「決定的な大勝利」習近平政権“ゼロコロナ政策”称賛も…深刻な経済への影響 工場閉鎖相次ぎ労働者は… 中国
中国で5日、全人代(=全国人民代表大会)が開幕し、習近平政権は3年に及んだゼロコロナ政策を「決定的な大勝利」だと強調しました。しかし、ロックダウンも辞さない厳しい感染対策の代償は大きく、中国社会にさまざまな傷痕を残しています。
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先月、日本テレビは中国西部・新疆ウイグル自治区に向かいました。
飛行機から降り立つと、出口で男性が待ち構えていました。さらに、荷物受け取り場にも男性がいました。
記者
「早速、尾行がつきましたね」
地元の公安当局の関係者とみられる複数の人物が、取材を警戒してか執拗(しつよう)にあとをつけてきました。
過去には人権問題をめぐって爆弾テロ事件も起きた新疆ウイグル自治区ウルムチでは、至る所に警察の車両が配置されていました。
市内を移動すると、街の中心部にたつ高層マンションが見えてきました。去年11月、少なくとも10人が死亡する火災が発生した場所です。
当時、マンション周辺は、新型コロナ対策のため厳重に封鎖。その結果、消防車が近づけず放水も届かない状況でした。SNSでは、“厳しいゼロコロナ政策が被害を拡大させた”との批判が噴出したのです。
これが発端となり、抗議デモが中国全土に拡大するなど異例の事態となりました。
ゼロコロナ政策批判の象徴となったマンションの周囲には、多くの警察車両が配備されていました。離れた場所からそのマンションを見ると、外壁や窓枠には真新しい塗装がされていますが、出火した部屋の真上には黒く焼け焦げたような跡がありました。
この火災で親族4人が犠牲になったというマイマイティミンさんは「(建物の外は)火災から1か月未満で直したようです。(当局が)自分たちの“罪”を隠すためでしょう」と話しました。
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習近平政権はゼロコロナ政策に突然、終止符を打ち「大勝利を収めた」と胸を張っています。ただ、3年に及ぶゼロコロナ政策により、多くの店舗が廃業に追い込まれるなど経済への影響は深刻なものになっています。
影響を受けた場所の1つ、中国南部の広東省広州にある繊維産業が盛んな地域に向かいました。朝早くから、通りを埋め尽くすように多くの人々が集まっていました。路上にあふれていたのは、衣類工場の経営者と日雇い労働者たちです。経営者は製品の見本を見せながら、必要な技術をもつ人を雇います。
しかし、日雇い労働者は「なかなか仕事が見つからない。(求職者が)多いので」と話します。
ゼロコロナ政策の間に失業した人々が職を求めて殺到。一方の会社側も長引く不況に苦しむ中、労働者とは条件でなかなか折り合わないといいます。
実はこの町も去年、長期間のロックダウンで深刻な打撃を受けました。ロックダウンに労働者たちが激しく抗議し、ゼロコロナ政策に対する抗議デモの先駆けにもなりました。
江西省出身で、出稼ぎに来ている王さん(35)に出会いました。
王さん(35)
「1枚で報酬いくら?」
経営者
「5元(約100円)」
朝から街を歩き回っていますが、条件に合う仕事がなかなか見つかりません。
王さん(35)
「ダメだね。今は給料が安すぎるよ」
結局、午後になり、ズボン用のポケットを作る仕事を見つけることができました。王さんはこのまま夜まで働き、翌朝には再び仕事を探し回ります。
王さん(35)
「1日15時間働いて200元(約4000円)しかもらえないなんて、やってられないよ」
新型コロナ不況が長引く中、製造業が集まる広東省では今も工場の閉鎖が相次ぎ、せっかく手にした仕事も突然失ってしまう労働者があとを絶ちません。
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中国各地に残るゼロコロナ政策の傷痕。経済再生が急務となる習近平政権に重い課題がのしかかっています。