【解説】ウクライナへの支援が集まる中…その陰では多くの難民は過酷な環境に置かれていた
ロシアの侵攻によりウクライナには各国から支援が集まっている。一方で、同じように紛争から逃れてきたのにも関わらず、数多くの人たちが中々支援が受けられないでいる。人道支援の課題とは。<国際部・内山瑞貴>
ロシアの侵攻によりウクライナでは多くの人々が住む場所を離れることを余儀なくされた。国連難民高等弁務官事務所=UNHCR の推計によると2023年8月時点でウクライナ国外に避難した人は620万人を超え、欧米各国を中心に世界中から支援が集まっている。一方で、同じような境遇であっても中々支援が受けられない人たちも多くいるのが現実だ。
UNHCR によると2022年末時点で世界の難民は約3530万人いる。(※UNHCRの定義では「紛争などが原因で国外に避難し、難民申請が受け入れられた人」とされる)
難民(※その他の国際保護を必要としている人も含む)の出身国上位3カ国はシリア、ウクライナ、アフガニスタンだ。
一方で、受け入れている国の上位3カ国はトルコ、イラン、コロンビアとなっている。受け入れトップのトルコはシリアと国境を接していて、2位のイランもアフガニスタンの隣だ。実際、多くの難民は避難する移動手段やそれにかけられるお金も限られているため、彼らの約7割は近隣国に避難している。
ほとんどの難民は欧米諸国にまで到達できず、周辺にある中低所得の国にとどまっているのが現状だ。そのため、支援の体制が十分でないといったことも頻繁に起こっている。
難民への支援は国連など国際機関が主な役割を担うことが多いが、その国連のデータを見ると2022年、ウクライナには国連諸機関が必要としている資金の80%以上が集まっている。
一方で、現在も紛争が続いていて、多くの難民が発生しているアフリカの中央部に位置する、コンゴ民主共和国は2018年以降の支援額を見ると、必要とされている額の4割から5割しか集まっていない。また、2021年に軍のクーデターが起きたミャンマーも4割程度だ。
なぜこうした違いが起きるのか。
その理由について大阪大学大学院国際公共政策研究科ヴァージル・ホーキンス教授に話を聞いた。
ヴァージル・ホーキンス教授(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授・GNV編集長)
「人道支援はその人命を中心に決められるものではなく、戦略的なものであって、政治的なものでもある。アフリカになると、逆にその戦略的な政治的な関心が低くなってしまう。政治的な利益が見込めないから支援が集まらないので、支援が集まらないから、たくさんの人が亡くなる」
どの難民をどの程度支援するかについては、受け入れる国の政治的判断による面もあり、結果的に国際社会の関心が低い地域の難民に対しては支援が集まりにくいというのが現実だ。
一方、同じウクライナから逃げてきた人たちでも人種や国籍を原因として、不当な扱いを受けたとするケースも報じられている。
ウクライナの大学に通う留学生は「(ポーランドに避難するための)列車から降りるように言われた。理由を尋ねると列車はウクライナ人用だからと言われた」
「(国境を越えるのも)白人だけが許可されている。自分たちの移動が許されるまで3日間も抗議しなければいけなかった」とアメリカメディアに証言している。
BBCによると、ロシアの侵攻前ウクライナの大学には多くの外国人学生が在籍していて、アフリカやインドからそれぞれ約2万人がいたとされている。
しかし、CNNなど複数のアメリカメディアが伝えた内容によると彼らは避難するためのバスや電車に、満席でないにも関わらず乗せてもらえなかったり、ウクライナ人のためのスペースを確保するためバスから降りるよう命じられたりしたという。
また国境を超えるための手続きを後回しにされたりウクライナ側の国境にいる警備員から暴行を受けたと報じられている。
こうした事態を受け、アフリカ連合は「衝撃的な人種差別であり、国際法に違反するだろう」との声明を発表した。
ところで、日本も積極的にウクライナ避難民を受け入れている。
一橋大学大学院社会学研究科橋本直子准教授によると、即時に短期滞在ビザを発給・来日後は就労可能な在留資格に切り替え・ウクライナ人「限定」の就職先公営住宅のあっせん・生活費補助、日本語教育、カウンセリングなど官民からの支援が手厚い。
しかし、他の国から避難してきた場合、必ずしもこうした支援が受けられるわけではない。
例えば、タリバンの迫害から逃れるために多くのアフガニスタン人が国から出たが、彼らが日本のビザを得る場合、長年日本の現地組織で働いていた職員だとしても、以下のことが要求される。
・日本人か永住者の身元保証人
・滞在中の生活費の支払い能力の証明
・日本での就職先が決まっている
アフガニスタンから避難を希望する人たちも命の危険にさらされているという意味では、ウクライナから避難する人と同じなのだが、政府の対応は大きく違っている。
トルコで迫害され日本に避難したものの、就労資格が得られず生活が苦しいというクルド人の女性を取材した際にも、「日本政府の対応が全然違う、同じ人間なのになんで」と戸惑っていた。
WHOのテドロス事務局長はウクライナ侵攻後の2022年4月、世界は緊急事態に際して人種を平等に扱っていないと指摘した。
アフリカや中東などにももっと目を向けてくれという思いだったのだろう。国際社会から注目されにくい地域にも命の危機にさらされている膨大な数の難民がいるという事実に改めて目を向けなければならないのではないだろうか。