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緊張緩和を探る?米中両首脳の思惑とは

2022年7月5日 21:48
緊張緩和を探る?米中両首脳の思惑とは
2022年6月29日「深層NEWS」より

人権や台湾問題で対立が続くアメリカと中国。水面下で緊張緩和ともとれる動きを見せているとの見方も。

6月29日放送のBS日テレ「深層NEWS」では笹川平和財団上席研究員渡部恒雄さん、九州大学准教授益尾知佐子さんをゲストに、国内情勢を見据え"歩み寄り"を模索する両首脳の思惑に迫りました。

■中国の人権問題めぐりアメリカで新法施行

右松健太キャスター
「バイデン政権は新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐって、中国への圧力を強める法律を施行しました」

笹崎里菜アナ
「『ウイグル強制労働防止法』が施行された意義は何でしょうか?」

渡部恒雄氏
「人権問題に関して、今までアメリカが中国に対してちょっと甘すぎたという反省が長年あります」
「クリントン政権時代にそれまで最恵国待遇という通商の特権を、一年ごとに人権状況をみながら見直していたのを、いつの間にかやめてしまった。その後に人権状況が良くなるならいいのですが、むしろ新疆ウイグル自治区の人権侵害は深刻なので、アメリカの政権は批判されてきました」
「特にバイデン政権は民主党政権なので人権派が多い。アピールするという点では非常に国内的には意味があります」

右松キャスター
「"新疆ウイグル自治区で生産されたすべての原材料や製品は強制労働によってつくられたとみなす"というようなこの法律を、中国側はどのように受け止めているとみていますか?」

益尾知佐子氏
「中国側はアメリカが中国に汚名を着せるために作りあげたフェイクニュースによって、この法律ができたと考えています」
「中国側としては『今まで自分たちは正しいウイグル政策を行ってきた』というのが政府の建前ですから、非常に強く反発しています」

右松キャスター
「企業側としては『強制労働がなかったことを示す証拠』や『ウイグル産の原材料が加わっているか』を示す難易度は非常に高いと思うのですが、アメリカ国内でも反発は?」

渡部氏
「ウイグル自治区で作られた製品がアメリカにとって圧倒的に大事なものかというと、そうでもないので、全体としては変わらずアメリカは中国と貿易も投資もする。その中で目に見える政治的に問題のあるものに圧力をかけ、中国国内の人権について行動を変えてもらう、そのためにやれることはやるんだという発想だと思います」

■緊張緩和?米中首脳会談への思惑

右松キャスター
「人権や台湾問題などで対立している米中両国ですが、秋にはアメリカでは中間選挙、中国では共産党大会と、国内の重要な政治イベントが予定されていて、できれば両首脳としては、緊張緩和をしたいと探る動きが起きています」

笹崎アナ
「この時期に米中首脳会談が開催される見通しについては、どう見ていますか?」

渡部氏
「緊張が高まるからこそコミュニケーションが大事という発想もありますし、中国はロシアに対して軍事援助しないようにとアメリカは厳しく釘を刺していて、一応、中国は守っているわけです」
「経済を良くしたい、緊張もある程度緩和したい、だからといって中国とアメリカがずっと手を握れるような状況にはないので、厳しい注文もつけながら、対話を続けていくという基本姿勢だと思います」

右松キャスター
「習近平国家主席からすると、秋の党大会を控えて米中会談を行うメリットは?」

益尾氏
「非常に大きいと思います」
「中国は外交・安全保障という分野は基本的に最高指導者の管轄です。これがうまくできないと最高指導者として素質がないとみなされるわけです」
「習近平国家主席は3期目を狙っていますし、コロナ対策等で国内からも反対の声が高まっている状況ですので、アメリカと対話をして自分が米中関係をハンドリングできるのだということを国民に示す必要性は高いと思います」

右松キャスター
「関税を引き下げるというところに踏み込んだ、バイデン大統領の狙いをどう見ていますか?」

渡部氏
「関税を下げれば、その分、通商貿易量が増えますから、当然アメリカ経済も潤うし、潤う企業も増えますから経済面では悪いことではありません」
「トランプ前政権が一方的に関税を課したので、バイデン政権になったら下がるのではと中国側も期待していたと思いますが下げなかった。なぜ下げなかったか、それは中国側との交渉の余地を残したわけです。まさにそれを今、バイデン大統領は交渉しようと思っているのではないでしょうか」

渡部氏
「あともう一つは忘れてはいけないのは、アメリカ国内のインフレで有権者の中で非常に不満がたまっています」
「このまま放っておくと、11月の中間選挙で民主党が勝てるとは思ってないかもしれませんが、大負けしないように何とかしたいと思っているでしょう」

右松キャスター
「対中制裁関税の見直し、習近平国家主席はどう受け止めていると見ていますか?」

益尾氏
「習近平国家主席は『経済はオープンでなければならない』ということを重ねて表明しているので、これを嫌だということは非常に言いにくいのです」
「中国国内における習主席をめぐる環境を想像してみると、政府内にはアメリカとの融和を主張する勢力というのもあります」
「中国経済も今あまり良い状況にはないですから、アメリカがそういうカードを出してくれば、反対はしづらいということになると思います」
「ただ、習近平国家主席が既にアメリカに抱えてしまっている猜疑心というのは、なかなかすぐに消えるような状況でもないと思います」

右松キャスター
「中国はゼロコロナ政策の影響で経済が悪化しています。国民の不満の広がりをどう見ていますか?」

益尾氏
「中国の私の友人たちも言ってくるのですが、『これは政権による人権侵害である』というような見方が非常に強まっています」
「今まで"ウイグル人がいじめられている"と言っても、あんまりピンときてなかった。ところが『共産党というのは、いきなり人を犯罪者のように家の中に閉じ込めて、2か月以上も監禁するということができてしまう政権なのだ』と。やはり自分の身に起きたことですので」
「ゼロコロナ政策は政権への不満の温床になってしまっているところはあると思います」

右松キャスター
「国内に溜まっている不満を抜かなければという時に、アメリカとの貿易関税引き下げを習主席が拠り所にせざるを得ない?」

益尾氏
「習主席自身は、おそらくそこまでアメリカとの大きな改善は望んでいないのです。ただ、習氏に反対する勢力の声自体は相当強まってきています」
「習氏に対してもっと経済政策をうまくやれ、であるとか、そんなにロシアの肩ばかり持って世界と対立するなとか、世論の圧力というのは、徐々に生じてきていると思います」

右松キャスター
「先月、アメリカのブリンケン国務長官が行った対中政策演説が注目されているといいます」

飯塚恵子 読売新聞編集委員
「このブリンケン氏の演説は、もちろん全体としては中国に非常に厳しい態度を打ち出しているのですが、これまでとトーンの変化を感じます。それは中国人の自尊心をくすぐる表現があちこちにちりばめてあるのです」
「これまでのブリンケン氏は、民主主義や法の支配に反して危険な存在、競争相手という批判がてんこ盛りだったのですが、今回の演説は中国が世界秩序を変える力を持つ唯一の国なんだと」
「世界の今後というのは基本的には米中が決めていくと。事実上、2大大国の世界になっているということを認めているのです」
「これはオバマ政権の初期に、習近平国家主席が提案した『G2』の世界です。米中2極体制というふうに言われていました。このときは、オバマ氏はちょっと乗りかけたのですが、皆に『だめだ』と言われて、この案に乗らなかったのです」
「しかしブリンケン氏が言った話は、はっきり言ってもう『G2』体制を認めていると思うのです。これに中国人は実は喜んでいると思います」

益尾氏
「それは間違いないと思います。中国では非常に大きな話題になり、誰かがテープ起こしをして、それを中国語にすぐ訳しSNSで拡散したようなのです」
「それが中国の知識人を中心にだと思いますが、すごい勢いで広がって大絶賛されていたと聞いています」
「というのもこのブリンケン氏が演説の中で、米中対立の要因を非常に明確化したわけです」
「我々は中国の人民を敵視しているのではないと。人民と政府の間に線引きをして、今の中国政府の政策は、外に対して非常にアグレッシブで、自国の人民に対して非常に抑圧的。この政策に反対しているんだということを言ったわけです」
「それが上海で封鎖されているような人たちの心に刺さりまくったという、習主席からすると非常に恐ろしい演説だったと思います」

右松キャスター
「ブリンケン国務長官の演説のアメリカとしての狙いは?」

渡部氏
「もうアメリカは『G2』に戻れないし、かつてのような関与政策に戻らない、競争が確定したからこそ逆にあまりにも過激にいかないように、ソフトに戻すなど、そういうことができるようになった。逆に自由度があるわけです」
「アメリカは中国にどういう態度をとるのか決まらない時にこのような演説すると、アメリカ国内から叩かれたと思います。しかしもう競争が決定しているから、その中で逆にこういうことができるようになったという不思議な話なのです」

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