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【解説】なぜ米中が対立?鍵を握るWHO

2020年5月19日 21:25
【解説】なぜ米中が対立?鍵を握るWHO

18日夜、WHO=世界保健機関の年次総会が開幕しました。

各国の連携が問われる中、WHOの予算の約15%を負担するアメリカのトランプ大統領は、WHOからの脱退も辞さない考えを示しました。

背景にあるとみられるのは、WHOと中国への不信感です。

■トランプ大統領の手紙

WHOの脱退も辞さないと言い始めたトランプ大統領が、ツイッターで手紙を公開しました。宛先は、WHOのテドロス事務局長です。

『1月には習近平国家主席が、あなたに対して緊急事態の宣言をしないよう圧力をかけたとされる』

『あなたとWHOによる度重なる失敗が、世界に極めて大きな代償を払わせたことは明確』

『WHOが前進できる唯一の方法は、中国から独立した姿を示すこと』

『今後30日以内に改善に取り組まなければ、資金拠出を恒久的に凍結し、WHOの加盟を再検討する』

つまり、30日以内に改革しないと資金も払わないし、脱退を検討するとしています。アメリカはWHO最大の資金拠出国ですが、トランプ大統領は、これを無しにするかもしれないと言っています。本当になれば大変なことです。

■新型コロナ発生後、初の総会

この手紙は、年に一度のWHOの年次総会のさなかに公開されました。

WHOの年次総会は、日本時間の18日夜からオンライン会議方式で始まりました。190以上の国と地域が参加し、日本からは加藤厚生労働大臣がスピーチ。今回は、新型コロナウイルス発生後、初の総会です。

世界で480万人が感染し、31万人以上が死亡する事態になったいま、各国がどれだけ連携できるかが注目されましたが、ふたを開けてみるとアメリカと中国の対立が浮き彫りになりました。

アメリカを代表して出席したアザール厚生長官は、WHOについて『世界が必要とした情報を得ることに失敗し、多くの命が奪われた』とその責任を言及。また『少なくとも一つの加盟国が、透明性の義務を怠り、世界にとてつもない代償を払わせた」と批判しました。

念頭にあるのは中国です。アザール長官は、中国が新型コロナウイルスの発生を隠そうとした、と主張しています。

一方、中国の習近平国家主席は『中国は一貫して、透明で責任ある態度で、直ちにWHOと関連国に疫病情報を通報した』として、情報公開を徹底してきたと強調しました。

米中の溝が浮き彫りになったかたちです。

■トランプ大統領が批判するWHOの対応

対立はこれだけではありません。

これまでテドロス事務局長は『新型コロナウイルスの流行を食い止めるための、中国の並々ならぬ対応は称賛に値する』などと、中国寄りととられる発言を繰り返してきました。

こうした姿勢を批判してきたトランプ大統領は、WHOについて『中国中心主義』『中国の「操り人形」』と痛烈に批判しました。

トランプ大統領が怒っている背景には、これまでのWHOの対応もあります。

1月23日、中国本土の感染者は約600人、アメリカや日本でも少しずつ感染者が出ていた頃、WHOは世界的な緊急事態の宣言を見送りました。この1週間後、さらに感染者が増えたため、緊急事態を宣言しましたが、ここでも中国への渡航制限の勧告は見送られました。

アメリカが中国全土からの入国禁止を決めると、テドロス事務局長は『国際間の渡航や貿易を必要以上に制限する根拠はない』と否定的な見解を示しました。そして、3月11日に「パンデミック表明」。

『もっと早い時点で渡航制限をしていれば状況が違った』という指摘もあり、対応の遅さなどから、テドロス事務局長の辞任を求める声は増えています。テドロス事務局長の辞任を求めるインターネット上の運動には、世界から約102万人の賛同者の署名が集まっています。

さらに、日本やEUからも、新型コロナウイルスを巡るWHOの対応を検証するよう求められ、テドロス事務局長は受け入れることを表明しました。

■“中国寄り”?テドロス事務局長

テドロス事務局長はアフリカのエチオピア出身で、母国で保健相や外相を務めていました。

なぜ中国寄りと言われるのか、当時交流があった方によると・・・

元駐エチオピア 日本国特命全権大使 岸野博之さん「表だって中国を非難する政治家は、アフリカにはいないと思います。というのも経済的に関係が非常に深いですから、どういうしっぺ返しを食らうかということをみんな理解しています」

岸野さんご自身は『テドロス事務局長が“中国寄り”だと感じたことは一切ない』と述べていますが、アフリカには中国の巨額の資本が入っていることもあり、中国批判をしづらい状況にはあります。

“中国寄り”と指摘される点は、他にもあります。台湾が、今回の総会に不参加となったことです。

台湾はコロナ対策の優等生で、発生後、マスクの増産に踏み切り、ITを活用して、マスクを行き渡らせました。SARSの教訓をいかして、独自の対策を展開しました。こうした台湾の成功例も、世界で共有したいところです。

そもそも台湾はWHOに非加盟でしたが、2009年から2016年はオブザーバーとして参加。しかし、いまの蔡政権になり、中国と台湾の関係が悪化すると、中国の意向で17年から参加が認められなくなりました。

今回、台湾の参加をアメリカや日本も支持しましたが、『台湾は中国の一部』だと主張する中国は、断固反対の姿勢でした。

今回、不参加となった台湾政府は18日、『WHOは中国の圧力に屈服した』と批判しました。

こうなると、WHOはどこを向いているのか、“中国寄り”とみられても仕方がありません。

こうした状況では各国が結束できるか疑問です。WHOは世界の感染症対応の要であるにも関わらず、世界がコロナの深刻な危機に直面しているさなかでも、政治が影を落としています。

2020年5月19日放送 news every.『ナゼナニっ?』より