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開会式演出解任で激震の中…ジル夫人が来日

2021年7月22日 16:14

ファーストレディー、ジル・バイデン大統領夫人が五輪開会式を翌日に控えた東京に降り立った。直前には、演出担当者がかつてユダヤ人大量虐殺をコントの題材にしていたことが判明し、即時解任されるなど、激震に見舞われる中での来日。4回目の緊急事態宣言が出され、感染が急拡大する中、菅首相夫妻との夕食会、天皇陛下との面会も予定されている。日本政府は当初、バイデン大統領の来日を模索するも、大統領サイドは「ジル夫人派遣」を打診。感染急拡大の中、「妻を代理に」送り込むバイデン大統領の思惑は。ファーストレディー訪日に至る舞台裏を探った。

■“ユダヤ人大量虐殺”揶揄で演出解任…コロナ急拡大も

22日午後、東京の在日米軍横田基地。米政府専用機から、真っ赤なワンピースに身を包んだジル夫人が笑顔で手を振りながら降り立った。しかし、この直前、東京大会の開会式の演出担当者がかつてユダヤ人大量虐殺をコントの題材にしていたことが発覚。アメリカにあるユダヤ人人権団体が非難声明を出し、演出担当者が即刻解任されるなど、大激震に見舞われる中での来日となった。

開会式が10日後に迫った今月13日。日本政府関係者は、ホワイトハウスの発表に胸をなでおろした。「ジル・バイデン大統領夫人が23日の開会式に出席する」。わずか数行の発表文。当初想定した発表スケジュールからは大幅に遅れたという。東京都に4回目の緊急事態宣言が出る中、ホワイトハウスは先遣隊を送るなどして、受け入れ態勢や感染状況を慎重に確認、派遣を最終決断した。

■バイデン氏招待見送り…「ジル夫人案」は米側が打診

「ジル夫人ほどバイデン大統領に近い存在はいない」「ある意味ハリス副大統領より格上だ」日本政府関係者は、ジル夫人の派遣を手放しで喜んだ。

日本側は当初、バイデン大統領を五輪開会式に招待する構想を描いた。菅首相自身も今年3月に国会で招待の意向を表明。しかし、バイデン氏自身に出席する考えはなく、早々に断念。政府内には将来の大統領の呼び声も高いハリス副大統領の来日を期待する声もあったが、アメリカ側が打診してきたのは「ジル夫人の派遣」だった。日本政府は大統領に“最も近い”ジル夫人の派遣を「強固な日米同盟の表れ」と受け止め、歓迎した。ある政府関係者は「感染リスクがある中で、自分の代わりに奥さんを送るなんて、よほどの思い入れだ」と顔をほころばせた。

■米政府関係者「政治的な話は一切ナシ」“初の主役”外交デビュー

一方、米政府関係者は、ジル夫人の派遣について「開会式に笑顔で出て、安全に戻ってくればそれで仕事は終わり」「今回は政治的話は一切ナシだ」と語る。ホワイトハウスが閣僚ではなく、夫人を派遣する思惑を「単なる象徴だ」と解説した。

ジル夫人にとって今回の東京五輪開会式は、実質的な「外交デビュー」となる。先月の英国でのG7サミットにはファーストレディーとして同行したものの、今回のような単身での「主役」は初めて。日米外交筋は「アメリカ国内でもかなりの注目を集めることになる。ホワイトハウスもジル夫人の振る舞いによほど自信があるのだろう」と推し量った。

ファッション誌、ヴォーグ8月号。表紙を飾るのは、人気ブランド、「オスカー・デ・ラ・レンタ」のワンピースに身を包んだジル夫人だ。紺に鮮やかな花柄があしらわれたデザインは、夫が大統領選挙で勝利宣言をした際にも着た「勝負服」でもある。

■「LOVE」ファッション通じてメッセージ発信

ジル夫人のファッションは、G7サミットでも反響を呼んだ。背中に「LOVE」と書かれたジャケット。ジル夫人自身が「愛をアメリカから持ってきたわ。パンデミックの今こそ世界が団結する時」と現地で訴えるなど、ファッションを通じたメッセージ発信にも注目が集まっている。

■バイデン氏モデル写真で一目惚れ…プロポーズ5回目で

ジル夫人とはどういう人物なのか。回顧録「Where the Light Enters」には、大切にしてきた「愛」や「家族」への想いが詰まっている。1951年、東部ニュージャージー州の銀行員の家庭に生まれ、隣のペンシルベニア州で育った。回顧録によれば、常に家族で夕食をともにする習慣が、家族への「献身的な愛情」を育んだと振り返っている。大学時代に務めたモデルの広告写真を見て、当時上院議員だったバイデン氏が一目惚れしたというエピソードも。「どこでこの電話番号を知ったのですか」ジル夫人はバイデン氏との最初の電話のやりとりも回顧録に記している。「今夜出かけられないか」初めての電話でそのままデートの誘いを受け、その後も猛烈なアプローチが続いた。5回目のプロポーズで結婚を決めたというジル夫人。バイデン氏は、前妻と娘を交通事故で亡くしており、残された2人の息子と、結婚後に生まれた娘の子供3人を育てあげた。この経験についても回顧録に「生物学的に異なる子供がいても関係ない」「愛によって家族はまとまる」と記している。

■現役英語教師の顔も…同僚語る「真のプロフェッショナル」

教育学の博士号を持ち「ドクター」と呼ばれるジル夫人。夫が大統領に就任した後も、ワシントン近郊のコミュニティカレッジ(短大に相当)で英語教師を務めている。同僚のジミー・マクレラン氏は、副大統領夫人だった当時のエピソードをこう語る。「彼女はセカンドレディーであることを言わず、ほとんどの生徒は知らなかった。バイデン氏の副大統領就任当日も授業を行い、生徒は翌日、テレビでよく似た人を見かけたと訝しんでいた」「南米4か国への外遊同行の出発直前まで学校で仕事をし、採点中の答案用紙を抱えて専用機に乗り込んだ。帰国したら採点はすべて終わっていた」と。「真のプロフェッショナル」だとその人柄を語った。

■北京五輪との「差別化」の見方も…バイデン政権の対中思惑は?

「政治的な話はナシ」とされるジル夫人の訪日だが「訪問そのものが政治的メッセージ」との見方も出ている。米シンクタンク・AEIのザック・クーパー氏は「北京冬季五輪との差別化にもつながる」と指摘する。いま米国内では、来年2月に行われる北京五輪に政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」を求める声が挙がっている。クーパー氏は「今回のジル夫人派遣は、来年の北京五輪に誰も行かなかった時、大いに比較されることになるだろう」と分析した。
(ワシントン支局長・矢岡亮一郎)

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