奪われた娘の命 タイに通い続ける父親が手記「どんな思いで息絶えていったのか…」
タイ北部の観光地スコタイで2007年、ひとりで旅をしていた川下智子さん(当時27歳)が何者かに殺害された。「どんな思いで息絶えていったのかと、いつも思う」。命日を迎え時効まで3年を切った12月、父親の康明さん(76歳)がNNNに手記を寄せた。
■「心で毎年のように叫ぶ、そこには行くな!と」
2007年11月25日、スコタイの寺院遺跡「ワット・サパーンヒン」の近くで、大阪市出身の川下智子さんの遺体が見つかった。死因は首などを刺されたことによる失血死。現地警察は強盗目的の犯行とみて捜査しているが、容疑者の特定には至っていない。
父親の康明さんは12月、NNNに手記を寄せた。手記の冒頭で康明さんは、こうつづった。「また命日が巡ってきた。17年になる、時効まであと3年となる日だ。しかし、いつものように11月3日からこの旅は始まる」
“11月3日”は、智子さんがタイとラオスをめぐる旅行に出発した日であり、康明さんが娘と言葉を交わした最後の日でもある。
手記には「4日はアユタヤに到着」「16日はラオスに入国。ここはネット事情が悪く、なかなか連絡が入ってこない」と、日付とともに智子さんの旅程が詳しく書かれている。
「24日にはタイのスコタイのロイクラトンに行くとのこと。(私は心の中で毎年のように叫ぶ、そこには行くな!と)」。――かっこ書きされた、父親としての心情。「(もういいから、そこには行かずまっすぐ帰って来い)」
康明さんは毎年、命日が近づく11月の一日一日を、行き場のない思いを抱えながら過ごしている。
■「時効の撤廃」訴える遺族
康明さんは事件の後、何度もスコタイを訪れている。訪問は2024年で10回となった。捜査状況を知りたいと、現地の警察署にも出向く。
タイでの「殺人罪の時効20年」まで、あと3年。康明さんはタイの法相にも面会し、事件の早期解決と時効の撤廃を訴えた。
大事にしているのは“人のつながり”だ。当時の取材に康明さんは「人間関係を築かなければ、(事件は)すぐに忘れ去られてしまうと思っている。体にむち打って頑張らないといけない」と答えている。
康明さんにとって「癒しだった」という娘の智子さん。なぜ命を奪われなければいけなかったのか。逃げ得は許さないとの思いで、時効撤廃に向け、今後タイで署名活動を行うことも検討している。
2024年の命日。東京では智子さんの友人たちが偲ぶ会を開いた。大阪の自宅には多くの花が届き、6人がお参りに訪れたという。
康明さんは最後に記している。「どんな思いで息絶えていったのかと、毎年、そしていつも思う。こんな思いを他の人が経験することの無い世の中になってくれればと、いつも思う」。