を保っている。「民主党の異端が主流になりつつある」証左にもみえる。

仮に、そうした急進左派が大統領に就任した場合、世界、そして日本は“トランプショック”に近い衝撃に襲われるであろう。

30代の若さで新鮮さをアピールするピート・ブティジェッジ氏も、ベクトルは上向いているものの、抜け出す勢いはまだ見られない。

これら“トップ4”に飽き足らないのか、「ライジングスター」=彗星(すいせい)の登場を望む向きもあるが、時すでに遅し、との声が大勢だ。

対する共和党の候補は、現職・トランプ大統領以外に、見当たらない。「史上3人目の弾劾訴追された大統領」としての不名誉も「でっち上げだ」と言い放ち、再選に向け、我が道を行く。

<弾劾でトランプ有利!?>
1月に議会上院で開かれる弾劾裁判。有罪判決が出て、大統領が罷免される公算は極めて小さいものの、大統領選にどのような影響を与えるのか、2020年前半の大きな分岐点となるだろう。

かつて1999年のクリントン大統領(当時)の弾劾裁判では、支持率は下がるどころか70%台まで上昇。支持者の結束を強める効果をもたらした前例もある。

在ワシントンの専門家は、「トランプ支持層は弾劾訴追にほとんど関心がない」と口をそろえる。

トランプ大統領の支持率は、この3年間で「安定した低空飛行」、支持率40%前後で推移する。白人の労働者階級を中心とする「岩盤支持層」は、弾劾訴追が決まって以降も揺らぐ気配がない。

その白人労働者が多く暮らす「ラストベルト」、さびついた工業地帯。中西部から東部に広がるこの地では「理念」よりもまず「明日の暮らし」が優先される。

「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(米国を再び偉大な国に!)」のスローガンに酔いしれた人々は、4年前の約束がどれほど果たされたのか、審判を下すことになる。

ラストベルトは、今回も「激戦州」として勝敗を分けるであろう。注目は、ペンシルベニア・ミシガン・ウィスコンシンの3州。中でもペンシルベニア州は、民主党の有力候補、バイデン氏の生まれ故郷でもある。

これら3州のうち一つでも落とすようなら、トランプ大統領再選には、黄信号がともる。

<サプライズ外交は?>
大統領選挙が進行するウラで、トランプ大統領が虎視眈々(たんたん)と狙うのが、「外交成果」だ。

中国との貿易協議は、第一段階の合意にこぎつけ、次のステップをうかがう。

北朝鮮とは、お互いを「ロケットマン」、「老いぼれ」と嘲笑的に呼び合う両首脳の直接会談でしか、打開策は見いだせない。トップ会談が実現してもパフォーマンスに終わるようなら非核化の道はなお遠い。

撤退方針を貫く中東では、イランとの緊張関係がくすぶる。選挙を控えた2020年は、「ユダヤ票」やキリスト教福音派の支持を狙い、“親イスラエル”姿勢をさらに強めるだろう。中東和平の仲介役は“放棄”したままだ。

在ワシントンで外交・安全保障に詳しいカーネギー国際平和財団のジェームズ・ショフ上席研究員は、「トランプ大統領の“レガシー(遺産)”は、多国間の枠組みやアメリカの国際的信用を壊したことだけ」と皮肉る。その手法を「交渉ではなく“脅し”」と評した。

好調な経済以外、成果の乏しいトランプ大統領にとって、外交での「ビッグディール」は11月の大統領選前に喉から手が出るほど欲しい成果。ただ期限を切った交渉では、「したたかな外交」を繰り広げる国々に足元をみられる。大統領選挙と外交の二正面で、「ディールメーカー」としての真価が問われることになろう。

<トランプ再選で安倍首相は?>
こうした内向きなトランプ大統領を前に、最後に触れておかなければならないのが、安倍首相の存在だ。冒頭触れた「陰口しか言えない世界の首脳たち」を差し置き、唯一、個人的にも良好な関係を保っている。

仮にトランプ大統領の再選が決まった場合、安倍首相の4選を求める声が一段高まる可能性もある。

アメリカ大統領選挙の結果は、日本国内の政局にも一定のインパクトを与えるであろう。

一方、2020年、日米最大の懸案は、在日米軍駐留経費「思いやり予算」の改定交渉だ。トランプ大統領は、「日本は金持ちなのだから」と負担増を公然と要求している。「シンゾー・ドナルド」の“蜜月関係”が試される場面もあろう。

“トランプリスク”におびえる日本、そして世界が「トランプを続けるのか、否か」の審判を静かにじっと見つめている。


ワシントン支局長 矢岡亮一郎