【詳細分析】日テレ政治部が100人アンケート「石破政権いつまで続く?」…参院選まで継続が最多。野党も継続を望むワケとは?
「少数与党」で厳しい政権運営が続く石破首相。臨時国会では野党の協力を得て、補正予算や政治資金規正法の再改正はなんとか成立までこぎつけた。しかし決戦の「本番」は来年の通常国会で、その展開は見通せない。不安定な政治状況から、与野党双方から「政権は一体いつまで続くのか?」という声も聞こえる。
そこで、日本テレビ政治部では与野党の国会議員や官僚の計100人に「緊急アンケート」取材を実施。ずばり「石破政権はいつまで続くと思うか?」を聞いた。最も多かった回答は「参議院選挙まで石破首相は代わらない」との声。取材で見えてきた議員の本音、思惑を詳細分析する。
質問は「石破政権はいつまで続くと思うか?」。選択肢は以下の3つ。
(1)来年春で退陣
(2)6月末で退陣
(3)参院選まで代わらない
主に首相が退陣する可能性があると答えた人には「ポスト石破は誰か?」も聞いた。
3つの選択肢を用意した理由は以下の通り。
(1)来年春で退陣政府・与党は年度内の予算成立を目指す。逆算すれば衆院では2月末頃までに予算案を通過させる必要がある。しかし、少数与党の衆院では野党の協力がなければ実現は難しい。最速では、予算成立をめぐる攻防の中で、石破首相は退陣に追い込まれる可能性がある。
(2)6月末で退陣通常国会は6月22日までの見通しの中、会期末には野党から内閣不信任案の提出が予想される。これまでは否決される事がほとんどだったが、「多数野党」の状況では野党がまとまれば不信任案は可決される可能性がある。その場合、石破首相は総辞職か解散を迫られる。
(3)参院選まで代わらない少数与党国会で、予算審議をめぐる攻防、緊迫が予想される会期末をなんとか乗り切れば、自民党は基本、石破首相を顔として参議院選挙を戦う事になる。厳しい国会を、首相が乗り切るという選択肢。
100人の内訳は、与野党の国会議員それぞれ40人。中堅以上の現役官僚20人。議員は若手から閣僚・党幹部などを幅広く取材。
アンケートの結果は以下の通り。
(1)来年春で退陣:19人
(2)6月末で退陣:17人
(3)参院選まで代わらない:64人
首相が参院選前に退陣すると答えた人は(1)・(2)合わせて36人。「(3)参院選まで代わらない」と答えた人は64人。与党・野党・官僚全てで「参院選まで続投」と答えた人が多かった。
●来年春で退陣と答えた主な声「本気で石破政権を支える人がいない、政権は崩れ始めたら早いだろう」(自民ベテラン議員)「少数与党では予算は通らない。予算成立のためには、首相の首と引き替えになるだろう」(野党幹部)「予算審議は1つでもスキャンダルが出たら終わり、政権は春を越せない」(立憲幹部)
●6月末で退陣と答えた主な声「地元でも参院選を石破さんでは厳しいという声が多い」(自民若手)「自民党は参院選の前に顔をかえて選挙に臨む戦略だろう」(野党幹部)「不信任案が出れば、自民党から造反して賛成が出るかもしれない。そうなれば総辞職だ」(立憲幹部)
●参院選まで代わらないと答えた主な声「維新と国民民主を競わせるようにやっていけば、早期の退陣はないだろう」(首相経験者)「参院選までは生かさず殺さずの状態が続くのでは」(現役閣僚)「野党が連携をとれていない。内閣不信任案も出し切れないのではないか(外務省幹部)」
今回、注目するのは「(3)参院選まで代わらない」と答えた声。詳しく分析すると、与党よりも野党の議員の方が「参院選まで続く」と考えている割合が多かった(野党議員の7割超、与党議員の6割)。本来なら石破首相を退陣に追い込む立場の野党議員が、なぜ首相の続投を望んでいるのか。取材結果の分析から、野党の本音が2つ浮かび上がった。
■野党の本音(1):「石破首相のままで参院選を戦った方が有利」
参院選を見据えた本音について、ある野党幹部は「新しい顔が高市氏や小泉氏になって、大負けするのが一番怖い」と話す。立憲中堅も「石破首相のままできてくれないと困る」と続投を望んだ。刷新感ある「新しい顔」になるより、石破首相のままで参院選を対決したいというのが本音のようだ。
対する与党側。6割が「参院選まで続く」と答えた一方、4割の「交代」を望む声の中には「参院選」を意識した声が多かった。参院選を戦う自民中堅は「石破首相では勢いが足りない」別の自民中堅は「衆議院がいいと言っても参議院が石破首相の続投を許さないだろう。参院選までに総裁選があるのでは」と予想する。さらに、ある幹事長経験者は「首相がそのまま東京都議選・参院選を迎えられるイメージはない」と率直に漏らす。
参院選を意識し、野党側は「石破首相で戦いたい」、自民党側は「別の顔で戦いたい」という本音が取材から浮かび上がった。
■野党の本音(2):「少数与党の中で求められる、野党の戦い方」
「石破総理の首(=退陣)なんていらないし、取りにいかない。まだ野党が総理の首を取りたがっているという前提自体が、いまの国会状況においてナンセンスだ」国会運営を取り仕切るある野党幹部はそう力強く答えた。その人物が続ける「我々の要求を与党にどれだけのませるか、それが問題だ」。
今回の取材で新たに浮かび上がったのは「少数与党国会」での野党の戦略の変化だ。通常、国会で野党は首相退陣を迫ることが多いが、「従来のスタイルは古い」との声が出ている。
臨時国会で野党側は与党側に協力する条件として、自らの政策を受け入れさせ法案に反映させた。立憲民主党は補正予算で「能登の復旧・復興費用1000億円積み増し」を与党側にのませた。国民民主党は「年収103万円の壁の引き上げ」で、日本維新の会は「教育無償化の協議」で与党側と合意した。それぞれの野党が、自らの政策を相手にのませる「果実」を得た形だ。
ある野党幹部も「石破首相には野党の意見を聞くという姿勢もある。内閣不信任案含め、それを見て対応を決める必要がある」と指摘した。少数与党で野党が求めるのは「首相の退陣」でなく「野党の政策の実現」に変わった面もあり、結果として多くの野党議員の「首相が参院選まで続く」という見方に繋がったと言えそうだ。
ポスト石破100人の中で36人が、石破首相は春頃か6月末で退陣すると予想した。その場合「ポスト石破」は一体、誰なのか。
今回トップに立ったのは、林芳正官房長官だった。次点で総裁選でも2位だった高市早苗氏、その後に小泉進次郎氏、小林鷹之氏の2人が続く形となった。他には、茂木敏充氏、加藤勝信氏、岸田文雄氏などの名前も挙がった。
なぜ、林氏を「ポスト石破」と目する人が多いのか。取材の中で目立ったのは、林氏の“ピンチヒッター”としての実力と経験だ。林氏はこれまでも農林水産大臣、外務大臣、官房長官を歴任しているが、前任者の突然の辞任などで緊急登板したものである。ある自民党の閣僚経験者は「毒にも薬にもなる。世論は沸かないかもしれないが、党内をまとめる力がある」と、経験と実力のある林氏の「幅広さ」に太鼓判を押す。官僚からも「そつなくこなせそうだ(防衛省幹部)」などの声があった。
一方、総裁選で2位だった高市早苗氏には、近い議員から「春に総裁選があると見越して準備している(自民中堅)」など推す声が出た。そして野党側からも「知名度もあり、女性初の首相として選挙に勢いを持たせようとするのではないか」(立憲ベテラン)などの見方があり、野党の中で最も声が多かった「ポスト石破」となった。一方で、与野党から「保守によりすぎることで選挙には不利になるのではないか」という声も聞こえた。
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30年ぶりとなる少数与党国会で、石破政権はどのようにして次々訪れる難局を乗り切るのか。そして野党は、参院選を見据えてどのように石破政権と対峙していくのか。「嵐の前の静けさ」ともいえる年末年始の小休止を経て、通常国会は1月24日にもスタートする。