×

【支援の“格差”】ウクライナへの支援が集まる一方で多くの難民は過酷な環境に… 人道支援の実態とは?

2023年9月18日 19:43
【支援の“格差”】ウクライナへの支援が集まる一方で多くの難民は過酷な環境に… 人道支援の実態とは?
ウクライナから避難する人びと

ロシアの侵攻によりウクライナ避難民には各国から支援が集まっている。一方で、同じように紛争から逃れてきたのにも関わらず、数多くの人たちが中々支援が受けられないでいる。大阪大学大学院国際公共政策研究科教授・GNV編集長のヴァージル・ホーキンス教授に人道支援の課題を聞いた。

<<以下、ホーキンス教授インタビュー全文>>

――紛争は世界各地で起きているのに、ウクライナとそれ以外の地域で支援に大きな差があるのはなぜか。

人道支援は、人道と呼ばれてはいるものの、人命を中心に決められるものでもない。国が支援を出すということ自体が、善意でやってるというのではなく、やはり戦略的、政治的なもの、もしくは、自国のあるいは自分の政権のイメージアップを図るためのものである場合が多い。

ウクライナはわりとわかりやすい。ロシア=ウクライナ戦争がヨーロッパで起きてるわけで。世界において影響力の大きい西側諸国たちの関心が非常に強い。さらに、冷戦の時から敵視してきたロシアという強敵があるので、“とにかくロシアを止めないといけない”というような政治的な利益は、西ヨーロッパにもアメリカにもある。つまり、これらの国の利益に非常に大きく一致している。日本ももちろんその中に入る。

一方、“世界最悪の人道危機”といわれるイエメンは、実は政治的利益が絡んでいるが、逆のパターン、つまり注目したくないパターンだ。サウジアラビアがイエメンに攻撃を仕掛け、イエメン全国を囲んで、人道危機を引き起こしているが、アメリカも日本もサウジアラビアを支援する側に立っている。つまり、侵攻する側、人道危機を引き起こしている側、攻撃を仕掛けている側を支援しているので、目をつぶった方が得ということだ。

アフリカになると、逆にその戦略的な政治的な関心が低くなってしまう。政権をどうしても守らなくてはいけないなどのような側面があまりないので、戦略的な価値が低く見られる。

――紛争の被害国の状況と世界の支援状況には、どれほどギャップがあるのか。

アメリカがウクライナに出している支援だけで見ても、全世界のすべての国がほかのすべての国に国連を通して出している人道支援の額を上回っている。

ウクライナで苦しんでる人は当然たくさんいて、人道支援が必要なのは間違いないが、そこでたくさんの人が飢え死にしているわけではない。一方で、イエメン、南スーダン、コンゴ民主共和国、マリでは、多くの人々が飢え死にしている。

人道的なニーズが全く違うにも関わらず、お金が集まっていない。今の世界の支援の状況と、紛争による被害の状況、その人道的なニーズは、どう見てもバランスがおかしい。

さらにいえば、国連が人道支援を集める際に、これぐらいのお金が必要だ、というニーズを発表するが、これも実は実態とはズレている。つまり、ニーズそのものではなくて、どれぐらいが集まりそうか、ということを考慮して設定することがある。

例えば、約20年前にアメリカがイラクに侵攻した際、アフリカの紛争の人道的なニーズの方が大きかったのにも関わらず、イラクに対する国連が出す人道的なニーズの金額の方が圧倒的に多かった。それはアメリカが国としてのイメージ回復のために資金をたくさん出すだろうと想定されたからだ。

今回もウクライナは大きく注目されていて、多額の支援金を出す国が複数あるなかで、ニーズは高く設定されている。しかし、逆にコンゴ民主共和国に対しては、どう頑張っても十分には集まらないと分かっているため、ニーズ自体も低く設定されているのが現状だ。

――メディアが注目していないけれど、規模でみると大きな人道危機が起こっている地域は、どのような理由で注目されないのか。

コンゴ民主共和国、南スーダン、イエメンなどメディアが注目していない地域というのも、国からの視点で考えると、やはり政治的、あるいは戦略的な価値が低いとみられるようなところだ。

国民側の視点から考えると、その被害者たちにどれほど共感ができるのか、というところだ。この共感できる要因については様々な側面があるが、ひとつの側面は、やはりその生活水準だ。

ウクライナにいる人たちが自分とちょっと似たような暮らしをしていそうだ、車に乗っている、アパートなどに住んでいる、といった考えだ。一方、南スーダンの農村部に暮らす人たちの生活には、あまり共感ができない、という側面がある。

また、日本のメディアはアメリカのメディアにも影響を受けているので、アメリカが重要視していることを日本も重要視する傾向がある。色々な要素が複雑に絡み合っている。

現在、ウクライナ以外のほかの国からも多くの難民が出ている。今年、紛争が起きたスーダンにおいても、日本人が飛行機に乗って去ってから報道はほとんど消えたが、紛争は当然終わっておらず、むしろ大きくなっている状態だ。今年だけで、現時点で約480万人の難民と避難民が出ていると言われている。

メディアと人道支援は密接に関わっている。つまり、メディアの注目が集まっているところにも支援が集まり、注目されてないところには多くの支援は集まらない。
卵と鶏の話ではあるが、メディアがどこに注目するかが、多くの人命に関わっている。

    • 日テレNEWS NNN
    • 国際
    • 【支援の“格差”】ウクライナへの支援が集まる一方で多くの難民は過酷な環境に… 人道支援の実態とは?